【視点】北朝鮮の「津波」が日米の艦隊を破壊する?

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魚雷 - Sputnik 日本, 1920, 03.04.2023
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2023年3月末、北朝鮮は新たな海上兵器である無人水中攻撃艇 Haeil-1(「津波」)の実験を行った。2023年3月21〜23日と25〜27日の2回の実験で、この攻撃艇は水中を長距離潜行した。1号艇は59時間12分、2号艇は41時間30分水中を走行し、目標地点で弾頭を水中爆発させた。朝鮮中央通信によると、これは敵の艦艇のみならず、海軍基地も破壊することを見込んだ核実験だったという。
公式発表によると、実験は成功し、北朝鮮は起こりうる海戦の流れを劇的に変えられる兵器を手に入れたという。

航続距離と精密誘導

北朝鮮の水中艇は、おそらくソ連製の魚雷65-76「キート」をベースに開発された。65-76「キート」はホーミング魚雷で、水中核爆発により敵の空母を破壊することを目的に開発されたものである。直径650mm、全長11.3m、重量4.45トン、航続距離100km、速力70ノットの魚雷だ。初期のロシア海軍に配備されていたが、2000年8月に潜水艦K-141「クルスク」が沈没した後、現役を退いている。
軍事専門家は、北朝鮮の新兵器は既存モデルをベースに開発される場合が多いことを繰り返し指摘してきた。しかし、魚雷65-76をベースとしながらも、北朝鮮の設計者らはこれに大幅な変更を加えている。
まず、新しい誘導制御装置を導入し、複雑な動きと所定の地点への正確な到着を可能にした。つまり、水中での正確な誘導という難題を解決したのである。
次に、ケロシンと過酸化水素を使った推進方式が、リチウムイオン電池を使った電気推進に明らかに変更されている。北朝鮮の水中攻撃艇は「キート」のように70ノットで走行することはできないだろうが、代わりに航続距離が劇的に伸びている。3月25〜27日の実験では、平均速度約9ノットで約600kmを走行した。おそらく50〜100km程度の近距離であれば速度は約30〜40ノットに達し、海上の艦艇を迎撃するのに十分な性能を発揮すると思われる。
このような水中攻撃艇は、日本の回天魚雷のように潜水艦に固定するだけでなく、軍艦や商船を改造して搭載させることも可能である。
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小型潜水艦の大きな力

核兵器を搭載した小型艇は深刻な脅威である。第二次世界大戦中の小型潜水艦や誘導魚雷の成功を見ればそれが分かる。
日本では小型潜水艦として、甲標的甲型潜水艦が開発された。全長23.9m、排水量47トン、乗員2名、兵装として魚雷2本を装備していた。1941年12月の真珠湾攻撃には、この型の潜水艦が5隻参加した。そのうち2隻が港への侵入に成功した。1隻は水上機母艦「カーティス(AV-4)」と駆逐艦「モナハン(DD-354)」に対して魚雷を発射したが、命中しなかった。もう1隻は戦艦「オクラホマ(BB-37)」を撃沈した。最近になって、日本の航空機が撮影した写真に、潜水艦から発射された魚雷の軌跡が写っているのが発見されている。また、転覆して沈没した戦艦の損傷状況から、空爆ではなく水中爆発であったことも明らかだ。また、1942年には、潜水艦から発射され、戦艦「ウェストバージニア(BB-48)」を攻撃するはずだった450mm魚雷の不発弾をアメリカ人が湾内で発見している。ちなみに「ウェストバージニア」は空爆と航空魚雷で撃沈された。
真珠湾の他にも、日本は1942年5月にシドニー港とマダガスカルのディエゴ・スアレス港を小型潜水艦で攻撃し、失敗している。このときはイギリスの戦艦「ラミリーズ(07)」が大破し、タンカーが沈没した。また、日本の小型潜水艦は1944年にも、サイパンで弾薬を積んだアメリカの上陸用舟艇を破壊している。
イギリスでは、1943年から1944年にかけて、小型のX級潜水艦(X艇)が建造された。全長15.6m、排水量30トン、乗員4人で、兵装として2トン爆薬を2個搭載していた。イギリスはこのX艇を20隻建造した。1943年9月、6隻のX艇がノルウェー北部のケ・フィヨルドにあるドイツ海軍の基地を攻撃した。うち2隻がドイツの戦艦「ティルピッツ」の下に爆薬を設置することに成功。この爆発で戦艦は大きく損傷して航行不能となり、1944年11月にイギリスの爆撃機によって撃沈された。また、X艇は、1944年9月にノルウェーのベルゲンで浮きドックを沈め、ノルマンディー上陸作戦「オーバーロード」の事前準備の際には偵察に従事した。
イタリア海軍は戦時中、ユニオ・ヴァレリオ・ボルゲーゼの指揮のもと、第10潜水戦隊「デチマ・マス」を編成した。この潜水戦隊に配備されたのが魚雷艇「マイアーレ」である。「マイアーレ」で爆薬を目標まで運び、艦底を仕掛けるようになっていた。1941年3月から1943年8月までの間に、魚雷艇の水中工作員はこのやり方で24隻の艦艇を沈め、重巡洋艦「ヨーク」を大破させ、戦艦「クイーン・エリザベス」、巡洋艦「ヴァリアント」、駆逐艦「エリッジ」に損害を与えた。このほか、イタリア海軍はSA級とSB級の2種類のポケット潜水艦を開発した。ボルゲーゼはSA級ポケット潜水艦を使ってニューヨーク港を攻撃しようと計画していた。
また、一説によると、イタリアの水中工作員は1955年10月、セヴァストポリ湾でソ連の戦艦「ノヴォロシースク」(元はイタリアの戦艦「ジュリオ・チェザーレ」)も撃沈したとも言われている。
このように、魚雷や爆薬で武装した小型潜水艦が、巨大な軍艦を沈めることは十分に可能なのである。

