指揮者・志村健一さん、万難を排しロシア訪問 アニメ&ゲーム・シンフォニーにロシアのファン歓喜
2022年6月6日, 21:00 (更新: 2022年6月6日, 21:04)
© 写真 : Siergie jeviez_FOTO志村健一さん
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サイン
5月22日から30日にかけて、ロシアのヴォロネジ・モスクワ・サンクトペテルブルクの3都市でアニメとゲーム音楽のコンサート「ANIME&GAME SYMPHONY」が開催され、指揮者の志村健一さんが各地を巡った。志村さんはプロジェクト発起人としてロシア各地のオーケストラと組みながら、これまで100回近くコンサートを開催してきた。会場は待ち望んだファンであふれ、大盛り上がりを見せた。日露関係が冷え込む厳しい状況の中、なぜロシア行きを決意したのか、志村さんにコンサートに対する思いを聞いた。
志村さんとロシアとの縁は深い。指揮者としての技量を更に高めるため、サンクトペテルブルクのマリインスキー・オーケストラをはじめ、様々なマスタークラスを受講してきた。2014年、ロシア側から提案を受け、志村さんが日本で取り組み始めていたアニメとゲーム音楽のコンサート活動をロシアでも開始した。最初はシベリアでの開催から始まり、知名度が上がるとともに、西はカリーニングラードから東はウラジオストクまで、全国ツアーを行うようになった。
そうして出会ってきたオーケストラのひとつ、南ウラルシンフォニーオーケストラでは、主席客演指揮者に就任した。
「日本でもヨーロッパでも同じですが、若い人たちはオーケストラという文化から離れてきています。アニメやゲームのプログラムを組むことで、若者がコンサートをより楽しめるようにし、次世代のファンを作る。そういう役割を期待されていると思うので、創造的な、今までにないチャレンジをしていきたいです。」
© 写真 : Kenichi Shimura終演後、一体となった会場
終演後、一体となった会場
© 写真 : Kenichi Shimura
ANIME&GAME SYMPHONYは、第一回から通う人や、同じ都市で複数回の公演に全部参加する人など、リピーターが多いのが特徴だ。それだけにプログラムは日々アップデートされており、ロシアで流行っているアニメやゲームを調べ、権利関係をクリアして、できるだけ反映する。ゲーム音楽ともなると、コンピューター内部で作られただけのものもある。それをオーケストラで演奏できるようにアレンジしてリメイクするのも、志村さんの仕事だ。音楽としての全体的な芸術性を高めることで、その曲の素晴らしさを再発見してもらうことができる。
コンサートをさらに華やかにするのはアニメ主題歌を日本語で完璧に歌いこなすボーカルトリオ「HELL JAYS」だ。筆者がモスクワ会場を訪れた5月29日には岡田真由子さんもゲスト出演し「千と千尋の神隠し」や「天空の城ラピュタ」より、澄んだ歌声を披露した。
プログラムは多彩で、ファイナルファンタジーシリーズや、「東京喰種トーキョーグール」「鬼滅の刃」「NARUTO-ナルト-」など国境を超えて愛されるアニメから、クライマックスにかけてロシアで特に人気がある「進撃の巨人」で大盛り上がり。この日はロシアで初めてテレビ放送されたアニメ「セーラームーン」で、フィナーレを迎えた。終演後にはサインや記念撮影を求める人の行列が後を絶たなかった。
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現在、政治的状況から、ロシアを訪れる日本の文化人はほぼ皆無な上、ビザ取得も容易ではない。周囲の人々から心配や反対の声もあった。しかし志村さんは、ただでさえコロナで長期間ロシアに来れなかったこともあり、今までのつながりを大切にしたいとの思いで訪露を決意し、万難を排して実現できた。
「10年近く定期的に来て、続けてきたコンサートです。もし長期化して5年、10年と来れなくなったらこれまでの積み重ねもゼロになってしまいます。だから、チャンスがあれば、ビザさえおりれば行きたい、という気持ちでした。来たら皆さん、すごく喜んでくださる。芸術は、政治的なことに関わらず、継続してやっていきたいと思います。」
モスクワ会場を訪れた人に感想を聞いてみた。日本文化が好きで日本文化フェスティバルに通っているアレクサンドルさんは「演奏が心に響いて、心にしみいるような感覚がありました」と話してくれた。友達10人と来たIT技術者のロマンさんは「まどか☆マギカが大好きで、男性にも人気です。演奏してくれて嬉しかった」と言う。日本語教師のアンナさんはiPadケースにサインをもらってご満悦の様子。中には「実はアニメにもゲームにも関心がなくて妻に無理やり連れて来られたけど、必ずまた来ます。会場の雰囲気がこんなに楽しいコンサートは初めて」という人もいた。
志村さんは近日中にシベリアツアー、秋にはロシア全国ツアーを予定するなど、日露を往復し精力的に活動を続けるつもりだ。「ゆくゆくは、アニメやゲーム音楽にとどまらず、ロシアで知られていない日本の素晴らしい音楽も紹介したい」と意欲を燃やしている。
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