https://sputniknews.jp/20220502/11005251.html
日本は先制攻撃することができるのか? 防衛に関する提言をめぐる論争
日本は先制攻撃することができるのか? 防衛に関する提言をめぐる論争
Sputnik 日本
日本の元防衛大臣である自民党の小野寺五典安全保障調査会長率いる特別委員会は、2022年4月21日、岸田文雄首相に提出するため、日本を攻撃する他国のミサイル発射拠点に打撃を加える「反撃能力」の保有を求める提言書をとりまとめた。現在の世界情勢は、どのように日本の国防戦略に影響を与えたのか。「スプートニク」がまとめた。 2022年5月2日, Sputnik 日本
2022-05-02T17:15+0900
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この提言は激しい議論を呼び起こした。とりわけ、日本の自衛隊が敵国領土の軍事基地や施設に打撃を加えることを許可するという提案が論争の的となっている。しかも対象は、ミサイル基地だけでなく、指揮統制機能等も含むとなっている。自民党が国家安全保障戦略の改訂版に含めようとしているこの提言をめぐる議論は、かなり白熱したものとなっている。主な議論はそうした打撃についての日本の権利に関するものである。つまり、この提言は日本国憲法に抵触するのではないかという問題をめぐる議論である。さらに別の問題がある。それは、日本が敵国領土の基地に対し、そのような攻撃を行うことが技術的に可能なのかどうかということである。またそのような攻撃が可能だとして、それがどれほど有効なものになるのだろうか。日本の軍事力について敵国領土の内部にある施設に攻撃を行うために使用することができる日本の軍備は非常に限定されている。日本は弾道ミサイルを保有していない。自国製の巡航ミサイルもない。自衛隊の陸上自衛隊、海上自衛隊には、地上の目標物を攻撃するこ能力を持つ複数のタイプの対艦ミサイルが装備されている。しかしながら、そのほとんどは射程が短い。最新型の対艦ミサイルである12式地対艦誘導弾の射程は、陸上発射型で約200キロ、海上発射型(17式地対艦誘導弾の改良型)で400キロとなっている。そしてこれを基に、射程最大1500キロのミサイルが開発されている。軍事関連メディアが公表しているところによれば、改良に向けた作業は今も続けられており、12式地対艦誘導弾をF–2戦闘機に適応させるための開発が進んでいるという。しかし、この改良型のミサイルが部隊に配備されたというニュースは伝えられていない。先行の90式の射程は150キロ日本には空対艦ミサイルもある。最新型のASM–3(別称93式)は射程が170キロである。先行機のASM–1(別称80式)の射程は最大50キロであった。つまり、陸上発射型は適していないことになる。なぜなら、敵国の領土はその射程をはるかに超えた場所に位置しているからである。93式空対艦ミサイルはそれよりは良いが、三菱のF–2戦闘機の戦闘行動半径は833キロである。日本の最も西に位置する航空基地からだと中国の沿岸部までしか届かない。理論的には、このミサイルでは、海から200キロほどの沿岸の目標物にしか命中させることができず、中国の攻撃目標のほとんどはその範囲外ということになる。わずか44基の巡航ミサイル日本の防衛省は自衛隊の能力が限定的であることを認めている。そこで、防衛省は、米国製の長距離空対艦ミサイルAGM-158C LRASMの購入を計画していた。しかし、2021年に購入を断念している。その理由はまず第一に高価だったことである。その値段は、5500億円(50億ドル)、つまり米海軍への発注に1基当たり340万ドルもするのである。次に、米国はこのミサイルを多くは製造しておらず、その数はわずか76基しかないということである。そこで別の案が浮上した。2020年12月、防衛省は、ノルウェーのコングスベルグ・ディフェンス&エアロスペース社との間で、対艦/対地/巡航ミサイル、ジョイントストライクミサイルを8億2000万ノルウェー・クローネ(およそ120億円)で購入するとした契約を結んだ。複数の情報によれば、契約は進められているといい、2022年3月に最初の納品が行われるという報道もあった。ジョイントストライクミサイルは地上の目標物を攻撃できる対艦ミサイルである。標準の射程は185キロであるが、航空機から発射した場合には高度や飛行プロファイルによって555キロまで延びる。ミサイル1基の値段は210万ドル(2億7300万円)で、日本はF−35に搭載するため、このタイプのミサイルを44基購入する。しかし、これは驚くべきことである。なぜなら、まず、巡航ミサイルは、対空ミサイルシステムや対空砲によって簡単に撃墜されるからである。次に、軍事作戦においては、数十、数百の巡航ミサイルが必要となるからである。たとえば、1999年のユーゴ空爆の際にはトマホーク218基、イラク侵攻の際には802基、2011年のリビア内戦の際には124基が使用された。これほどの数が必要となる理由は、重要な軍事目標物が多かったからである。しかし、中国にはそのような拠点は数千にのぼる可能性がある。そして最後に、中国、あるいは北朝鮮はおそらく、重要な指揮通信拠点を地下壕に配備しており、ノルウェーのミサイルでは破壊することなどできないだろう。つまり、事実上、日本には指揮・通信拠点に最初の攻撃を行うことはできないということになる。ノルウェーのミサイルを用いても、数十の攻撃しか成功させることができず、それで敵の軍事インフラを壊滅することはできない。概して、わずか44基の巡航ミサイルを調達することで、中国や北朝鮮といった日本の敵となりうる国に最初の打撃を加えることについて議論を始めることは、無謀であると言うしかないだろう。
