【視点】中国の偵察気球が米国上空を通過

© 写真中国の偵察気球の動向
中国の偵察気球の動向 - Sputnik 日本, 1920, 06.02.2023
サイン
2023年1月28日から2月4日にかけて、米国中が中国の偵察気球の動向を注視した。気球はアラスカ、カナダ北西部を移動し、その後、米国北東から南東に向かって横断した。そして2月4日、気球は大西洋上空で、F–22「ラプラー」戦闘機により撃墜された。

軍事用気球

第二次世界大戦と冷戦時代をよく覚えている人にとって、今回の出来事は失笑を誘うものである。
気球が米国上空を通過するのはこれが初めてではない。最初に気球を飛ばしたのは、水素ガスと焼夷弾を運ぶことができる風船爆弾(ふ号兵器)を開発した日本であった。
1944年11月から1945年4月にかけて、約9300発が放球され、そのうちの300ほどが米国領土に到達し、20発が米国空軍により撃墜された。1945年3月には、1発の気球がハンフォード・サイト(ワシントン州リッチランド近郊)付近の送電線に不時着し、一時的に電源を停止させた。
© 写真 : Wikipedia風船爆弾
Japanese fire balloon - Sputnik 日本, 1920, 06.02.2023
風船爆弾 【アーカイブ写真】
一方、冷戦時代には、米国は、ゲネトリクス計画の枠内で、ソ連と中国に対する偵察活動のため、数百の監視気球を放った。気球には、米空軍がアクセスすることができないソ連と中国の地域を撮影するためのカメラが装備されていた。1956年1月から2月にかけて、516発の気球が放たれ、そのうちの54が帰還し、31の気球からさまざまな軍事施設の写真を得ることができた。放球された気球の大部分―ドイツから放たれたおよそ800発とトルコから放たれたおよそ400発―はソ連の戦闘機によって撃墜された。このような偵察気球の放球は、1970年代の半ば、そして1980年から1981年にかけて、続けられた。ソ連空軍は4112の気球を発見し、うち793を撃墜した。最後に米国の気球が放たれたのは、1990年の9月で、その気球は発見、撃墜された。
つまり、中国は、米国に対し、いわばその「お返しに」、同じ手法を用いたというわけである。

中国の気球による盗聴盗視に注意せよ

米国防総省は、撃墜した偵察気球の残骸の回収を開始したと発表している。最初の解析では、気球は偵察用であることが判明したが、今のところ、詳細は明らかにされていない。複数の発表によれば、この気球は、バッテリーや太陽電池を含む最大453キロの貨物を運ぶことができる。また光学機器、赤外線カメラ、サーマルカメラ、高周波スキャナー、レーダーなど、さまざまな機器が多数搭載されていた可能性がある。
つまり米国の軍事基地上空を飛行し、気球は中国の情報機関にとって重要な多くの情報収集を行うことができたと考えられる。そしておそらく、気球は収集した情報を、その地域の上空を飛行する衛星を用いて、送信していたと思われる。
米国防総省で報道官を務める米空軍のパトリック・ライダー准将によれば、気球は機動力を備えていたという。おそらく、太陽電池が軸の周囲を回転し、飛行機の羽根のような機能を果たし、気球は高度を下げたり、速度を上げたり、回転したり、進路を維持したり変更することができたようだ。
中国のエンジニアたちは、非常に興味深い機器を製造した。概算で言えば、これは米空軍の9つの基地、州兵10の基地を網羅する。
とりわけ重要なものとして挙げられるのが以下である。
マルムストローム空軍基地 弾道ミサイル「ミニットマン3」
エルスワース空軍基地 戦略爆撃機B-1B「ランサー」
オファット空軍基地 米空軍の核戦略司令部
ホワイトマン空軍基地 ステルス戦略爆撃機В-2А
スコット空軍基地 航空軌道軍団司令本部
米空軍サイバーコマンド、サイバーワシントン州空軍司令部
米軍輸送司令部
国防情報システム局東部グローバルオペレーションセンター
アーノルド空軍基地 米空軍技術開発機関、宇宙研究所
ラングレー空軍基地―米空軍航空戦闘軍団司令部、米空軍指揮統制機構、第479戦術戦闘航空団、戦闘機F–22
概して、中国の気球が通過した付近の基地をざっと見ただけでも、この偵察気球が主に米空軍に関するかなり貴重な情報を収集しえたことが十分に理解できる。中国の気球が何を盗視し、盗聴したのかについて、すぐに知ることはできない。しかし、米空軍の通信システムと司令部からの機密情報の漏洩は、もっとも大規模なものであったと推測することができる。
アメリカ大陸の上空を飛行する高高度監視気球 - Sputnik 日本, 1920, 03.02.2023
【解説】米国上空に浮かぶ気球は一体何なのか

優柔不断な米空軍司令部

中国の偵察気球の飛行は米空軍に対する平手打ちのように見える。気球は米国のほぼ全土を通過し、しかも米国は長期にわたって何も手を打つことができなかったのである。インターネットでは撃墜すべきかすべきでないのかについて、大々的な議論が持ち上がっていた。ドナルド・トランプ前大統領は撃墜せよとの立場を示した。
これまでに明らかになったところによれば、中国の気球は高度18〜25キロを通過した。
そこで多くの人が、戦闘機で撃墜することはできないと考えた。しかし、F-16の最大高度は18.5キロ、 F-15は20キロである。
つまり、気球は長いこと、戦闘機の到達範囲である高さを飛行していたのである。しかも、戦闘機はスピードを上げ、最大高度をかなり超えた高さに達することができる。もっとも高い地点において戦闘機は機動することはできないが、ミサイルを発射するのには十分である。最大高度22キロのソ連のミグ25は、スピードを上げて、最大37.6キロまで上昇することができた。
F-22はミグ25より30%強力なエンジンを搭載しているため、ほぼ30キロの高さに達することができる。
結局、気球は赤外線誘導と破片フガス弾頭のついたミサイルAIM-9X「サイドワインダー」により撃墜された。このミサイルの最大射程は35キロである。改良型ミサイルAIM-9Xはレーダーでは識別しにくい無人機の迎撃に用いられる。言い換えれば、米空軍は、中国の気球を撃墜するだけの技術的能力を有していたということである。
そうだとすると、識別マークのない不明な気球がアラスカ上空で、米国の領空に侵入したと同時に撃墜することもできた。しかし、気球は北米の西から東を横断したのである。それはなぜか。それはおそらく、米軍司令部の軟弱さと優柔不断の結果であろう。中国気球が2日間もの間、米空軍の最重要基地の上空を何の障壁もなく、飛行したという驚くべき事実を説明できるのはこれしかない。
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