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信頼なくして、核軍縮なし
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Sputnik 日本
2022年8月1日、日本の岸田首相は第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議で演説し、核廃絶に向けた計画の新バージョンを表明した。岸田首相が提唱したのは5項目のプログラムで、「国際平和拠点ひろしま(Hiroshima for Global... 2022年8月8日, Sputnik 日本
2022-08-08T07:09+0900
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オピニオン
核兵器
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信頼がないその最初にして最大の理由は次の通りだ。核軍縮には、核兵器を放棄する各国の間に深い信頼関係が必要になる。その信頼の度合いは、深刻な対立が起こりうる危険性を完全に排除できるほどに高くなければならない。武力紛争などもってのほかだ。その条件が揃ったときにはじめて、核兵器は無用の長物になるのである。しかし今、その信頼はない。アメリカや同盟国は常に嘘、誹謗中傷、ダブルスタンダード、差別的措置を続けており、同国への信頼は完全に失墜している。例を挙げればキリがない。直近の例を1つだけ挙げよう。前述のNPT再検討会議の演説で岸田首相は「この度のロシアによる原子力関連施設への攻撃は決して許されるものではありません」と述べた。しかし、ザポロジエ原子力発電所は2022年3月2日にロシア軍部隊が制圧している。ウクライナの破壊活動グループは、3月4日未明にロシアのパトロール部隊を攻撃し、原発の管理棟に火をつけた。そのとき、ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアが戦車を使って攻撃したとまで言い、ロシアを非難した。この非難に対しては、ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使が国連安保理で反論している。この挑発行為があって以降、ザポロジエ原発はロシア親衛隊の警備下におかれることになった。ロシア親衛隊は原発の敷地と原子炉建屋で機関銃やグレネードランチャー500丁以上の武器のほか、大量の弾薬やトーチカを発見した。つまり、ウクライナ軍は原発をめぐる戦闘の準備をしていたということで、核の安全性などそっちのけだったのである。さらに、ウクライナの部隊は2022年7月18日に無人機スイッチブレード3機を使ってザポロジエ原発を攻撃した。ウクライナの放ったこの無人機は使用済み核燃料貯蔵施設と冷却水プールから数十メートルの地点で爆発した。ウクライナの部隊は7月20日にも4機の無人機を使って再びザポロジエ原発を攻撃した。幸い、原発の施設に深刻な損傷はなかった。つまり、岸田首相は演説の中で、ザポロジエ原発をめぐる状況を大きく歪曲したことになる。このように事実の歪曲が許されるようでは、核軍縮に必要な信頼などあり得ない。何より驚くのは、このようにロシアを誹謗中傷しておきながら、岸田首相は自身のイニシアチブに対するロシアの好意的な反応を期待していることである。原子力技術へのアクセスを操作岸田首相は計画の中で、原子力の平和利用に言及した。5項目のうち、4つめの項目だ。このなかで岸田首相は、北朝鮮が核ミサイル計画を国際社会と調整するようを提唱している。これに関連して思い出されるのが、北朝鮮のNPT脱退につながった出来事だ。1994年10月、アメリカと北朝鮮は、北朝鮮が軍事目的の核計画を停止する代わりに、アメリカが重油の供給と1000メガワットの原子炉2基の建設を約束する「枠組み協定」を締結した。岸田首相が提唱しているのは、まさにこれと同じことである。北朝鮮の原子炉は結局、建設されなかった。アメリカは新たな要求を次から次へと突きつけ、北朝鮮がウラン濃縮をしていると非難して発電用の重油の供給を止めた。これを受け、2002年12月に北朝鮮は核計画を再開。2003年1月に正式にNPTから脱退した。NPT第4条で保証された北朝鮮の原子力平和利用の権利は、国際社会が承認する形で見事に侵害されたのである。北朝鮮はNPTを拒否し、本格的な核ミサイル兵器を独自で開発できることを示した。さらに、NPTは事実上、役に立たない紙切れと化している。インド、パキスタン、おそらくイスラエルもそうだが、複数の国がNPTを回避して核兵器を保有している。これらの国々はNPTへの署名を拒否しているが、何のペナルティもない。イスラエルはこのほか、他国の原子力開発も妨害している。イスラエル空軍は1981年7月7日にイラクの原子炉を空爆し、2007年9月6日にはシリアで原子炉とみられる核施設を破壊した。ふたつ目の攻撃に国際的な反響はまったくなかった。申し訳ないが、岸田首相の提案はもはや通用しない。「平和な原子力」と「軍事用の核」を区別することは技術的に不可能である。核分裂性物質の製造・濃縮技術を手にした国は、原子力発電所を建設することもできれば、核兵器をつくることもできる。このような状況は、原子力技術へのアクセスを恣意的に操作し、特定の国を差別することにつながる。実際、原子力発電技術を含め、原子力技術へのアクセスはアメリカとその同盟国への政治的忠誠が条件となっているのが実情だ。しかし、これはもはやNPTではなく、一方的な独断である。こうしたことから、岸田首相のイニシアチブは成果をもたらさないと見てよいだろう。核兵器は、これまでも、そしてこれからも、国家の主権—原子力の平和利用の権利を含め—を守るための最終兵器であり続ける。
