この動きは世界の核保有国の勢力バランスを変えるものになるのか、「スプートニク」は、軍事専門家にお話を伺った。中国で建設が確認されたミサイル発射施設は、ほかでもない核の運搬を目的とした長距離ミサイルを配備するのに用いられるものである。
核兵器の保有数上位の米国とロシア
この数十年(冷戦以降)で、世界の核弾頭数は大幅に削減された。過去最高だった1986年には70,300発だったのが、2021年初頭には13,100発となった。
核兵器と国際安全保障政策の研究を行う分析センター、米国科学者連盟(FAS)の統計によれば、世界のすべての核弾頭の91%を保有しているのがロシアと米国である。それぞれ、およそ4,000発を戦略的に保有している。
歴史学博士で、東洋大学教授、大阪経済法科大学客員教授のアナトリー・コーシキン氏は、この数字は他の核保有国(英国、仏、イスラエル、インド、パキスタンを含め)とはまったく比較にならないものだと指摘する。また中国が、米国・ロシアに大きく遅れをとっていることも明らかだという。
核大国の勢力図はまだ中国有利ではない
中国は今、世界で3番目の核大国ではあるものの、その保有数はわずか350発である。そこで、自国が保有するミサイル(核弾頭が搭載されている可能性もある)を発射するための施設を増やしたいという中国の意向は論理的で根拠のあるものだとコーシキン氏は指摘する。
米国務省のネッド・プライス報道官は、米政府は、中国が核戦力を増強しているという情報に懸念していることを明らかにした。またニューヨークタイムズ紙は、プライス報道官が、米政権は核のリスクを低減するための実際的な措置を講ずるよう呼びかけていると強調したと伝えている。
しかしながら、今回の中国の行動は、露米による軍備管理協議への参加に向けた準備である可能性もある。というのも、核戦力を増強することにより、世界の新たな戦略的安定性の確立に向けた自国の立場を強化する可能性があるからである。
事実、米政権はすでに何年にもわたって、中国に対し、短・中距離ミサイル削減に向けた協議に参加するよう呼びかけているが、アナトリー・コーシキン氏は、中国がそれに応じる可能性は低いと強調する。
「中国は短・中距離核戦力の削減に向けた枠組みへの参加を拒否しています。長距離ミサイルの保有量でロシアと米国に大きく水を開けられている中国にとって、これはまったく無益だからです。そこで中国はまずロシアと米国が自国の核戦力を大規模に削減するよう求めています。露米がそれに応じた場合に限り、中国は協議への参加を呼びかける米国の提案を検討しても良いとしています。なぜ米国が、英国、フランス、イスラエル、インド、パキスタンなどには何も言わず、中国に対してのみそのような態度を示すのかは分かりません。今挙げた国々も核を保有しており、戦略兵器管理協議にはこれらの国も参加すべきなのです。ですから、米国がこの問題で大きな進展を得たいなら、中国だけでなく、これらの国々も協議の席に着かせるべきなのです」。
「今、軍備において重要なのは数だけではなく、その質です。ですから、中国が大陸間弾道ミサイルのための発射施設を今後、どれほど多く建設するかというのは重要ではありません。重要なのは、そこに核兵器はもちろん、近代的な誘導爆弾を装備することができるということです。新たに建設されている発射基地は、より重要なものから米国の注意を逸らすためのカムフラージュに過ぎない可能性も十分にあります。しかし米国は、韓国や日本にミサイル防衛システムを配備することで、自ら中国に最新の戦略兵器の増強を扇動しています。実際、中国が精力的に核戦力の増強を図っていることを考慮すれば、世界のパワーバランスが『動く』可能性はあります」。
ちなみに、軍事力を拡大しているのは中国だけではない。核兵器を保有するすべての国が、現在保有する核兵器の改良を続け、新たな戦力を加え、それらの役割を高めている。しかも、各国が保有する核兵器の正確な数は国家機密となっている。