「ロシア人を薬物に溺れさせる」 ウクライナはどのようにしてハイブリッド戦争を開始したのか
2022年6月8日, 16:01 (更新: 2022年6月8日, 21:01)
© Sputnik / Sergei Venyavskiy
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8年前のマイダン革命後、ロシアにデザイナードラッグやアンフェタミンのような薬物が流れ込んだ。合成麻薬は90年代のヘロインと同じように人気となった。主にウクライナ人で構成されたグループ「ヒム・プロム」は、1週間に最大0.5トンの「合成物」をロシアの各地域に送った。このようにしてウクライナは内部からロシアを破壊する戦争を開始した。この干渉の痕跡は、ウクライナ保安庁につながる。
2017年、ロシアの治安機関は「ヒム・プロム」を一掃した。「合成物」を製造するこの大規模なシンジケートの年間売上高は、約20億ルーブル(約43億8500万円)だった。発達した流通ネットワークを持つ同様の地下組織は、今もロシア全土で活動している。我われは、ロシアの治安機関職員、ロシアのさまざまな都市で刑期をつとめている有罪判決を受けた違法薬物の売人たちに話を聞いた。
ハイブリッド戦争
アレクサンドルさんは、ロシアで麻薬対策を担当するある治安機関の職員。アレクサンドルさんとその同僚は過去8年間にわたり、自分たちは新たなハイブリッド戦争の参加者だと考えている。宣言はされていないこの戦争で敵が使用する武器は、薬物となった。
アレクサンドルさん ― 麻薬密売はそれでなくても摘発するのが最も困難な犯罪の1つでした。逮捕された売人の割合はその総数の5〜10%未満でした。ドンバスで戦闘行為が始まってからロシアの治安機関が摘発した麻薬密売は1〜2%未満でした。
Q(質問)-これは何と関係しているのでしょうか?
アレクサンドルさん ― 犯罪そのものが増えました。2014年以降、いわゆる(ロシアで)「塩」と呼ばれる大量の合成麻薬、メフェドロン、α-PVPがウクライナから流れ込みました。また、これらをロシアで製造して流通する用意のあるウクライナ人たちからも流れ込みました。
Q-ウクライナの治安機関は何と言っていますか?
アレクサンドルさん ― ウクライナの治安機関は私たちとの接触をほぼ完全に遮断しました。この麻薬のまん延は、彼らの承諾なしに始まったものではないと思います。私たちは一種のハイブリッド戦争を宣言されました。この戦争はすでに8年間も続いています。
募集
ロシア内務省の情報分析総合センターによると、2014年から2021年にかけて、ロシアでは約7万2000人のウクライナ人が麻薬犯罪で捕まった。ドネツク出身のアルチョームさんもその1人だ。アルチョームさんは現在、麻薬に関する罪でロシア西部オレンブルク近郊の矯正施設で刑に服している。兵役を終えてから数年後、アルチョームさんは「一般人」として何かに取り組もうとした。
見知らぬ人からメッセージが届き、ロシアで配達員として働かないかと誘われた。給料は4万ルーブルと高かった。当時はこのお金で2か月暮らすことができた。1か月半は確実に生活することができ、家族を養うことが可能だった。
アルチョームさんは「私は同意しました。私とやり取りしていた人物は、私にルガンスクに行くよう命じました」と当時を振り返っている。
アルチョームさんによると、ルガンスクで短い面接が行われ、ロシアに派遣された。そしてそこで、麻薬を運ぶことを知ったという。 運び屋の募集に関するアルチョームさんの話は、麻薬に関する罪で有罪判決を受けた他のウクライナ人の話ととてもよく似ている。募集の方法は、ほとんど常に同じだった。ウクライナの町の乗合バスや店舗、駅、またインターネットなどに、ロシアでの求人広告が掲載されていた。
求人への応募者の面接を担当するのは、一般的に、大柄な男性2人で、ロシアである仕事をしたら相当な給料を支払うと約束した。彼らは、労働者に交通費と家賃を与え、暗号化されたメッセンジャーがインストールされたスマートフォンを必ず提供した。そして、まったく疑いを持たない新人の労働者は、モスクワへ向かった。
ウクライナ保安庁の痕跡をたどる
