【解説】オハイオ州脱線の有害物質漏洩から1ヶ月が経過 環境災害に沈黙を守る米国政府

© AP Photo / Gene J. Puskarオハイオ州の事故現場近くの住宅(アーカイブ写真)
オハイオ州の事故現場近くの住宅(アーカイブ写真) - Sputnik 日本, 1920, 05.03.2023
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2月上旬、米オハイオ州イーストパレスティン市で有害危険物質を積載した100両以上の貨物車両が脱線する事故が起きた。脱線した車両は爆発し、火災が発生。この結果、有毒性のガスが大気中に放出されたが、危険物質の処理班はさらに爆発が起きる危険性を回避しようと、化学物質の容器を開け、制御しながら引火させた。マスコミの反応は遅かった。地元自治体も市民に対し冷静さを保つよう呼びかけ、連邦政府はまるで何事もなかったかのようにふるまった。ところが1ヵ月後、事故後の処理にあたった作業員らが一斉に体調の悪化を訴えはじめた。スプートニクは、現段階で明らかになっている事故についての情報を収集した。

危険性の高い化学物質

2月3日の列車脱線事故の直後、この貨物の運輸を担当するノーフォーク・サザン鉄道輸送会社は、大惨事になりかねない爆発を防ごうと、脱線車両からガスを放出させることを決めた。このため、致死量のガスを空中に放出。100両以上の車両のうち20両がクロロエチレン(塩化ビニル、vinyl chloride)を運んでいた。塩化ビニルは可燃性の有毒物質。AP通信は塩化ビニルが燃焼した場合の生成物は環境に有害だと報じている。
地域住民の塩化ビニルによる中毒を避けるため、タンクは燃やされた。地域住民には火災の間、この場所から離れるよう命じられたが、6日後の9日には安全が回復し、自宅に戻ることできると約束された。
塩化ビニルはプラスチック製品に使用されるポリ塩化ビニル樹脂を製造する際に使用される。だが、米国国立がん研究所のデータによれば、塩化ビニルは肝臓がんなどのがんのリスクを高める。公式の関係者らからは、車両には他の危険物も積載されており、これも懸念を呼ぶと指摘があがっている。
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作業員らが不調を訴える

3月2日付けのNBCニュースは、米国鉄道員組合代表の発言として、事故後、有害物質の除染作業に携わってきた鉄道職員らから偏頭痛や吐き気を感じるとして組合に不調を訴えていると報じた。不調の原因は作業を行う人に防護服が不足していることと関連している。
作業を行う鉄道員者には防護マスク、眼球の防具、保護服などの適切な防御手段が配給されなかった。組合によると線路上で除染を行っていたのは35人から40人で、彼らに配布されたのは紙製マスクもしくはN95マスクとゴム手袋とブーツまたは保護服がだけだった。
組合側の把握では、ある職員は中毒症状が出はじめたため、上司に事故現場からの異動を要請したものの、上司からの回答が得られなかったため、現場に残り続けた。
化学物質の運搬を行っていたノーフォーク・サザン社は作業員らには必要な防御手段が提供されていたとして、自社に対する非難を否定している。

事故の調査

野党・共和党の議員らは 、ピート・ブティジェッジ運輸長官の「職務怠慢」を咎め、辞任するよう求める決議を出した。
ブティジェッジ長官は事故から20日経ってからイーストパレスティン市の現場を訪れた。だが、地元住民はそれだけでは「行動が足りない」としているほか、「遅すぎた」と非難している。
また、米メディア「ブルームバーグ」によると、地元住民らは事故現場の証拠を隠滅しようとしたなどとして、ノーフォーク・サザン社を相手取り連邦裁判所に訴訟を起こしている。同紙は次のように伝えている。

「ノーフォーク・サザン社は、地元住民の弁護士が同社が事故の証拠を隠滅しようとしている訴状を提出したことを受け、有毒ガスを放出した可能性のある事故車両を脱線現場から移動させる計画を変更した」

