択捉島ヤースヌィ空港の軍民共用化は日露両国にとって何を意味するのか?

1月30日、ロシア政府は法令情報のサイト上で、択捉島における旅客用空港(ヤースヌィ空港)を、軍民共用空港とする文書を発表した。これに対し日本政府は2日、「北方四島におけるロシア軍の軍備の強化が疑われ、わが国の立場と相容れない」とし、ロシア側に抗議したことを明らかにした。
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この決定が意味するところは何なのか、ロシアの安全保障政策に詳しい軍事アナリストの小泉悠氏に話を聞いた。

小泉氏「今回の決定は択捉のヤースヌィ空港を軍民共用化し、軍用機の配備を認めるものですが、これだけではなんとも言えません。もともと択捉には軍用飛行場である『ブレヴェストニク』がありますが、霧が多く後方支援機材が貧弱なため、運用に制限が多かったのです。そこでブレヴェストニクの機能をヤースヌィに移すだけだとすれば、実質的には大きな変化はありません。しかし、ヤースヌィに空軍の輸送機などが離発着できるようになれば、平時の兵站がより安定化し、有事に急速増援を行なう能力も高まるでしょう。ただし、有事に空港が動員されるのは当然ですから、やはり新しい展開ではありません」

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小泉氏はまた、今後のロシア軍の出方次第で、空港の機能が変化する可能性もあると見ている。

小泉氏「戦闘機などをヤースヌィに前方配備するとなれば、新しい展開となります。これまで北方領土に配備された航空部隊はブレヴェストニクの第101独立ヘリコプター飛行隊だけで、Mi-8を数機保有するだけの小規模な部隊でした。かつての択捉にはMiG-23戦闘機が多数配備されていましたが、ソ連崩壊後にすべて放棄されています。このため、北方領土には短射程の戦場防空システムを除き、広域防空能力がありません。北方領土をオホーツク海防衛網の一部として機能させるならば、なんらかの広域防空能力を持たせようとすることは軍事的に理解し得ます。ただし、それが戦闘機であるのかどうかはわかりません。ヤースヌィに配備できる戦闘機はごく少数でしょうし、現時点では戦闘機を運用できる体制も整っていません。S-400のような広域防空システムを配備する方が現実的かと思いますが、この点はロシア軍が実際に何をするのかを注視するほかありません」

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ロシアの、極東における軍事インフラを強める動きはここ近年で加速している。2016年、新型地対艦ミサイル「バル」「バスチオン」がそれぞれ国後・択捉島に配置され、日本の世論の反発を呼んだことは記憶に新しい。それ以外にも、昨年12月22日にはウラジオストクで地対空ミサイルシステムS-400の運用を開始したほか、クリル諸島における新しい海軍基地建設の話も進んでいる。この計画は、昨年11月、ロシア上院防衛・安全保障会議のクリンツェヴィチ第一副委員長によって明らかになった。場所はおそらく、国防省とロシア地理学協会が調査研究を進めてきた、マトゥア島(松輪島)だとみられている。クリンツェヴィチ氏は、新基地には「あらゆる種類の軍艦が配備できるようになる」と話し、ミサイル防衛システムの配備を示唆している。ただし、離島での基地建設は容易ではなく、実現までには長い時間がかかるだろう。

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世界経済・国際関係研究所アジア太平洋研究センターで日本研究を行っているヴィタリー・シュヴィドコ氏は、ヤースヌィ空港の軍民共用化は日露関係にも平和条約交渉にも影響を与えないという見解を示している。

シュヴィドコ氏「ショイグ国防相は、昨年3月に東京で行われた『2プラス2』で、ロシアは国境を守るため海と空の防衛を強化すると言及していましたから、今回の件は日本にとってニュースとはならないはずです。よって、両国関係に影響を及ぼすとは思いません。クリルにおける共同経済活動協議が、空港の軍民共用化によって邪魔されることもありません。もともとこの協議は、袋小路とまでは言わないものの、目立った進展がなく、法的基盤の問題など山積する課題に難儀しているところです。

またロシア国防省は、クリルの主権の問題は協議対象ではなく、その意味でどんな防衛策も絶対的に正しいとみなしています。そしてその方針が、ロシア政府が模索している、日本との平和条約締結交渉へ向けた方向性と矛盾するとは考えていないのです」

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