ロシアに魅せられた沖縄の染色アーティスト、根路銘まりさん「モスクワで個展を開きたい」

沖縄とロシアを拠点に活躍する染色芸術家の根路銘(ねろめ)まりさん。まりさんは遠い沖縄から、ハイペースで何度もモスクワに通っている。何がまりさんをロシアへと駆り立てるのか?筆者は7月26日、モスクワのイズマイロヴォ・クレムリンの中にあるギャラリー「人形横町」で行なわれた、まりさんの「かんざし作り教室」を訪れた。
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まりさんは、自分で染めた着物に身を包み、日本髪で登場した。テーブルの上には、まりさんが日本から持ってきた、小さな正方形にカットされた色とりどりのちりめん生地や、布小物用の特殊な接着剤、飾り用ビーズなどが並ぶ。参加者たちは、つまみ細工の技法を使ってかんざしを作っていく。

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実は、このかんざし教室は、すでに「人形横町」の恒例行事になっている。花びらの作り方など、基本的な技術は同じだが、花の形そのものを変えることで、毎回違うかんざしができるようになっているため、リピーターも多い。この日も3人のリピーターがいた。今回はたまたま女性ばかりが集まったが、男性が奥さんや彼女にプレゼントするため作りに来ることもあるという。非常に細かい指先の作業だが、黙々と取り組み、どんどん形になっていく。まりさんは「皆さん、とても覚えが早いです」と感心する。

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1時間半ほど過ぎたころ、他の誰よりも手際よくかんざしを作り終えたのは、人形劇場「エトノスカスキ(おとぎ話)」創設者のスヴェトラーナ・ノヴィコワさん。「自分で人形を作っているので、かんざしが技術的に難しいということはありませんが、日本の布は、素材の質が素晴らしくて、それで何かを作るのはとても気持ちがいいです」と話す。

日本画が趣味の義母にすすめられて初めて参加したというガラス職人のスヴェトラーナ・ウソリツェワさんは、渋い色合いの生地をチョイス。普段使いのアクセサリーにする予定だという。「いつもはガラスでペンダントや指輪を作っているので、布は勝手が違って、やわらかくて大変でした。」

人形横町には日本のおとぎ話や伝説に関係した人形たちがずらりと並ぶ常設の日本コーナーがある。イズマイロヴォのクレムリンは、モスクワ随一のお土産スポット「ヴェルニサーシュ」に隣接しているので、モスクワ観光の際にはぜひ訪れてみてほしい。

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まりさんがロシアと出会ったのは全くの偶然だった。沖縄県立芸術大学在学中、母親が仕事の都合でモスクワに赴任することになったため、大学を休学してついていくことにしたのだ。不思議なことに、モスクワに住み始めて2週間経ったところで、「将来ここに住もうかな」という感覚がわいてきたのだという。丸2年間をモスクワで過ごした後に帰国・復学し、大学を卒業した。

まりさん「ロシアの良いところは、後腐れのない人間関係です。ロシア人と打ち解けるまでは大変ですが、いったん仲良くなると友達や家族を本当に大事にしてくれます。そういうところが大好きです。そして、町の雰囲気や景色も大きな魅力です。」

モスクワに住んでいた頃、日本文化フェスティバル「Hinode Power Japan 2017」に参加・出店したことがまりさんにとって大きな転機になった。まりさんの専門は着物の染めだが、それらを売るとなると一着の制作に長時間かかり、高額になりすぎてしまう。そこで気軽に「日本文化」を手に取ってもらいたいと考え、手作りのかんざしを販売してみることにした。ロシア人向けに、洋服でも合わせやすいデザインを考え、明るい髪色に映えるような色合いのかんざしを作ったところ、新感覚のアクセサリーとして好評を得た。その後は、ロシア各地での日本文化イベントに定期的に参加している。

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手作りかんざしで日本愛好家の間で有名になったまりさんだが、制作活動の柱は、やはり着物だ。まりさんは、着物全体が一枚の絵になっている「絵羽織」をメインにしており、お気に入りのモチーフは沖縄でよく見られる木「ガジュマル」。まりさんはガジュマルの木に、何か神々しいものを感じるのだという。

目下の目標は、近い将来に日本の伝統音楽や日本舞踊とコラボした着物の個展をモスクワで開催することだ。まりさんは、「私の染めた着物を着て日本舞踊を踊ってもらえたら嬉しい」と話す。

また、沖縄を含む日本各地で行なわれているロシア文化のフェスティバルでは、ロシアで仕入れたコットンや絹、プラトーク(ロシアの伝統的なスカーフ)の端切れなど、ロシアの生地を使ってかんざしを作り、ロシアを身近に感じてもらうような取組みを行なっている。

現在は沖縄の工房の設備を整えているところだが、将来的にはロシアにも工房を持ち、活動の幅を広げたいと話すまりさん。若手アーティストの夢は、ロシアとの出会いで、大きく広がっている。

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