ノーフォーク・サザン社の代表者は、3月1日までに11両を脱線現場から運び出すことから、調査のためには2日間の猶予しかないとしていた。そのため、地元住民側の弁護士は、事故車両を「片付ける」ことを禁止するよう連邦裁判所に求めた。これを受け2月27日、弁護士が現場の確認をするための時間を追加することで双方は合意した。
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黙り続ける米当局

米国政府はオハイオ州で起きた環境惨事をだんまりを決め込んでいる。ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官もこれを指摘し、ビクトリア・ヌーランド政治問題担当国務次官に対し、事故の状況やデータを公開するよう呼びかけた。ザハロワ報道官は事故から2週間後の2月17日の会見で次のように述べている。

「現在米国で起こっていることは、環境や生命、健康への脅威という点で、近年で最大の人災のようだ。しかも、何が起こったかについて懸念される詳細は、今になってやっと明らかになった」

ワシントン・ポスト紙によると、事故から約2週間経っても、現場近くには強い化学臭が残り、住民は頭痛や吐き気を訴えて病院に通っている。
この状況について、現地のラジオ局「FCB」のダービオ・モロー氏は、米誌「ニューズウィーク」に寄稿した「なぜエリートにとってオハイオはどうでもいいのか」という記事で次のように批判している。

「驚くべきことに、いつも環境を気にかけているという人が、この本当の環境大惨事を前に黙り込んでいる。本当にエリートたちにとってオハイオはどうでもいいのだろう」

事故直後、ジョー・バイデン大統領は事故について、公式声明を何も出さず、オハイオ州への訪問を控えたことを指摘しておきたい。バイデン氏は事件後、化学物質の放出で被害を受けた地域を訪問しなかったため、野党共和党から、キエフに行く暇があるなら、まず自国の問題をかかえる地域を訪問すべきだったという批判を浴びた。
一方、彼の代わりにドナルド・トランプ前大統領は現地を訪問し、住民に水や食料を持ってきた。トランプ氏はこの訪問が連邦政府の注意を向けさせたと自負している。さらに、現職大統領より前に前職の自身が現場を訪れたことを「恐ろしい事実だ」と述べたという。
米国天然資源防衛評議会(NRDC)で健康・食品担当上級戦略ディレクターを務めるエリック・D・オルソン氏は、米紙「ニューヨーク・タイムズ」に、米政権が事故の影響や重大性を完全には認識していない可能性があると語っている。

「当局自身も州の環境に及ぼした影響がいかほどか分かっていない。化学物質の粒子は地面に溶け込み、井戸やそのほかの水源に流れ込む危険性がある。地下水の汚染物質は蒸発し、地面の割れ目から土壌や地下室、家屋に入り込む可能性だってある」

また、米「ヘリテージ財団」のエネルギー・環境政策部門シニア研究フェローであるジャック・スペンサー氏は、「FOX News」に寄稿したなかで、「将来このような事故を最小限に抑えるための最善の方法の1つは、責任者の罪を問い、完全な調査をすることだ」と指摘している。
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TikTokが報道に与えた影響

「Wired」日本語版は今回の事故が明るみになったのは中国発のSNS「TikTok」だったと指摘している。同メディアによると、この事故は発生当初、「ニュースで話題を独占するほど大々的に取り上げられたわけではなかった」。だが、「TikTok」である投稿者が科学的に事故を解説する動画を投稿したことでメディアの注目が一気に高まったとしている。
一方、SNS上では根拠のない話も出回り、人々の不安を掻き立てているとも指摘されている。一般の人を含め多くの人が自由に情報を発信できるSNSでは、問題を提起することができるとともに、デマの温床ともなりうるということだ。
いずれにせよ、「今回の事故は、トップニュースを操る力をTikTokがいまや手にしていることは疑いようがないことを明らかにした」と記事は締めくくっている。
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