【視点】犯人探しはイランにたどり着かない イスラエルは警告を受けたが確かめなかったのか?
2023年10月16日, 22:22 (更新: 2023年10月18日, 17:56)
© AP Photo / Ohad Zwigenberg警察署の外で話すイスラエルの警察官と兵士(イスラエル)
© AP Photo / Ohad Zwigenberg
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イランはおそらく、ハマスがイスラエルに対する作戦を計画していることは知っていたが、正確な時期や範囲は知らなかった。これが米国情報機関の暫定的評価であり、今後数週間にわたって精査されることになる。米政府高官によれば、米国側は第三者や外交ルートを通じたイラン側からの、「10月7日の攻撃には関与していない」とする通牒は受けていないという。まだ何も証明されていないのにも関わらず、イランに罪があるとする「米国の執着心」や紛争におけるイランの「悪役としての役割」は、どの程度事実に基づいているものなのだろうか。スプートニクは、ロシア外務省・対過激派国際協力有識者会議の委員を務めるアナリストに話を聞いた。
歴史科学博士で東洋学研究所アラブ・イスラム研究センターの主任研究員であるボリス・ドルゴフ氏によれば、さまざまな理由でイランを非難するレトリックは、アメリカの慣習となっているが、たいていは確固たる根拠を欠いている。
「米国とイスラエルによるイランへの非難はこれまでもあった。例えば、イスラエルはイランが近い将来核兵器を保有するようになると非難し、それを裏付ける文書まで提供した。しかしその後、それが事実ではないことが判明している。また米国は、イランがテロを支援していると非難してきた。これは、1978年のイラン・イスラム革命以来の対立関係が続いているため、イランに対する米国とイスラエル(および西側諸国)のおなじみのレトリックとなっている。それ以降、イランは制裁下にあるが、ダイナミックに発展し、経済的にも一定の成功を収めている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事は、イランに対する新たな中傷行為だ。 エジプト当局はイスラエル側に3日前に攻撃の可能性を警告したが、イスラエル側からは何の反応もなかった。おそらく情報の信頼性が低いと判断したのだと思う」
欧米のメディアは今、イスラエル当局がなぜこのような悲劇的な失態を犯し、多数の民間人が犠牲になったのかについて議論している。イスラエルは、当局が「何か大きなこと」に関する警告を無視したというエジプト情報当局者の主張を否定している。
しかし、事実は依然として残っている。イスラエルでは近いうちに「事態の爆発」がおこるだろうという警鐘が鳴らされていたのに、何らかの理由でその音は聞こえなかったのだ。
ドルゴフ氏は、もしイスラエルと西側諸国がエジプトからの警告で差し迫った攻撃を知っていたのなら、なぜ今になって自らの失敗をイランのせいにするのかという論理的な疑問が生じると指摘する。
「これはナンセンスだ。イランが情報を知っていたとしても、それは信頼できないものであったかもしれないし、敵対国に情報を提供する義務はない。 イランに対する非難は馬鹿げている。この情報攻撃の目的は明白で、イランとパレスチナ民族運動に対する米国とイスラエルの新たな圧力だ。米空母の派遣も同様の目的で、イランに対しハマス側としてこの紛争に干渉しないよう睨みをきかせるためだ。最近、プーチン大統領とイラン首相の会談があったが、彼らは紛争を終わらせる平和的な方法を模索するための協力で一致した。そのためなぜ米国が、イランがイスラエルの動きに対抗するためにこの紛争に介入するはずだと判断したのかは不明だ。米国は根拠なくイランをめぐる情勢をエスカレートさせているが、これは諸刃の剣だ。イスラエルはガザ地区で完全な交戦状態にあるため、今イランを攻撃する余裕はない。米国も国際的な大義名分がないため、イランに対して直接軍事行動を起こすことはできない。イランがイスラエルに何らかの情報を伝えていないのではないかという疑惑は、大規模な軍事衝突を起こすには不十分だ」
ドルゴフ氏は、イスラエルによるガザ地区での地上作戦は間違いなく紛争をさらに悪化させ、紛争の長期化と多数の民間人の犠牲を招くだけだと続ける。
「このシナリオは、パレスチナに味方するイスラム教徒のディアスポラが多い欧州を含め、反イスラエル感情の波につながるだろう。米国にもイスラム教徒のディアスポラがあり、世界各地で大きな 『反イスラエルの波』が起こる可能性がある。 それはイスラエル側に対するテロ行為を誘発し、イスラエルだけでなく、西側諸国にも影響を与えるだろう」
これはかなり深刻な状況であり、紛争のさらなる激化は、今後のイスラエルの行動に大きく左右されるとドルゴフ氏は締めくくった。