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今から300年以上前、歌舞伎では仮面を使用する代わりに隈取を考案した。芝居小屋の最後列からでも、舞台で演じられている登場人物の顔の表情や性格が観客に分かるようにするのが目的だった。だが、隈取の技法やその結果描かれる模様には、あたかも仮面の記憶が残っているかのようだ。隈取を施す際の作法は1時間以上続き、その内容はかつて秘密として厳しく守られていた。役者は公演の後、自分をひいきにしてくれている客に対し、絹織物に写し取った隈取(押隈)を贈る。今回ロシアには、50年間にわたって押隈を収集した故大鳥順一郎氏のコレクションに収められている押隈の数々が、大鳥氏の娘である西村寛子氏によって運び込まれた。このようなコレクションは、歌舞伎界そのものにおいてさえ残されていない。
隈取を紹介する今回の展覧会は、露日交流年を締めくくる各行事の一つ。主催しているのは、ビクトリア・トルストワ氏が代表を務める「ロシアカルチャーセンター京都」だ。トルストワ氏はスプートニクとのインタビューの中で、ロシアでは今回の展覧会のほかにも、訪露する日本人芸術家10人による着物ショーや絞り染めの展示、和楽器の演奏なども行われると話している。
トルストワ氏は「隈取が国外で紹介されるのは極めてまれなことです。今回の展覧会は、サンクトペテルブルクに続いてアラブ首長国連邦(UAE)で開催され、その後は日本を訪れた時にしか、目にすることはできなくなります。日本人芸術家たちにとっては、今回が初めてのロシア訪問で、ロシアで日本を紹介するという大きな名誉となります。今回の訪問がロシアと日本の一般の人々の間の相互認識に少しでも貢献し、より良い相互理解を促していくことを願っています。私たちの訪問は、日本文化へのロシア国民による関心が高まっている今、その波に乗って行われます。この波が引いてしまうことは決してないと確信しています。自分にとって何か新しいものを発見していくということよりも、魅力的なことは何もないからです」と語っている。