ロシア科学アカデミー、世界経済国際関係研究所(IMEMO)、アジア太平洋調査センターの研究員で、日本政治・経済の研究グループを率いるヴィタリー・シュヴィドコ氏は、スプートニクのインタビューに対し、日本とEUの主な懸念は、中国の経済状況ではなく、その地政学的拡大にあるとの見方を示し、次のように語った。
「日本とEUのインフラ整備の合意は、今の段階では中国側への政治的宣言じゃないだろうか。なぜならこれには事実上、具体的なプロジェクトが明記されていないからだ。中国の「一帯一路」構想を日本は、経済的な意義にとどまらず、世界全体で中国の活動を拡大するための戦略的、軍事的意義を持つものととらえ、危惧している。
中国は、世界のさまざまな分野にグローバルな関心を抱いていることを隠そうとはしていない。しかし、こうした中国の経済作戦に日本政府、EUは疑問視し、懐疑的な姿勢を示している。中国は港湾や鉄道、物流施設など、戦略的に重要な施設を選び、借款を与えて建設している。
ところが債務国の方は支払い能力がなかったり、汚職に塗れているケースが少なくない。債権が返済ができなくなった場合、施設の所有権は中国へと渡る。しかもこれは中国政府が意志的に、意図的に行っている路線であることから、日本政府とEUはその方策に対するなんらかの対抗策を模索している。」
以前の協定の延長上
これに対して、経済学修士で高等経済学校、世界経済国際政治学部のアレクセイ・ポルタンスキー教授は、日本とEUの今回の合意は、中国のプロジェクトへの対抗策というより、論理的には日本がEUと昨年締結した他の大規模な貿易協定の「日本・EU経済連携協定」の延長上にあると考えている。
中国はすでにこの間に「一帯一路」構想での協力合意を世界の120カ国以上と締結した。欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は、日本との合意を調印する席で、「債務の山を築かない」または「1つの国に」重点を置いた上でインフラ建設を進めることを約束した。
欧州は1つ、だがアプローチは様々
ロシア科学アカデミー、世界経済国際関係研究所(IMEMO)、欧州研究センターのユーリ・クヴァシュニン所長は日本と欧州のプロジェクトの実施状況について、EU加盟国の中に中国のプロジェクトに個別のアプローチを行っている国があることから、困難なものとなっていると強調する。
経済だけでなく、環境保護も
「日本政府とEUは、中国が欧州において経済的拡張をすることで環境保護の基準が下がるのではないかと懸念している。今回、欧州議会の選挙では、欧州の環境保護運動史の中で『緑の党』が最大の議席数を獲得した。そしてEUのように日本も、環境破壊の世界的懸念を背景に環境保護基準の厳格化を志向している。最近、若き環境保護活動家グレタ・トゥーンベリさんが国連で行ったスピーチが大きな話題を呼んだのも偶然ではない。」
力は互角?
一方でクヴァシュニン氏は、今日の日本とEUには巨大プロジェクトで中国と競い合うことは極めて困難だと考える。
「日本とEUは今日、世界で一度に複数の巨大インフラ施設の建設に投資を行う大きな可能性は有していない。日本とEUの考え方とは、瞬時に商業的な利益を得ることではでなく、長期的な視点にたって先を望むものだが、中国はこうした巨額の支出ができる。」
中国は現在、世界2位の経済力をもつ大国で権力も中央集権化している。中国政府は、国内のすべてのリソースを利用する可能性をもっている。そのため力関係でいえば、EUと日本はそれらのインフラプロジェクトで中国と全く互角で戦えるというわけではない。