愛と詐欺のストーリー。日本から来た偽プリンスがヨーロッパの半分を欺いた

3月末、スプートニク編集部にジュアン・タメンヌ氏から連絡が入った。推理小説のごとく複雑怪奇なストーリーの解明に力を貸してほしいというのだ。彼によると、日本でヨーロッパのブルボーネ王室のプリンスを騙る詐欺師が一般の人々からお金をだまし取っているという。スプートニクの記者は、被害者や意図せず「プリンス」の共謀者になってしまった人々に話を聞き、この奇妙なストーリーの解明を試みた。
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サルヴァトーレ・モルティサンティ氏のストーリー

すべては2013年、20歳の日本人ピアニスト、北順佑が名誉あるIBLA財団の音楽コンクールに出場を決めたことから始まった。

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イタリアのピアニストでIBLA財団の会長でもあるサルヴァトーレ・モルティサルティ氏によると、北順祐には特別な才能はなく、演奏技術も独学レベルだったという。モルティサルティ氏は次のように思い出す。「青年は、自分は貧しい家の出身だと私たちに語った。そして、私たちは彼にチャンスを与えることにした。これが彼の助けになるかもしれないと考えたのだ。」北順佑はIBLA Grand Prizeにノミネートされたが、受賞することはできなかった。

その後、サルヴァトーレ・モルティサルティ氏がこの若手ピアニストの人生に関わることはなかった。ある日、一人の女性が匿名で彼に連絡をしてくるまでは。彼女はモルティサルティ氏の署名が入った文書のコピーを送ってきて、彼がこれに署名したのかどうかを尋ねた。その文書には「ジュンスケ・キタ・シチリア公マエストロ殿下」と「イタリア王后陛下」が日本を公式訪問する予定だと書かれていた。その文書にはイタリアのマッテオ・レンツィ首相とサルヴァトーレ・モルティサルティ氏の署名が付いていた。しかも、モルティサルティ氏については、ブルボン・ディ・イタリア大公殿下サルヴァトーレ・モルティサンティ卿と記されていた。

北順祐

モルティサルティ氏は言う。「私はそのとき、これはまったく狂気じみた話だと思いました。」彼は、文書に記されている署名は偽造であると伝えた。すると女性は他にも複数の文書と偽プリンスの活動に関する数多くの情報を送ってきた。

デヴィ・スカルノ氏のストーリー

サルヴァトーレ・モルティサルティ氏は送られてきた文書の中に、元インドネシア大統領夫人のデヴィ・スカルノ氏の署名の付いた文書を見つけた。スカルノ夫人はIBLA財団のメンバーである。北順祐は自身のサイトに、音楽での偉業に対してスカルノ夫人から本人の名を冠した賞を授けられたと書いている。

スカルノ夫人はスプートニクに対して次のように語った。「私はいちども彼に自分の賞をあげたことはありません。これは嘘です。」彼女によると、北順祐は数年前に彼女に連絡をとり、彼のIBLA Grand Prize授賞書類に署名するよう頼んだという。「その文書は、私の名前の反対側が空白になっていました。彼は私に対して、私が今年IBLAのオフィスに行けなかったので、署名が必要だと言ったんです。それで、私は署名しました。ニューヨークのIBLAのオフィスに電話をして、確認をとるべきでした。でも、まさか授賞したという嘘をつく人がいるなんて思いもしませんでした」とスカルノ夫人は認める。

デヴィ・スカルノ氏の話を知ったサルヴァトーレ・モルティサルティ氏は行動を開始した。彼は大阪と東京のイタリア大使館、在ニューヨーク日本大使館、大阪府警察に連絡し、署名偽造で裁判所に提訴した。

北順祐のストーリー

彼の公式サイトに掲載された情報によると、北順祐は「第3代シチリア公マエストロ・ブルボーネ殿下」の称号を持っており、これは2013年に第152代イタリア・ブルボーネ王室と第152代ブルボーネ大公・大公妃両陛下から授けられたものだという。北順祐はまた「3000年にわたるブルボーネ王室史上、ロイヤルファミリーのメンバー以外が称号を授かる」のは初めてのケースだとも書いている。ところが、文章の中で彼は何度も自分の称号を混同している。彼は「マエストロ・プリンス」だったり、単なる「プリンス」だったり、「大公」だったりするのだ。

