政治危機のマレーシア総選挙 きょう投票 97歳マハティール氏も参戦
2022年11月18日, 21:34 (更新: 2022年11月19日, 05:15)
© AFP 2023 / Arif Kartonoマレーシア
© AFP 2023 / Arif Kartono
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マレーシアでは、19日に総選挙が実施される。約1000人の候補者が、連邦議会下院の222議席を争う。同国のイスマイル・サブリ・ヤアコブ首相が以前発言したように、政情不安を回避し、安定性と尊敬される政府を作るためには、新たな選挙を実施することが最善策となる。では、マレーシア議会の危機と党内で起きている抗争とは何なのだろうか。
ヤアコブ首相は10月、同国の政党「統一マレー国民組織(UMNO)」から数ヶ月にわたって圧力を受け、議会を解散した。そのため、今回行われる第15回総選挙は前倒しの実施となる。香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」は、同政党は政権復帰を目指していると報じている。
© AFP 2023 / Kazuhiro Nogiイスマイル・サブリ・ヤアコブ首相
イスマイル・サブリ・ヤアコブ首相
© AFP 2023 / Kazuhiro Nogi
マレーシアの政治的背景 政党と不調和
マレーシアでは、立憲君主制の中に議会制民主主義が存在している。
マレーシアの現在の国王であるアブドゥラ陛下は、英国の君主と同様に立憲君主制の枠組みの中で国家元首を務めている。マレーシアの君主は憲法上の権限を持つが、多くの場合は政権与党の決定に従う必要がある。
© AFP 2023 / Mohd Rasfanマレーシア第16代国王アブドゥラ陛下
マレーシア第16代国王アブドゥラ陛下
© AFP 2023 / Mohd Rasfan
つい最近まで、マレーシアの人々にとって政権政党は「統一マレー国民組織(UMNO)」のみだった。UMNOは、連立政権の一角である「バリサン・ナショナル」とともに、英国から独立した1957年から2018年までマレーシアをずっと統治してきた。
© AFP 2023 / Saeed Khan統一マレー国民組織(UMNO)
統一マレー国民組織(UMNO)
© AFP 2023 / Saeed Khan
2018年の総選挙では、UMNOが率いる「バリサン・ナショナル」が野党「パカタン・ハラパン」に大敗。これは、マレーシアの政治史において大きな転機となった。UMNOが陥落したのは、国内の汚職や、基本的な生活水準を維持する諸々の費用に対して国民の不満が広まったことが一因だった。
© AFP 2023 / Manan Vatsyayanaバリサン・ナショナル
バリサン・ナショナル
© AFP 2023 / Manan Vatsyayana
平等主義と多民族主義を標榜する多民族連合である「パカタン・ハラパン」の台頭は、UMNO政権時代には存在しなかった進歩的な政治への期待を抱かせるものであった。
© AP Photo / Vincent Thianパカタン・ハラパン
パカタン・ハラパン
© AP Photo / Vincent Thian
当初、パカタン・ハラパン政権は前任者よりも良いものではあったが、抗争とクーデターにより、2年足らずで連立政権の指導部は壊滅した。この混乱は、UMNOが連立政権を組んで、2020年に議会の投票なしに民族主義政権を創設し、政権に復帰する道を開くものとなった。
この2020年から始まった政権には、熱烈なマレー民族主義者であるイスマイル・サブリ・ヤアコブ氏が首相に就任した。
UMNOはその統治をさらに強化するべく総選挙に期待を寄せており、ヤアコブ首相は長年にわたる政情不安が終結することを求めている。
総選挙に臨む政党と候補者は?
今回の総選挙では、連立政権の一角である「バリサン・ナショナル」と主要野党の「パカタン・ハラパン」が第一党を争うことになる。
ヤアコブ首相が所属するUMNOは「バリサン・ナショナル」の中心的な政党であり、長らく首相候補だったアンワル・イブラヒム氏が率いる多民族政党「パカタン・ハラパン」と対決することになる。
また、2020年のクーデターを組織し、後に辞任に追い込まれたムヒディン・ヤシン元首相が率いる「ペリカタン・ナショナル」も、この総選挙で争うことになる。
CNNインドネシアによると、マハティール・モハマド元首相(97歳)も政治の舞台に復帰する。同氏は、反UMNOであり親マレー派の政党が参加する連合「ゲラカン・タナ・エア」を率いている。
マハティール・モハマド元首相
© Sputnik / Alexei Druzhinin
/ モハマド氏は、首相を同国最長の22年間務めた人物。1981年に首相に就任し、2003年に辞任。その後、同氏はパカタン・ハラパン連合がUMNOを倒す前代未聞の勝利に導き、2018年に再び首相に就任した。
マレーシアは日本に似ている?
UMNOはある意味、日本の自民党と同じ道を歩むことを望んでいる。日本経済新聞によれば、両保守政党(UMNOとバリサン・ナショナル)は、一時的に政権を失うまでは、半ばライバル関係の状態で何十年も国を統治してきた。
自民党は1993年の選挙で連立政権が崩壊し、1年足らずに政権に復帰したものの、2009年の敗北から立ち直るには3年の歳月を要した。自民党は2012年の選挙で圧勝して以降は足踏みすることなく前進している。
マレーシアが抱える問題
サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、マレーシアの有権者は、食品価格や水道光熱費、交通費が常に上昇していることから、物価の上昇や不安定な経済を懸念している。
政治的な抗争は、政権内での汚職や不誠実な政治家をめぐる問題を引き起こしている。長年にわたる不安定な政権運営は、懐疑的な見方や有権者の不満に反映されている。
また専門家らは、マレーシアの少数民族の中には、「パカタン・ハラパン」が導入しうる多民族政策を復活させたいと考える中国系住民が相当数存在すると指摘している。
マレーシア政府にとって、気候変動は大きな関心事。同国で多発する洪水は地域社会に壊滅的な打撃を与えており、インフラの復旧プロジェクトに資金を拠出する必要性を生み出すものとなっている。