RT独占 メドベージェワのロングインタビュー 五輪で彼女に何が起きていたか

平昌五輪が終わった。ドラマとしか言いようのない事態がロシア女子フィギュアには起きた。最強の金メダル候補と目されてきたエフゲニア・メドベージェワ選手が後輩のアリーナ・ザギトワ選手に逆転されたのだ。
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スプートニク日本

ザギトワとメドベージェワのすさまじい対決の場となってしまった五輪後のこの間、出演の機会はあったものの、多くは語らなかったメドベージェワがロシアのRTテレビの長時間独占インタビューに応じ、心中を明かした。

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メドベージェワ
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RTでメドベージェワ

まず、今週、メドベージェワ選手がミラノの世界選手権に欠場するニュースが伝わった。五輪前の大事な大会を怪我で軒並み欠場せざるを得なかったメドベージェワの心中はどうなのだろうか?

欠場に至るプロセスというのは精神的に常につらいものです。シーズン中で欠場するのは今回が初めてではありません。確かにこれは辛い。でももっとつらいことになるのはソファーに座ってミラノからの中継を見ることでしょう。

わかっていただきたいのは、これは五輪後、疲れたということではありません。ただ足の痛みがかなり強くて。こんな状態では全力を出して滑ることは不可能です。練習さえ無理なんですから。お医者様に見せたら回復には2か月かかりますって。きっぱり言われてしまって。

では実際にどういう健康状態なのか? 2カ月の治療期間中に滑ることはできるのだろうか?

ジャンプはだめ。足に大きく負担がかかることはしてはだめ。滑ることは許されますが、本当にソフトな滑りでないとだめです。

このかなり前からの古傷をようやく今回完治するということ、今の私には1番重要なのです。半年続きましたからね。早く治して忘れてしまいたい。」

ここに至るまでは怪我の問題がこれだけ長引くとはだれも予想できなかった。治療に専念することを決めたメドベージェワ選手だが、痛み止めをうちながら、テーピングをした足で出る気構えだったのかという問いに、強い彼女はこう答えた。

私はいつだって我慢はする覚悟です。スポーツとはそういうもの、自明の理ですから。できない人間であれば、どんな成果もあげられない。だから可能性があり、状態が、私が長く続けたいと思っているこのキャリアを損なわないのであれば、犠牲も厭いません。

RTでインタビュー、メドベージェワ

さて、五輪終了から2週間がたった。この間、メドベージェワ選手は何をしていたのだろうか?

自分の気持ちをリセットして満たそうとしています。本を読み、音楽を聴き、電話に新しいゲームやトレックをダウンロードして、新しいことにトライしてみました。いろんなことをやっています自分の血管に何か新しいことを入れなおさなければという感覚がしています。

五輪から帰国してメドベージェワとザギトワを国中が待っていた。なかでもただただ彼女たちに会って写真を撮るために、朝早くから夜遅くまでたち続けた子どもたちの熱いまなざしが、一番強くメドベージェワの心を打った。

子どもの言葉は一番尊いものです。子どもは一番大事な観客なんです。彼らはいつだって素直で嘘など決してつきません。

フィギュアスケート界には今週、衝撃的なニュースが走った。ブルガリアで開催の世界ジュニア選手権で、ロシアのアレクサンドラ・トルソワ選手(13)が4回転トーループに成功し、見事金メダルを勝ち取ったのだ。4回転トーループという技はあの平昌五輪金メダリストのザギトワもこなしてはいない。難易度の高い技をいとも簡単とこなす後輩がメドベージェワの後ろに続いている。これを彼女はどう思っているのだろう。

ロシア女子フィギュア現象
この種目は常に変化しています。プログラムはどんどん複雑になっていく。ジャンプの回転数も増える。世界ジュニア選手権を見れば一目瞭然です。フィギュアは飛躍に次ぐ飛躍を重ねて、どんどん前進している。これはよいことで、またそうあらねばなりません。なぜなら人類は発展しているからです。ですからルールも変わっていく。選手だけが変わらないなんてことないでしょう? 新たな規則に適応し、闘い続けねばならない。誰も最初から『私はこんなふうには演技しない』とは言えません。なぜならこれは私たちの大好きな仕事であり、これを放っておくことはないからです。こういう方が逆に面白いじゃないですか。アジテーションがあって、新しいモチベーションがあるというほうが。

トルソワの4回転トーループは、メドベージェワにとっては受けて立たねばならない挑戦ということか?