我われが話を聞いたウクライナ出身の違法薬物の運び人には、募集方法の他にも共通点がある。誰から仕事に誘われ、ロシア領内では誰が彼らを監督していたのかについて質問すると、彼らは神経質になり、黙り込むが、それでも少し時間が経つと、自分たちを違法ビジネスに誘い込んだのはウクライナ保安庁の職員だと答える。
ドネツク出身のアルチョームさんも、ルガンスクで行われた面接でリクルーターからウクライナ保安庁の証明書を見せられ、ロシアで麻薬ビジネスをするための人材探しに取り組んでいると説明されたと話している。
強制収容所から最近退所したアンドレイさんは、情報機関との接触について、少し落ち着いて語っている。 アンドレイさんは、次のように振り返っている。
「私はこの間ずっとウクライナの人たちと何らかの関係を維持していました。その中には、これから少しだけお話しする人も含まれています。当時、その人はウクライナ保安庁のストロチャク・ウラジーミル中佐でした。2014年、私は旅行でウクライナにおり、私たちは会い、交流しました。私は彼のところにお客に行き、そこでドミトリーと知り合いになりました。ドミトリーは、自分は情報機関の現職の職員だと言い、その後、交流する過程で、ロシアで貨物輸送をしないかと提案しました」
何を運ぶのかについては、わりとすぐに明らかになった。アンドレイさんに求められたのは、ある都市から別の都市に5〜200キロの合成麻薬を運び、置いてくることだった。アンドレイさんは2015年にロシア中南部クルガンで拘束され、裁判所は禁錮7年の判決を言い渡した。
死の製造工場
ウクライナ保安庁の管理責任者たちは、「運び屋」をロシアに派遣するだけでなく、違法薬物の製造にも取り組んでいた。
ロシアの14地域で活動していた麻薬シンジケート「ヒム・プロム」(2017年に一掃され、拘束されたメンバー67人中47人がウクライナ人だった)は、1週間に150~500キロの薬物を製造していた。ロシア連邦保安庁とロシア内務省は、過去数年間に計500か所以上の麻薬製造工場を一掃した。
ウクライナ側が参加してつくられた麻薬製造工場は、主に比較的新しい2種類の合成麻薬メフェドロン(4-メチルメスカチノン)とα-PVPを製造している。
武器としての違法薬物
薬物の密売で利益を得たのは誰か?それは、管理責任者の指示でロシアに到着した一般のウクライナ人ではない。彼らは雇われた労働者であり、2015年の月給は約2万~4万ルーブルだった。
違法薬物の密売で大金を得ていたのは、ウクライナのオンラインストアの所有者と、彼らを支援していたウクライナ保安庁の職員たちだ。パトロンのウクライナ保安庁の職員たちには、電子財布やビットコイン・ウォレットを通じてお金が送金されていた。
管理責任者たちには、大きな利益以外にも目的があった。数人の管理責任者たちは運び屋との会話の中で、彼らの任務はロシアの若者を「薬物に溺れさせる」ことだと率直に語っていたという。
ウクライナの情報機関とロシアにおける合成麻薬ブームとの関連性は、偶然のものであり、陰謀論的な性質を有していると考えることもできるかもしれないが、世界の歴史には、国家当局が政治的目的を達成するために他国への違法薬物拡大を行った例が存在する。
例えば、19世紀には中国におけるアヘン戦争があった。これは領土ではなく販売市場をめぐる紛争であり、その原因となったのは、貿易不均衡だった。英国は自国の商品を中国に輸出したかったが、清は帝国を外国の影響から保護する政策を講じた。そして英国当局は、インド産アヘンの中国への密輸を組織した。
1839年に皇帝が英国とインドのすべての商人と密輸業者に対して国の市場を閉鎖するまで、アヘンの密輸は数十年間続いた。これは武力衝突を引き起こし、清帝国の敗北で終わった。中国は平和条約に基づき、英国に多額の賠償金を支払い、香港島を譲渡し、英国の貿易のために中国の港を開港した。一方、帝国では、市民の不安、人口の減少、退化が始まった。
解き放たれた薬物戦争でロシアが勝てるかどうかは、時が経てばわかるだろう。
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ウクライナでの露特別軍事作戦
10月31日, 22:07