「見せかけの正常性」日中国交正常化50周年を前に、日中関係は実際はどうなるのか=日本の専門家の見解
2022年9月10日, 17:30 (更新: 2022年9月12日, 14:14)
© AFP 2023 / Kazuhiro Nogi日本と中国の旗
© AFP 2023 / Kazuhiro Nogi
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日中国交正常化50周年を前に、公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)が東京大学大学院総合文化研究科の阿古智子教授を迎え、日中関係をテーマに外国人記者を対象とするブリーフィング会見を行った。阿古教授は、正常な善隣関係の陰に隠された数多くの問題と挑戦に大きな注意を払いつつ、現在の日中関係について詳細に説明した。
「友情」の裏に隠されたもの
両国の首脳は、つい最近まで、日本と中国の間で原則的に新たなレベルの友好関係を築くことを意味した日中「新時代」が近づいてきたというような発言をしていたように思われる。しかし、今年、日中国交正常化50周年を前に、実際の状況はそれとはまったく異なっている。
第一に、2021年に日本の民間非営利団体「言論NPO」と中国国際出版集団が共同で実施した世論調査によれば、日本に対して「良くない」印象を持っていると答えた中国人の数は前年比13.2ポイント増の66.1%となった。加えて、中国に「良くない」印象を持つと答えた日本人は、同1.2ポイント増の90.9%で、2年連続の悪化となった。
第二に、政治面において、日本と中国の間には多くの意見の相違が見られる。しかし、阿古智子教授は、日本は今のところ、きわめて慎重な発言や行動を行っており、中国に対しても、西側諸国に比べれば、かなり自制心を発揮していると指摘している。
たとえば、日本政府は、香港や新疆ウイグル自治区での人権侵害に関して米国が発動した中国の「外交的ボイコット」を支持しているが、日本政府はその発言において、「ボイコット」という言葉は使わず、日本にとっての重要な貿易相手国に対して、柔軟な路線を維持しようとしている。
加えて、阿古教授は、日本は西側諸国と足並みを揃え、東シナ海での中国の挑発的な行動や人権侵害について定期的に声明を出すよう努めてはいるものの、中国に対する日本の総体的な外交路線は変化しておらず、依然としてきわめて慎重なものであると考えている。
同時に、中国が台湾に対して、侵略的行動を取る可能性があることに懸念を抱く岸田文雄総理大臣は、台湾周辺の島々における軍事力を強化するとの決定を下している。日本はすでに台湾周辺の3つの島に、電子戦専門部隊を配備し、2023年には与那国島に電子戦部隊の追加的配備を行うとしている。
当然ながら、外交的手段による問題の解決、開かれた友好的な関係の維持というものは、いつでも、もっとも望ましいシナリオであるが、阿古教授は、日本はいかにして中国のような強力な大国に対抗することになるのかを理解しなければならないと指摘している。さらに阿古教授は、日本の軍事力強化の大きな障壁となっているのは、弱体化し続けている経済と人口動態上の国力であるとの見解を示している。
制裁は、中国に影響を及ぼす方法の一つになるのか?
伝統的に、日中関係において政治と経済は分離したものであり、互いへの影響はない。しかし、もし両国関係が大きく悪化した場合、将来的にこうした状況が変化する可能性はあるのだろうか?
この質問に対し、阿古教授は、そのような状況はおそらくすでに、少なくとも、米国が中国に対して発動している制裁によって、少しずつ変化し始めていると指摘し、次のように述べている。
「今、欧米諸国の制裁、特に米国が発効させる新しい法律による制裁が、日本にも課されるかもしれない状況だ。日本企業の勉強会に参加すると、むしろ米国の制裁の方が怖いという声がけっこう聞かれる。日本企業は中国に人権問題の調査を要望することを怖がる一方で、新疆の製品が人権問題にかかわる場合、米国からたちまち制裁を受けることも怖がっている。私は、日本企業はただ制裁を回避するという小手先の事だけを考えてはいけないと思う。確かに、日本は今までずっと政治と経済を切り離せばいいと言ってきた。そのつけが今、回ってきた。経済は私たちの生活に深くかかわっており、企業は、着ている服も食べているものもどのように作られているかをしっかり考えた上で活動を行わねばならなかった。企業も国も、ただ金儲けをすればいいわけではなく、その価値をどう生み出すかも大事だ。人権、環境問題にかかわることがあれば、一時期ビジネスを停止せざるを得ないが、これは長期的視野から考えれば損にはならないと思う。長期的に見て、人類がどう生きていきたいかという問題に関わるし、その結果は中国にも跳ね返っていく。中国は、民族に短期的に圧力をかけて、国家の安全を確保できたと思っても、圧力は掛け続ければ、憎悪の感情は蓄積し、いつ大きな形で爆発するかわからない。問題の解消方法は様々だ。民族間の対立に暴力や監視技術で上から圧力をかけることは必ずしもいいわけではない。そういう意味で経済と政治を切り離さないようにする。制裁がある場合は、それを考えた上で国家としても企業としてもガイドラインをもっと具体化した政策を作るべきだと思う」
続いて「スプートニク」は、軍事力を用いた中国に対する抑止が十分でないとわかったときに、日本がいつか自国の決定によって、中国に包括的な制裁を発動するようなことはあり得るのか、あるいは両国の経済的な結びつきの強さを考えれば、そのようなシナリオになる可能性はないのか質問した。これに対し、阿古教授は次のように答えている。
「日本政府は、北京五輪の時もボイコットという言葉を使わなかったし、新疆ウイグル、香港の時も制裁という形での実力行使には出ていない。今の政府がどこまで踏み切るかは判断が難しいが、軍事行動や天安門事件のように多くの人命が奪われることが明らかになった時には、なんらかの制裁をかけざるを得ない状況に日本政府も追い込まれるのではないか。やはり、日本国民の世論が厳しい目を向けると思う。今の中国は昔と違い、とても大きな力を持つようになり、ビックデータをコントロールして、言論空間でもいろんな情報を流すことができ、影響力をそういう形で浸透させている。各国が協力して対抗していかなければ、中国のような大国には勝てない。民主主義の国家が協力し、環境を整えていき、中国がより自由で開放的な国になってもらうためなのだということで、説得を続けながら、必要な制裁も取らざるを得なくなるだろう。私自身はそういう日本政府であってほしいと思っている」