モスクワ唯一の書道家石嶋かおりさん
50歳記念書展に日本文化を愛するロシア人が集結
モスクワで活躍する書道家・石嶋かおりさん(雅号・圭香)の書展 「五十にして天命を知る」が、モスクワ第一東洋美術ギャラリーで11月30日まで開催中だ。開会セレモニーには日本文化に造詣の深いロシア人が集まり、書展の開催を祝った。石嶋さんはモスクワに移住した13年前から書道の普及に貢献し、今では日本文化イベントに欠かせない存在となっている。

文 ・写真 徳山あすか
写真協力 Alexander Dvoriankin・Egor Melikhov
Tatiana Naumova・Yurii Yakimov
モスクワで活躍する書道家・石嶋かおりさん(雅号・圭香)の書展 「五十にして天命を知る」が、モスクワ第一東洋美術ギャラリーで11月30日まで開催中だ。開会セレモニーには日本文化に造詣の深いロシア人が集まり、書展の開催を祝った。石嶋さんはモスクワに移住した13年前から書道の普及に貢献し、今では日本文化イベントに欠かせない存在となっている。

文 ・写真 徳山あすか
写真協力 Alexander Dvoriankin・Egor Melikhov
Tatiana Naumova・Yurii Yakimov
書展は、43年間の書道人生の一つの区切りとして開催するもので、学生時代から現在に至るまでの様々なスタイルの書道作品のほか、石嶋さんが愛してやまないロシアのキャラクター「チェブラーシカ」をモチーフにした趣味の墨絵など計50点が展示されている。もともとチェコ・プラハで書道を教えていた石嶋さん。夫の仕事の都合でモスクワに移住してからは、日本人だけでなく、書道をやりたいというロシア人の輪がどんどん口コミで広がり、多くの人が長期に渡って熱心に稽古を続けている。
ロシア人にとって書道の魅力とは
石嶋さんの門下生2人に話を聞いた。自分の名前を漢字で書きたいと思って書道を始めたエカテリーナさん(写真右)。もう8年も通っている。「書道をやっていると、自分の内側の力が開花していくような感覚があります。日本の教材を使って、日本人や世界中の書道をやっている人と同じ課題に取り組むことで、やる気がわきます。コンクールに参加したり、日本に作品を送って雑誌に載ったりすると、上達を実感できて嬉しいです。」

3年間通っているアンジェラさん(写真左)は、趣味で水墨画を描いている。最初は中国の書道を習っていたが、石嶋さんの指導が気に入って、移ってきた。「書道をやっているときは、全てを忘れて集中でき、瞑想にも似ています。かおり先生の指導はとても真剣で、厳しく、注意深い。私たちのために、できるだけ多くのものを与えよう、としてくれているのがわかります。」
日本文化を敬愛しているロシア人がたくさんいることを知ってほしい
会場には、石嶋さんに墨絵を指導した水墨画家のナタリア・べズヴリャクさん、会場の花を生けてくれた華道・茶道師範のウラーナ・クウラルさん、プーシキン美術館学芸員でかつて展覧会「樂-茶碗の中の宇宙」を大成功に導き、外務大臣表彰を受けたアイヌーラ・ユスポワさんなど、ロシアにおける日本文化の第一人者が集まった。

石嶋さんは「日本文化に精通したロシア人が大勢いることが、心から嬉しいです。単なる日本好きではなく、それぞれの人が非常に高度な知識、技術を持っています。そんなロシア人たちと一緒に、展覧会を実りあるものにしたい」と言う。会期中には手毬や風呂敷のワークショップも開催される。どの回も予約でいっぱいだ。
2017年、夫の転職が決まり、ロシアを離れるつもりだった石嶋さん。しかし2018年に日露交流年が開催されることになり、周囲から引き止められた。2018年はたまたまロシア生活10年の区切りでもあり、「交流年の仕事をやりきろう」とモスクワに残った。その後、夫の仕事の都合やコロナ禍が重なり、「不思議な縁」が続いて今もモスクワにとどまっている。夫と離れて暮らすようになってから、生活の様々なシーンで、生徒のみならず、周りのロシア人がより支えてくれるようになった。日本から取り寄せる書道道具運びに車を出してくれたり、税関がうるさい国際郵便局に付き添ってくれたりする。石嶋さんは「本当にみんなが助けてくれる、それがあるから、ここにいられる」と感謝する。
今年、2つの栄誉ある賞を受賞した。国際墨友会(小林東雲会長)が主催する「美は国境を超えて2021」において外務大臣賞を受賞。石嶋さんは「作品に対する賞というより、ロシアで活動していること、生徒たちの努力も含めて総合的に評価して頂いた」と話す。受賞作品がコロナ禍のためなかなかモスクワに届かずやきもきしたが、会期半ばになってようやく到着した。

また、書道を通じた日露の相互理解と友好親善への貢献が評価され、上月豊久駐ロシア大使から在外公館長表彰を受けた。実は普段、大使館の感謝状から日本人学校の卒業証書に至るまで、全てを揮毫(きごう)している石嶋さん。自分宛の表彰状を自分で書くことになり、事前に受賞を知ってしまった。しかしもちろん、喜びに変わりはない。

いつまでモスクワに残るか決めていない。離れる時は「きっと泣いちゃう」
石嶋さんはこの数年、「かおり先生の指導は厳しいらしいですね」と声をかけられる機会が増えた、と苦笑する。「いつモスクワを離れるかもしれない、と思うと、ついあれもこれも詰め込んで教えてしまいます。10年以上続けている人もいて、レベルがとても上がっているので、お互いに真剣です。」

次なる目標は、合同展覧会の開催だ。「今回はコロナの影響で大規模な会場を借りるのが難しく、個展になりましたが、コロナが落ち着いたら、来年か再来年には生徒と合同展をやりたい。みんなと一緒にやれることに、大きな意味があると思います。」2018年にも合同展を行ない、門下生に一点ずつ作品を出してもらった。ロシア人はとても積極的で創作意欲があり、書道を始めて間もない人も作品を出したがる。

門下生のエカテリーナさんは笑う。「かおり先生は自分の仕事の世界に没頭している人だから、指導が厳しくて真剣なのは当たり前です。彼女はインスピレーションを与えてくれる存在で、書道の先生というだけでなくオーガナイザーでもあります。小柄なのにどこからそんなエネルギーが出てくるのかと思うほど、私たちはみんな、かおり先生のパワーに引き寄せられています。」

© 徳山 あすか / スプートニク日本

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