それはそうです。でもだからといってパニックを起こすこともないし、そうしても何の助けにもなりません。落ち着いて分析し、何が起きているのか理解することが一番大事なのです。1つ、これだけは間違いない事実が、そこから作業を始めるべきことがあります。それは、好きなことをするとき一番大事なのは、頑張り、忍耐、そして何としてもやり遂げたいと強く願うことです。

五輪の自分の演技の録画をメドベージェワはわずか1度だけ見直したという。その際に彼女の心によぎったものはなんだったのだろうか?

五輪で一番恐れたことは後悔の念にとらわれて帰国することでした。心の中を探しまくり、どこをもっとよく滑れたはずだったのか、もっと成果をだせたはずだったとか考えること。ところがそういう気持ちは私には今まったくありません。そして完全に出し切ったといえることがとてもうれしいです。私は教えられたことのすべてをやり遂げました。そして魂のすべてをこめたのです。

RTでインタビュー、メドベージェワ

トゥトゥベリッゼ監督がメドベージェワを抱擁して何かを囁いた。あの場面に世界の目が釘付けになった。あの瞬間、何をメドベージェワは聞いたのか。それに答えることは彼女は拒んだ。彼女はあの時相手から聞きたいと思ったことを監督が言ってくれたのか、という問いに短く「そうです」と答えると、「これは秘密のままにしておきましょう」とだけ語った。

観る方も演技する方も、これ以上ない張り詰めた状態だった平昌五輪。演技に入る前に外界から自分を完全に遮断する、人並みはずれた集中力をもつメドベージェワはここで実は不思議な体験をしていた。

演技が終わったあと、会場全員がロシア語でしゃべりだしたんです。みんな大声で叫んでいる。『ジェーニャ、よくやった!』って。だって変でしょう。試合が行われたのは韓国なんだし。でもあの瞬間、私の耳に入ってきたのはロシア語だけだったんです。

五輪出場への道は平たんとは程遠かった。怪我による大事な大会への欠場からのプレッシャー。これにIOCからのロシア代表団の出場資格はく奪の恐れが加わった。メドベージェワはロシアを代表して選手らの出場への夢をIOCに伝え、理解してもらうという任務を負った。これはとても普通の事態ではなかった。

私はただただ目標に向かって進んでいました。これはロシア代表団の誰もがそうだったと言えると思います。私は応援を感じていたし、自分の課題に集中することができた。テレビでもどこにいっても『ロシアはあんなことをした、こんなことした、ロシアは五輪からはずされるだろう』と際限なく言われる中で作業を続けるのはとても難しい。時々ものすごく辛いときがありましたけど、テレビを見ず、スマホからニュースも読まず、ただただ仕事に集中した結果、2つの銀メダルを獲得できたんです。

フィギュアの「サムライ」 ザギトワとメドベージェワが語った 日本での人気、将来のプラン
メドベージェワの滑るところはどこでも会場全体が彼女の熱烈なファンと化す。轟く応援、歓声、拍手。観客たちが自分の期待とメドベージェワへの愛を一体となって相手に伝えようとしているのがわかる。フィギュアの魅力がもたらす感動的な場面を私たちは平昌五輪でも目撃した。リンクに降り立ったメドベージェワは、こうした観客の反応をどう見ているのだろう?

トリビューンでは絶対に観客の方を見ません。なぜだか見るのは審判と自分の内面だけです。そして頭のなかは普通、たったひとつのことに考えを巡らせています。それは『今、うまくいっていないことは何か?』 その理由を探ろうとすれば、おそらくうまくいかないことをなんとか修正しようとしているからでしょう。神経をとがらせたり、恐ろしさに震える暇はほぼありません。これはまさに冷静に計算をしている時なのです。この冷静な計算を邪魔するものがあるなら、それを頭からどかさねばならない。残念ですが、演技の最中、ロマンティックな気持ちなど一切ないんです。とはいえ、五輪のフリープログラムでこれを少しだけ感じることができましたけど。それはもちろんいいようのない素敵な感覚でした。

五輪が終わり、スプートニクの独占取材に応じたトゥトゥベリッゼ監督の口から、奇しくも「(ザギトワとの)ふたりは五輪で、そしてそれに向けた準備の中で本当の意味でサムライの道を潜り抜けた」という言葉が漏れた。一つの大きな戦いを見事に終え、すぐさま次の戦いへ向けて歩いているメドベージェワのこの発言を聞いていると、監督のセリフは誇張ではないことがよくわかる。甘さも緩みもない、抜きつ抜かれつのフィギュア界。メドベージェワの成長から目が離せない。

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