北順祐

2015年からは、ヴォルコフ帝家の出身者だという人間と一緒になって、「ロシアとイタリアの新王室外交」なるものの会合を行うようになった。年端のいかない若者が自らを王室出身者だと騙ってヨーロッパ、ロシア、アジアを旅行している。彼らは自らの「公式訪問」にあわせて、北順祐がピアノを演奏するパーティーと晩餐会を催している。「宮中晩餐会」にはお金を払えば出席することができ、その収益は「プリンスジュンスケ世界平和財団」なるものに入るという。そのような財団が本当に存在するのかどうかは謎だ。

すべてはまるで下手な芝居のようだ。出演している俳優たちはもっともらしく見えるよう努力すらしていない。ロシアにはヴォルコフ家なる皇室があったことはなく、本物のブルボン家は世界最高峰のピアノ演奏に対してさえも称号を与えたことはない。詐欺師たちは超高級ホテル、美術館、コンサートホールで写真撮影し、それがまるで宮殿や自らの邸宅であるかのように騙っている。

王后になってしまった女性のストーリー

約2年間、すべてのパーティーや晩餐会で北順祐には一人の老齢の女性が付き添っていた。彼女はときには「第152代イタリア大公妃」の称号で登場し、ときにはイタリア王后になったりしていた。私たちは彼女と連絡をとり、彼女の話を聞くことができた。

「私とジュンスケが出会ったのはまったくの偶然でした。たまたま同じ場所に居合わせたのです。私は彼の音楽を聴き、素晴らしいと思いました。そして彼を自分の国に招待したのです。彼はやってきて、私のところに残りました。私たちの間にはとてもあたたかい感情が生まれました。あなた方が考えるような一般的なラブストーリーではありません。なにしろ、私は73歳で、彼にとってはお祖母さんでもおかしくないのです。けれど、私は本気で好きになったのです。両思いでした。ジュンスケは私を日本に招待してくれました。

私は同意しましたが、ただ彼のコンサートを聴きに行くだけのつもりでした。けれどジュンスケは、私には単なる聴衆ではない役が用意されていると言ったのです。そのとき、自分がブルボーネ大公妃として渡航するのだということを知りました。とても驚きました!私のどこがブルボーネ家だというのでしょう?けれど、私はジュンスケを信じて疑いませんでした。当時、私たちが交際してすでに1ヶ月が経っており、私は彼にとても良い印象を抱いていたからです。しかし、私は日本に来て、いったい何が起こっているのかを解明し、多くの情報を得たいと思うようになりました。そこで、今、捜査を行っているモルティサルティ氏に連絡を取ったのです。昨年の秋、私はジュンスケと交際するのをやめました。けれど、2週間前に彼から素晴らしい手紙が届いたんです。彼は許しを請い、自分が間違っていた、仲直りしたいと書いていました。私はすべてを許しました・・・」

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私たちがこの会話を交わしたときにはすでに、ジュンスケが大公妃だとか王后だとか呼んだこの女性は自らの「退位」文書に署名していた。彼女はサルヴァトーレ・モルティサンティ氏と連絡を取り、「プリンス」の名声を危うくする文書を彼に送った。その後、どういう理由かは分からないが、彼女は電話にも応じなくなり、モルティサルティ氏やジュアン・タメン氏の連絡にも返事をしなくなった。彼女はスプートニクへの独占コメントで、自分は脅されていると述べた。「この捜査を始めた人々は、私だけはなく、この世界に愛をもたらそうと努力した人たち全員(編集部注:つまり、彼女とジュンスケのこと)を脅しています。彼らは私に嘘をつきました。彼らは私からすべての情報を引き出し、それを自分たちの目的のために使おうとしているのです。私の信頼を騙したのです。彼らは無慈悲で、どんな手段を使ってでもジュンスケの名声を葬り去ろうとしています。」

この話を最初に伝えたジュアン・タメンヌ氏によると、この女性は「宮中」晩餐会や旅行のために相続した遺産をすべて使い果たしてしまい、今はやりくりに困っているという。愛の対価は高かった。

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皆さんも、プリンス・ジュンスケ・キタやセルゲイ・ニコラエヴィチ・ヴォルコフ大公を騙る人物には注意し、こうした人物を信用しないようにしてください。これらの人物に関する情報をお持ちか、彼らの詐欺の被害に遭われた方は、必ず警察に連絡してください。

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