なぜ日本の自動車ブランドはロシアから撤退するのか?
© Sputnik / Sergey Mamontov
/ サイン
トヨタに続き、マツダもロシアでの生産を終了する意向だ。両社とも、物流チェーンの寸断により、部品の定期供給ができないことを理由に挙げている。マツダとロシアのソラーズ社が折半出資する合弁会社Mazda Sollers Manufacturing Rusは、2012年に金角湾に面したウラジオストクで操業を開始した。
ソラーズ社はこのニュースを認めた上で、マツダの持ち分の買い取りについて交渉中であり、工場は再稼働させて他ブランドの自動車を生産する予定だと語った。ウラジオストクの工場でどのような車の生産が始まるのかは、現時点では不明だ。これまで同工場では、ロシア市場向けにセダンのMazda 6、クロスオーバーのCX-5とCX-9を生産してきた。
マツダ車は、2006年の大ヒット映画『デイ・ウォッチ』で、主人公の女性がMazda RX-8に乗ってホテル『コスモス』の壁を走り抜けたことで、特にロシアの若者の間で人気に火が付いた。
時を経て、マツダにはロシア国内に信奉者、ファンクラブ、レースチーム「Mazda Rally Team」のファンが誕生。ロシアに工場ができたことで、マツダ車はより手頃になり、需要も高まった。現在、ロシアで生産されたマツダ車は、ロシアとEAEU加盟国の約70のディーラーで販売されている。
ロシアでのマツダ車の販売台数は、2019年30,576台、2020年26,392台、2021年29,177台だった。また、2021年の利益は5億8500万ルーブルを超えた。しかし、2022年1月〜8月のロシアでのマツダ車の販売台数は8,537台で、前年同期のわずか半分だ。2022年のマツダ車の販売台数首位はクロスオーバーのCX-5で、6,349台である。
トヨタとマツダのロシアでの生産終了は、本当に部品不足問題が原因なのか。それとも、政治が絡んでいるのか。スプートニクはロシアで最も古い自動車雑誌『ザ・ルリョム』の副編集長でアナリストのニキータ・グトコフ氏に尋ねた。その答えがこれだ。
「政治と直接の繋がりはありません。両工場は部品供給の問題が解決できないという状況にぶちあたり、今年4〜5月以降、あらゆる手段でこの状況を解決しようと試みてきました。両工場が休止していたのはこれが理由です。一方で、部品供給問題は対ロシア制裁によるものであり、この制裁は当然、政治と関係しています」
ニキータ・グトコフ氏は、マツダのロシア撤退について次のようにコメントする。
「ロシアの年間平均自動車販売台数150万台のうち、マツダの販売台数は約3万台です。割合としては少ないものの、評判のいい車です。さらにマツダのロシア工場は野心的な計画も立てていましたが、今はこれも断念せざるをえない状況です。現時点では、ロシアでのマツダ車の販売、ディーラーの今後、アフターサービスがどうなるのかは、まだ決まっていません。3月に日本は600万円以上の自動車のロシア向け輸出を禁止しました。トヨタ車のほぼすべてがこの禁止に該当します。マツダ車は、以前はこの価格を下回っていたのですが、今のロシアでは300万ルーブルを下回る輸入車を見つけることはほぼ不可能です。同時に、ロシア人の支払い能力も低下しています。このニッチを埋めることができるのは中国なのですが、中国の自動車産業は、ロシアの実情に合わせて自動車を極寒仕様にするといった、ルノーや日本企業が組立ラインで行っていたことをする意向はありません。ソラーズ社はマツダの後釜をどこにするのか明言していませんが、地理的な近さを考えると、中国が真っ先に候補に挙がります。ところが、中国はモスクワや大都市にしか需要がないクロスオーバーに力を入れているんです。他方で、ロシアの消費者の多くは、自家用、小口配送用、タクシー用など、安価な車を必要としています。中国にはそのような安価な車種がたくさんありますが、それではマージンを稼げません。ロシア産ブランドでは、ステーションワゴンのLADA Vestaがこれに該当する可能性がありますが、この車種はまだ量産計画が発表されたにすぎません」
ロシアのマツダ・ファンクラブのメンバーであるマリア・コルズン氏は「私たちは皆、このニュースを聞いてとても悲しんでいます」とスプートニクに語った。
「ロシアの自動車市場は今、おそらく歴史上最悪の時期にあります。マツダ車のオーナーたちは、ロシアでの販売は継続されるのか、スペアパーツはどうなるのかを心配しています。一部のパーツは互換品で代替できますが、代替のきかない純正ユニットやパーツもあります。皆、一概に不安を感じています。ロシアで車を持つということは、単に生活を快適にするというだけではないんです。これだけ広大で、こんな気候ですから、車がないと生活は困難です。多くの人にとって自動車は働くクルマであり、多くの家庭を養う糧にもなっているんです」
モスクワにある販売店『マツダ・タガンカ』の店長であるアレクセイ氏はスプートニクの取材に対し、マツダのモスクワ事務所から何の連絡もないので、営業は通常通り行っていると語った。この販売店にはすべての車種がそろい、売上は毎日あがっている。価格はたしかに上がったが、後になればなるほど入手困難になると懸念する人が多く、皆、自動車の購入を急いでいる。
さらに日産と三菱の2つの乗用車工場でも、組立部品の供給に困難を抱えている。日産はサンクトペテルブルク工場の再稼働を12月末まで見送る。
また、三菱自動車はこれまでにカルーガの工場での生産停止を発表している。
日本の大手トラックメーカー「いすゞ自動車」も部品供給が困難な状況にあり、ロシアでの事業継続に向けてあらゆる可能性を探るとの意向を示している。