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インドのビピン・ラヴァト陸軍参謀本部長は10月7日、「ニューインディアン・エクスプレス」紙からの取材に、インド政府は、ロシアから地対空ミサイルシステムS-400「トリウムフ」を購入したことで米国が制裁を発動しうることは認識していると語っていた。にもかかわらずラヴァト参謀本部長は、「それでも我々は独自の政策を行っていく」と明言していた。10月5日、プーチン大統領のインド訪問で同国へのS-400の供給契約が締結された。5つの大隊に供給される最新ミサイルシステムは総額54億3千万ドル。この契約は、米国が「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」の発動も辞さないと脅迫したにもかかわらず、締結された。
ところが今回のインドの決定で、トランプ氏の提唱するインド太平洋戦略の枠内での印米協力は今後どう発展するのか、そもそも日米印豪の枢軸の将来性はどうなるのか、という問題はなかなかの興味を孕んできた。
制裁問題はNATO内部にも亀裂を走らせた。
昨年末、12月、アンカラでロシアとトルコは同様の合意を結んだ。これにはトルコにおいてS-400の生産を組織するためのロシアと軍事技術協力も含まれていた。
米国はこれに神経質に反応。制裁は発動されなかったものの、米議会の決定で第5世代戦闘機F-35のトルコへの供給は一時停止されることになった。この一時停止は米議会両院の2019年度国防充当法案の合意によって行われることになる。米国の最強のNATOパートナーに対してのものとしては、かなり矛盾した決定だ。
一方で米国の制裁の脅威が無視されているのは武器の側面に限らない。武器ではロシアは米国の軍需産業と正面切った競争を展開している。「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」に照らせば、ロシアからバルト海の海底を通って西ヨーロッパにガスを輸送する「ノルド・ストリーム2」プロジェクトも制裁の対象になる。問題は、インドのケースと同じく、ドイツのパートナーらが断念しようとしない場合、米国が自由な動作が利くフィールドをどう手元に残したかということだ。
「ノルド・ストリーム2」建設の速度は行程予定を堅持している。9月の初旬、フィンランドの海底でパイプの敷設工事が開始された。9月25日には「ノルド・ストリーム2」プロジェクトの運営会社「ノルド・ストリーム2AG」社は、ドイツでの敷設の準備作業を終了し、浅瀬の敷設工事に着手した。これにシンクロする形でドイツの陸上での敷設工事も進められている。9月28日、独「ガスケード・ガストランスポート」社は「オイガル(Eugal)」地区での建設許可を取得。同社は「ザクセン州の土地管理機関およびケムニッツの司法機関はガスけケード・ガストランスポートGmbHのプロジェクト執行者に建設計画承認の決定を渡した」と明らかにしている。
「ノルド・ストリーム2」プロジェクトの進展に米国は神経をとがらせている。ホワイトハウスは相変わらず、ロシアが欧州へのガス輸出のためにバルト海を横断して建設するパイプラインは将来、クレムリンのエネルギーによる兵器となり「害をもたらす」というプロパガンダを集中的に行っている。国連総会で演説したトランプ大統領は、「ドイツは即刻、別のエネルギーの可能性に目を向けるべきだ。さもなくばロシアに依存することになる」と指摘し、この発言でドイツからの代表団の失笑を買った。
欧州が米国の制裁へ向けるこうした姿勢は、ロシアとの関係性の中でだけ示されるものではない。9月25日、国連のフィールドで実施された露英独仏中国、EUおよびイランの閣僚級会談の結果、EUは米国の制裁を迂回してイランと決済を行うための金融メカニズムの創設が宣言された。これは一種の反米SWIFTといえる。
ロシアでは、近未来も米国の対露制裁は維持されるだろうとの評価が根を下ろしている。一方で制裁の経済的な意味ははっきりと薄まりつつある。共同戦線もなく、これからも張られることはない。それがロシアに対してだろうが、イラン、北朝鮮に対してであろうが、変わりない。米国の制裁に従うかどうかは、その国の外交政策がどの程度、米国に依拠しているか、独立したものかを如実に物語っている。