Studio 4°Cの代表、田中栄子さん:私たちは宇宙の一部

12月中旬、ロシアでは第53回日本映画祭の枠内で絶え間なく映画が上映されている。今年の映画祭の開催地はモスクワ、サンクトペテルブルク、ウラジオストク、ヴォルゴグラード、カザン、ニジニ・ノヴゴロド、ノボシビルスク、ロストフ・ナ・ドヌの7都市。今年はコメディ、刑事もの、メロドラマ、アートシアター系映画、アニメなどが紹介され、ジャンルの多様性が特徴となっている。
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ロシアの観客にもっとも大きな印象を与えた作品の一つが、アニメーション映画『海獣の子供』。グラフィックが息をのむほど美しい作品だ。

サイト「ファンタジーの世界」は同映画について、「予想に反して『海獣の子供』は少年少女向けのかわいいアニメではなく、自分自身や周囲の世界の認識、成長についての複雑な物語であり、アニメの真のアートシアター系作品だった...」と伝えた。

『海獣の子供』や日本のアニメーションについて、アニメ制作会社「STUDIO 4℃」の設立者で代表取締役の田中栄子さんが、通信社スプートニクのインタビューで語ってくださった。田中さんは『海獣の子供』のプロデューサーを務め、同作品ではSTUDIO 4℃がアニメーション制作を手掛けた。田中栄子さんは国際交流基金の招待でロシアに来て下さった。

スプートニク:『海獣の子供』が上映された後、ロシアのSNSなどでは、この作品は子供向けなのか、それとも大人向けなのかという議論が展開されました。なぜなら作品の内容があまりにも重層的だったからです。

田中 栄子さん :  日本での反応からいくと、子どもは「これは宇宙の命の話なんだね」などととても素直に受け入れてくれていることが多く、大人は「とても難しい」というふうに受け止めている人がとても多いようです。私たち制作者としては、子供向けとか大人向けとかということを考えずに、すべての人、すべてのジェネレーションで観賞していただける作品としてつくっています。 

スプートニク:『海獣の子供』の重層性、階層についてはどのようにお考えですか?映画のストーリー自体に関心を示す鑑賞者もいれば、この作品は人生の意味や人間の運命について問いかけていると考えている人たちもいますし、作品の中にロマンチックなストーリーや哲学的な側面を見た人たちもいますが...

田中 栄子さん : 私たちの知っていることはほんの少ししかない。世の中にはものすごく不思議なことがいっぱいあって、知らないことがいっぱいあるんだ」という哲学や、「宇宙はすべて同じ物質でできている。空も海も机も私たち人間も同じ物質でできている。私たちは宇宙の一部なんだ」というようなことなど、様々なメッセージがこの作品の中に入れてあります。それは受けとる人によってどこが一番その人にとってインパクトが強かったかということであり、つくっている段階では階層というものがあったわけではありません。

Studio 4°Cの代表、田中栄子さん:私たちは宇宙の一部

スプートニク:  現代のアニメーション制作にはいくつかの道具があります。例えば、絵、コンピューターグラフィックス、人形、粘土など。また砂を使った砂アニメというものもあります。Studio4°Cが好む道具はどのようなものでしょうか?

田中 栄子さん : 先ず、その作品を描くのにどういう道具を使ったらいいかというところで道具を選択しているので、道具によるアニメではなく、この作品をつくるためにはどの道具を使うのが一番いいのか、という形で選択をしています。ただ作画、つまり紙と鉛筆で描くというところが私たちの最初のスタートだったので、そのことで描ける描き方に関してという点では、今回ものすごい力を持って少女のとてもセンシティブな感情まで丁寧に表現できたと思っており、アニメーションはこんなにすばらしい表現力を持っている作画がツールだということがこの作品で証明できたのは、すばらしいことだなと思っています。 

スプートニク:アニメにはいつくかのジャンルがありますが、Studio4°Cまたは田中さんのお好きなジャンルは何ですか?

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田中 栄子さん : 映画というとやはり基本的には娯楽というジャンルかもしれませんが、例えば絵画だったり音楽だったり、娯楽を超えて感動を与える、そういうものであってもいいんじゃないかと思っています。アニメーションが感動を与える芸術的な表現力を持つということもできるじゃないかなと思っており、そういう新しい価値を生むことのできるものであったらと、そんなすごいことを言ってしまうとよくないかもしれませんが、そういうジャンルであってほしいですね。でも私はプロデューサーなので、本当はちゃんとその作品で稼いで、その作品がすごくお金になるということをもっともっと考えなければいけない立場にいるということは分かっています。 

スプートニク:アニメは、ただ人を楽しませる娯楽といっただけでなく、もっと深い意味も持っているのでしょうか?

田中 栄子さん : いろんな作品、いろんなテーマと、割と自由に選ぶことができ、その中にいろいろなものを込めることができます。またアニメーションというのは記号なので、いろんな人に伝わりやすいと思っているので、アニメーションの持っている力はすごくあると感じています。 

スプートニク: ロシアのアニメをご覧になったことはありますか?

田中 栄子さん: 『霧の中のハリネズミ』をつくったユーリー・ノルシュテインのアニメーションはすばらしいと思います。単純なことを描いている作品ですが、どうやってこれをつくったんだろう、何故つくりたかったんだろうということも含めて、素晴らしいものが生まれており、そこに理由はないなと思うので、人がこんなにすごいものをつくれるんだっていうことを教えてくれた作品だと思います。

スプートニク:ロシアでは最近、チェーホフやゴーゴリなどのロシアの古典文学の作品をモチーフにしたアニメが制作されています。日本でも文学を原作としたアニメはつくられていますか?

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田中 栄子さん: 昔からあると思いますが、ロシアにはチェーホフやドストエフスキーなどのすごい文豪がたくさんいます。日本は、世界に冠たるドラマチックな作品というよりは、割と私小説なんです。そのため、日本の作品はなかなかアニメにはしづらいかと思います。

スプートニク:米国の作品についてはどのように評価されていますか?

田中 栄子さん: 米国のものもいろんな幅がありますが、すごく目立つのはやはりヒーローもので、マーベルだったり、そういうものがすごく多いですよね。それは米国の正義の描き方なので、その国によって正義やヒーローがまったく違うように、米国らしいと思っています。私たちの描くものというのは、また違ったものですね。

スプートニク:アニメ映画で観客にも喜ばれ、商業的にも成功を収めるために必要なものはなんでしょうか?

田中 栄子さん: 所謂「共有ビジョン」、観客とその作品の中でのいろんな感情の増幅や共感というものが今は一番大事かと思います。なかなかそれを描くのは難しいのですが、成功している監督たちもたくさんいるので、それは見直さなければならないことかなと思っています。


田中さんは、『海獣の子供』以外に『鉄コン筋クリート』や『マインド・ゲーム』でもプロデューサーを務めたほか、『アニマトリック』プロジェクトにも参加している。またスタジオジブリ のラインプロデューサーでもあった。代表作には、『魔女の宅急便』や『となりのトトロ』、またアニメーションと実写の境界を打ち破った露日合作の大祖国戦争をテーマにしたファンタジー『ファーストスクワッド』などがある。

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