https://sputniknews.jp/20220729/npt-12228254.html
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オピニオン, 核兵器, 岸田文雄
信頼なくして、核軍縮なし
2022年8月8日, 07:09 (更新: 2022年8月8日, 17:38) 2022年8月1日、日本の岸田首相は第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議で演説し、核廃絶に向けた計画の新バージョンを表明した。岸田首相が提唱したのは5項目のプログラムで、「国際平和拠点ひろしま(Hiroshima for Global Peace)」が実施する行動計画と呼応する。「国際平和拠点ひろしま」とは、国家元首や政治家、影響力のある活動家に広島を訪れてもらい、原爆の被害を見た上でイニシアチブに賛同してもらうための活動をしている団体だ。しかし、現状では岸田首相の計画が成功し、何かをもたらすとは考えにくい。
その最初にして最大の理由は次の通りだ。核軍縮には、核兵器を放棄する各国の間に深い信頼関係が必要になる。その信頼の度合いは、深刻な対立が起こりうる危険性を完全に排除できるほどに高くなければならない。武力紛争などもってのほかだ。その条件が揃ったときにはじめて、核兵器は無用の長物になるのである。
しかし今、その信頼はない。アメリカや同盟国は常に嘘、誹謗中傷、ダブルスタンダード、差別的措置を続けており、同国への信頼は完全に失墜している。例を挙げればキリがない。
直近の例を1つだけ挙げよう。前述の
NPT再検討会議の演説で岸田首相は「この度のロシアによる原子力関連施設への攻撃は決して許されるものではありません」と述べた。
しかし、ザポロジエ原子力発電所は2022年3月2日にロシア軍部隊が制圧している。ウクライナの破壊活動グループは、3月4日未明にロシアのパトロール部隊を攻撃し、原発の管理棟に火をつけた。そのとき、ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアが戦車を使って攻撃したとまで言い、ロシアを非難した。この非難に対しては、ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使が国連安保理で反論している。この挑発行為があって以降、ザポロジエ原発はロシア親衛隊の警備下におかれることになった。ロシア親衛隊は原発の敷地と原子炉建屋で機関銃やグレネードランチャー500丁以上の武器のほか、大量の弾薬やトーチカを発見した。つまり、ウクライナ軍は原発をめぐる戦闘の準備をしていたということで、核の安全性などそっちのけだったのである。
さらに、ウクライナの部隊は2022年7月18日に無人機スイッチブレード3機を使ってザポロジエ原発を攻撃した。ウクライナの放ったこの無人機は使用済み核燃料貯蔵施設と冷却水プールから数十メートルの地点で爆発した。ウクライナの部隊は7月20日にも4機の無人機を使って再び
ザポロジエ原発を攻撃した。幸い、原発の施設に深刻な損傷はなかった。
つまり、岸田首相は演説の中で、ザポロジエ原発をめぐる状況を大きく歪曲したことになる。このように事実の歪曲が許されるようでは、核軍縮に必要な信頼などあり得ない。何より驚くのは、このようにロシアを誹謗中傷しておきながら、岸田首相は自身のイニシアチブに対するロシアの好意的な反応を期待していることである。
岸田首相は計画の中で、
原子力の平和利用に言及した。5項目のうち、4つめの項目だ。このなかで岸田首相は、北朝鮮が核ミサイル計画を国際社会と調整するようを提唱している。
これに関連して思い出されるのが、北朝鮮のNPT脱退につながった出来事だ。1994年10月、アメリカと北朝鮮は、北朝鮮が軍事目的の核計画を停止する代わりに、アメリカが重油の供給と1000メガワットの原子炉2基の建設を約束する「枠組み協定」を締結した。岸田首相が提唱しているのは、まさにこれと同じことである。
北朝鮮の原子炉は結局、建設されなかった。アメリカは新たな要求を次から次へと突きつけ、北朝鮮がウラン濃縮をしていると非難して発電用の重油の供給を止めた。これを受け、2002年12月に北朝鮮は核計画を再開。2003年1月に正式にNPTから脱退した。
NPT第4条で保証された北朝鮮の原子力平和利用の権利は、国際社会が承認する形で見事に侵害されたのである。北朝鮮はNPTを拒否し、
本格的な核ミサイル兵器を独自で開発できることを示した。
さらに、NPTは事実上、役に立たない紙切れと化している。インド、パキスタン、おそらくイスラエルもそうだが、複数の国がNPTを回避して核兵器を保有している。これらの国々はNPTへの署名を拒否しているが、何のペナルティもない。イスラエルはこのほか、他国の原子力開発も妨害している。イスラエル空軍は1981年7月7日にイラクの原子炉を空爆し、2007年9月6日にはシリアで原子炉とみられる核施設を破壊した。ふたつ目の攻撃に国際的な反響はまったくなかった。
申し訳ないが、岸田首相の提案はもはや通用しない。「
平和な原子力」と「軍事用の核」を区別することは技術的に不可能である。核分裂性物質の製造・濃縮技術を手にした国は、原子力発電所を建設することもできれば、核兵器をつくることもできる。このような状況は、原子力技術へのアクセスを恣意的に操作し、特定の国を差別することにつながる。実際、原子力発電技術を含め、原子力技術へのアクセスはアメリカとその同盟国への政治的忠誠が条件となっているのが実情だ。しかし、これはもはやNPTではなく、一方的な独断である。
こうしたことから、岸田首相のイニシアチブは成果をもたらさないと見てよいだろう。核兵器は、これまでも、そしてこれからも、国家の主権—原子力の平和利用の権利を含め—を守るための最終兵器であり続ける。