モスクワでは、抹茶や抹茶を使ったカフェやレストランのメニュー、パンやお菓子などを、ここ2~3年で頻繁に見かけるようになった。今や、大手チェーンのカフェだけでなく、店員が1人しかいない小さなコーヒースタンドのような場所でも、抹茶ラテが注文できたりする。余暇の過ごし方を紹介する人気サイトでも、「美味しい抹茶メニューが味わえる店一覧」の特集が組まれるなど、抹茶という言葉自体が、定着した感がある。
ただしレベルはまちまちだ。美味しい店もあるが、色がついているだけで抹茶の味が全くしなかったり、抹茶というよりも普通の緑茶の味がしたり、やたら甘すぎたりするものもある。ちなみに抹茶の発音はロシア語でも「マッチャ」だ。抹茶ラテも日本語の発音そのままで注文できるので、ロシアに旅行に来ることがあれば読者の皆さんも試してみてほしい。
ここはカフェではなく、基本的にはカフェやレストランのバイヤーといったクライアントを招き、日本の雰囲気を感じながら本物の日本茶を味わってもらうことを目的としている。値段だけで判断されてしまうと、「抹茶」と称して出回っている低品質の外国製に比べて、本物の日本の抹茶に勝ち目はない。そこで、抹茶を含めた日本茶の質を理解してもらうために、こういった場所が必要なのである。
一般の人もここに入るチャンスがある。オンラインでは小売注文を受け付けており、自宅に届けてもらう以外に、注文品を直接受け取ることができるのだ。受け取りの際には、他のお茶の試飲をすることができる。特別な空間の中で飲むお茶は格別美味しいので、リピーターになってしまうというわけだ。
「Japanese Tea」は、もともと日本にロシア語の書籍を送る仕事から始まったが、その後ビジネス形態を変え、高品質の日本茶の店として生まれ変わった。抹茶は、京都・宇治の老舗「矢野園」から取り寄せている。ここでは抹茶以外にも、様々な緑茶や、急須や湯のみ、茶道具など、あらゆるものを扱っている。
「日本茶の家」は、抹茶茶碗の「トレード」の場所にもなっている。売りたい人が展示用の棚に茶碗を置いていき、買いたい人がそれを見に来るというシステムになっている。中にはロシア人職人の作品もあり、珍しい一品に出会えるかもしれない。
数年前までは抹茶という存在自体が無名で、営業活動にも苦労していたが、今ではすっかり抹茶とは何かを説明する必要がなくなった。「Japanese Tea」のルィカチェフ社長は、抹茶ブームの背景に「ロシア人の健康志向やヨーロッパの食文化のトレンドが関係しているのでは。抹茶に対する情報が簡単に広く手に入るようになったことも一因だ」と分析する。
ロシアでは、抹茶がブームになるよりもだいぶ前から、中国茶の影響で緑茶が浸透していた。しかしいまだに、緑茶にも、紅茶のように砂糖を入れて飲む人が多い。
「日本茶の家」で勤務する日本茶マイスターのパジェトヌィフさんは「ロシア人が砂糖を入れてしまうのは、緑茶が苦くなる間違ったいれ方をしいるからだと思います。それに、紅茶を飲むときの今までのやり方に慣れすぎています。お茶の味が生かせる正しい飲み方を知ってほしい」と話している。
抹茶ブームは加熱し、ごく最近になって、青い抹茶まで登場した。着色料かと思いきや、なんとその正体は、タイのハーブティー「アンチャン」だ。日本人からするとあまり抹茶とは呼びたくないのだが、同じアジアつながりということで、青い抹茶も急速に人気を伸ばしている。ファッション誌「グラマー」ロシア語版は、緑と青の抹茶の違いを説明した特集記事を掲載。記事では、緑の抹茶のほうが青い抹茶よりも効能に優れていると結論づけている。
ルィカチェフさんは「抹茶ブームは一過性のものではない。抹茶は、素晴らしい健康効果、見た目、関連商品のバリエーションの豊富さのおかげで、これまでにロシアで流行しては消えていった食品とは、違う運命をたどるだろう」と自信をもっている。