https://sputniknews.jp/20220323/10425104.html
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日本は先制攻撃することができるのか? 防衛に関する提言をめぐる論争
日本の元防衛大臣である自民党の小野寺五典安全保障調査会長率いる特別委員会は、2022年4月21日、岸田文雄首相に提出するため、日本を攻撃する他国のミサイル発射拠点に打撃を加える「反撃能力」の保有を求める提言書をとりまとめた。現在の世界情勢は、どのように日本の国防戦略に影響を与えたのか。「スプートニク」がまとめた。
この
提言は激しい議論を呼び起こした。とりわけ、日本の自衛隊が敵国領土の軍事基地や施設に打撃を加えることを許可するという提案が論争の的となっている。しかも対象は、ミサイル基地だけでなく、指揮統制機能等も含むとなっている。
自民党が国家安全保障戦略の改訂版に含めようとしているこの提言をめぐる議論は、かなり白熱したものとなっている。主な議論はそうした打撃についての日本の権利に関するものである。つまり、この提言は日本国憲法に抵触するのではないかという問題をめぐる議論である。
さらに別の問題がある。それは、日本が敵国領土の基地に対し、そのような攻撃を行うことが技術的に可能なのかどうかということである。またそのような攻撃が可能だとして、それがどれほど有効なものになるのだろうか。
敵国領土の内部にある施設に攻撃を行うために使用することができる日本の軍備は非常に限定されている。
日本は弾道ミサイルを保有していない。自国製の巡航ミサイルもない。
自衛隊の陸上自衛隊、海上自衛隊には、地上の目標物を攻撃するこ能力を持つ複数のタイプの対艦ミサイルが装備されている。しかしながら、そのほとんどは射程が短い。
最新型の対艦ミサイルである
12式地対艦誘導弾の射程は、陸上発射型で約200キロ、海上発射型(17式地対艦誘導弾の改良型)で400キロとなっている。そしてこれを基に、射程最大1500キロのミサイルが開発されている。
軍事関連メディアが公表しているところによれば、
改良に向けた作業は今も続けられており、12式地対艦誘導弾をF–2戦闘機に適応させるための開発が進んでいるという。しかし、この改良型のミサイルが部隊に配備されたというニュースは伝えられていない。
日本には空対艦ミサイルもある。最新型のASM–3(別称93式)は射程が170キロである。先行機のASM–1(別称80式)の射程は最大50キロであった。
つまり、陸上発射型は適していないことになる。なぜなら、敵国の領土はその射程をはるかに超えた場所に位置しているからである。93式空対艦ミサイルはそれよりは良いが、三菱のF–2戦闘機の戦闘行動半径は833キロである。日本の最も西に位置する航空基地からだと中国の沿岸部までしか届かない。理論的には、このミサイルでは、海から200キロほどの沿岸の目標物にしか命中させることができず、中国の攻撃目標のほとんどはその範囲外ということになる。
日本の防衛省は自衛隊の能力が限定的であることを認めている。そこで、防衛省は、米国製の長距離空対艦ミサイルAGM-158C LRASMの購入を計画していた。しかし、2021年に購入を断念している。
その理由はまず第一に高価だったことである。その値段は、5500億円(50億ドル)、つまり米海軍への発注に1基当たり340万ドルもするのである。
次に、米国はこのミサイルを多くは製造しておらず、その数はわずか76基しかないということである。
そこで別の案が浮上した。2020年12月、防衛省は、ノルウェーのコングスベルグ・ディフェンス&エアロスペース社との間で、対艦/対地/巡航ミサイル、ジョイントストライクミサイルを8億2000万ノルウェー・クローネ(およそ120億円)で購入するとした
契約を結んだ。複数の情報によれば、契約は進められているといい、2022年3月に最初の納品が行われるという報道もあった。
ジョイントストライクミサイルは地上の目標物を攻撃できる対艦ミサイルである。標準の射程は185キロであるが、航空機から発射した場合には高度や飛行プロファイルによって555キロまで延びる。
ミサイル1基の値段は210万ドル(2億7300万円)で、日本はF−35に搭載するため、このタイプのミサイルを44基購入する。しかし、これは驚くべきことである。
なぜなら、まず、巡航ミサイルは、対空ミサイルシステムや対空砲によって簡単に撃墜されるからである。
次に、軍事作戦においては、数十、数百の巡航ミサイルが必要となるからである。たとえば、1999年のユーゴ空爆の際にはトマホーク218基、イラク侵攻の際には802基、2011年のリビア内戦の際には124基が使用された。これほどの数が必要となる理由は、重要な軍事目標物が多かったからである。しかし、中国にはそのような拠点は数千にのぼる可能性がある。
そして最後に、中国、あるいは北朝鮮はおそらく、重要な指揮通信拠点を地下壕に配備しており、ノルウェーのミサイルでは破壊することなどできないだろう。
つまり、事実上、日本には指揮・通信拠点に最初の攻撃を行うことはできないということになる。ノルウェーのミサイルを用いても、数十の攻撃しか成功させることができず、それで敵の軍事インフラを壊滅することはできない。
概して、わずか44基の巡航ミサイルを調達することで、中国や北朝鮮といった日本の敵となりうる国に最初の打撃を加えることについて議論を始めることは、無謀であると言うしかないだろう。