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西條氏は、「仮想将来人」の目線から持続可能な将来を描いていく「フューチャー・デザイン」の提唱者で、これをまちづくりや企業活動など様々な分野で応用できると考えている。仮想将来人のアイデアを、実際の行政に生かしている先進的な地域さえある。
西條氏「フューチャー・デザインの実験を、実際の行政に応用し始めたのが岩手県矢巾町です。現世代のグループを2つと将来世代のグループを2つ作り、皆が別々に半年間話し合いをして、最後に公表するという形をとりました。実験に参加しているのは、ごく普通の町民の皆さんです。
矢巾町は「フューチャー・デザインタウン」を宣言しており、町役場の中に「未来戦略室」という部署がある。この部署ではフューチャー・デザインの観点から町の重要な施策が立案される。
京都府の水道事業においても、ユニークなアイデアが出た。現世代は基本的に、水の安定供給を保つためには、水道の管路の維持や耐震化が大事だと考えている。
西條氏「ところが、その人たちを将来世代に飛ばして、仮想将来人になってもらうと、同じ人が全く違う意見を言い始めます。管路の維持が重要だ、と言っていた張本人が、『管路だけが水供給の方法ではない、人口減で高台の管路はリプレースされないだろうから、雨水を浄水して使えば良いのではないか』と言うのです。大切になってくるのは管路云々よりも浄水のイノベーションの方で、現世代の議論とは方向性が全く違います。」
西條氏は、人にはもともと、自分のエゴとは別に、将来世代の幸せを考えられる能力が備わっているが、現代社会を支えている「マーケット」と「デモクラシー」がそれを覆い隠していると指摘する。将来世代は今この瞬間に投票権を持っているわけではないので、いくら遠い将来を良くしたいと思っても、票は集まらない。有権者は目先の問題を解決してくれそうな人に投票してしまう。
西條氏「マーケットは現世代の人々の満足度を高めるだけです。将来世代は現在のマーケットにおけるお金を持っているわけではないので、声を上げることはできません。人間は、目の前の損得だけで動いてしまうような社会をこの100年作ってきましたが、これをやめようじゃないか、というのが私の考えです。」
西條氏「フューチャー・デザインは地域に応じた仕組みを考えて初めて力を発揮することがあり、そのバリエーションは現地の皆さんで考え、作っていくものです。ロシアでもぜひ試して欲しいです。これまで色々な実験をしてみてよくわかるのは、意外にも、良いアイデアを出すのは若い人ではなく年配の方だということです。医学の観点から言えば、過去のことを考える脳の部位のネットワークは、将来のことを考えるネットワークとほぼ同じなのです。だとするならば、過去の経験の長い方の方が、将来に対する想像力があるということになります。若い人だと、例えば50年後でも自分は生きているわけなので、つい自分の老後を考えてしまいます。年配の方は、自分が死んだ後のことまで考えます。すると、『私が私が』という考えにはならず、将来がより良くなるために考えようとします。」
フューチャー・デザインは研究対象としてまだ日が浅いが、 心理学や生物学など様々な分野の専門家からも注目されている。 今後、研究が進むにつれて、 社会そのものの仕組みを変えていくだろう。