核爆発で戦艦を吹き飛ばす

繰り返すが、核爆弾は小型潜水艦を非常に強力な兵器に変える。1946年7月、ビキニ環礁の近くで、アメリカは核爆発が軍艦に与える影響を調べるため、2回の核実験を行った。実験にはさまざまな型の退役艦や戦利艦95隻が集められた。使われた核爆弾は、2回とも、長崎に投下されたものと同じ23キロトンのプルトニウム爆弾だった。
最初の実験では、空中核爆発により5隻が沈没し、14隻が大破した。戦艦「ネバダ(BB-36)」は沈没しなかったものの、被ばく線量が大きく、実験動物は放射線病で死亡した。
2回目の実験では、水中核爆発により13隻が沈没。戦利艦のドイツ重巡洋艦「プリンツ・オイゲン」は大破し、実験から5ヵ月後に沈没した。戦艦「アルカンサス(BB-33)」は爆発地点から155メートルの距離にあったが、核爆発により吹き飛ばされ、船首からラグーンの底に突っ込み転覆した。いずれの艦艇も非常に強い放射能汚染を受けていた。
ビキニ環礁での実験は、たとえ比較的低出力の核爆発であっても、特に艦隊が海軍基地にいれば、これを破壊できる可能性があることを示した。
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同じ土俵

北朝鮮軍司令部が、日本の主要な海軍基地である横須賀、佐世保、呉、舞鶴への攻撃に核搭載潜水艦の使用を計画している可能性は否定できない。このうち最も重要な標的は、アメリカ第7艦隊(空母1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦7隻)と日本の海上自衛隊(空母2隻、護衛艦9隻、潜水艦9隻)が置かれている横須賀基地である。横須賀基地への攻撃が成功すれば、この地域の日米の海軍力の核を破壊することができる。
しかし、横須賀基地を攻撃するには奇襲性と有利な条件が揃う必要がある。水中攻撃艇が湾内に侵入するには、防潜網、対潜艦、ハイドロフォンなど、基地の防御を突破しなければならない。また、より可能性が高いのが、核ミサイル攻撃の後、核を搭載した水中攻撃艇で艦艇や基地のインフラを叩くという複合的な攻撃が計画されていることだ。艦隊は基地を奪われると支援を失う。
海上で空母を攻撃する試みも十分にありうる。ただし、こちらは難度が高い。空母は水上艦と潜水艦に守られているからだ。しかし、北朝鮮の水中攻撃艇が非常に静音性に優れ、空母がいるべき場所に事前に到着し、しばらくそこで動かずにいることができるとすれば、攻撃が成功する可能性は格段に上がる。新しい水中攻撃艇にこのようなことができるかどうかは、わからない。それを発表してくれるほど北朝鮮は親切ではないからだ。
いずれにせよ、北朝鮮の新兵器は地域のパワーバランスを大きく変える。北朝鮮海軍にとっては、アメリカや日本の艦隊と海戦で同じ土俵に立てるようになるほか、有利な条件が揃えば勝利できる可能性さえある。
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