在東京のスプートニク記者が中心部の複数の店舗を訪れてみたところ、トイレットペーパーは見つからなかった。それ以外にも、ティッシュや石けん、手に使う抗菌ジェルといった衛生用品がなくなり始めていた。
パニックを助長させる人々を探したり、パニックを落ち着かせようとする国の試みは、功を奏しない。なぜならコロナウイルスをめぐる状況に皆が不安を感じ、予期しない事態に備えておきたい、と誰もが思っているからだ。そして問題はトイレットペーパーに関するデマではなく、この先に何が起こるかだ。
しかし事態は、生活必需品の買いだめにとどまらない。新型コロナウイルスはすでに対人恐怖の念を引き起こし、路上での喧嘩や地下鉄での抗争にまで発展している。
何から全ては始まったのか?
商品不足の発端は、「トイレットペーパーは中国から輸入しているから、もうすぐ輸送が止まる」といった類のデマがSNSに投稿されたことだ。
結果として、週末に、ほとんど全ての店から紙製品が姿を消した。薬局「Tomod’s」の販売員は、スプートニク記者に「皆、これからどうなるかわからなくて不安ですので、自分の生活に一番必要なものを先に買っておこうと思っています。トイレットペーパーを買う人が多くなって、近いうちに買わないと早く売り切れになってしまいます」と話した。
月曜に配達があるかどうかもわからないという。「配達は月曜日から金曜日までトラックで毎日来るんですけれど、例えば、日曜日にはマラソンがあって道路が使えないとか、そういう影響が月曜日にも残っていると、どうなるかわかりません。来たらすぐに売れてしまうかもしれません。」
薬局では、紙製品ほどではないが、ナプキンやタンポンといった生理用品、室内の清掃に使う薬剤なども、かなり売れていることが目にみてとれた。
パラドックス的ではあるが、消費行動を激しくしているのは、SNS上のパニック的な投稿だけではなく、店側による需要喚起という側面もある。例えば100円ショップキャンドゥでは、ウイルスから守ってくれるマスクをどうやってキッチンタオルで作るか、説明書きがある。
政府も、トイレットペーパーを製造しているメーカーも、製造は日本で行なわれており、供給の停滞はないということを保証し、消費者をなだめようとしているが、2011年の震災を覚えている人々は、念のために備えた行動をしておきたいと思っている。なぜならその時、何種類かの生活必需品を手に入れるのが難しかったからだ。なので、人々はトイレットペーパーの不足がデマだとわかっていても、それでも買い物に走るのである。
「世界中、人間の心理状態というのは同じ」
そしてもうひとつ、中国の出来事が日本の経済状況に影響を及ぼしている、と実感できるようになったことを否定できない。様々な商品の中国における製造が一時停止したことで、特に高度な技術を要する部品の大幅な納期遅れが発生している。日本メーカーは中国で作る部品に依存しているのだ。
商品が不足したり値段が高騰したりすることに対しての不安の客観的な原因というものは、今の状況の不条理さを和らげはしないし、なぜ人々は(日本人だけでなく世界中どこでも)こんなにも新型コロナに対して敏感に反応しているのか、ということの説明にはならない。いくつかのメディアやSNSがまるで世界の終わりのように書き立てたとしても、大部分の情報源では、新型コロナウイルス感染者の死亡率は約3パーセントにしかすぎないことが報じられている。もちろん、コロナウイルスは免疫力の低い人にとっては特に危険だが、それは他のどのウイルスにしても同じことだ。現在、新型肺炎の死亡者は約3000人。それでいて、通常のインフルエンザで、毎年29万人から65万人も亡くなっているのだ。それならなぜインフルエンザは、公共の場所での争いや、買いだめを引き起こさず、コロナウイルスだけが引き起こしているのか?
スプートニクはロシア科学アカデミー心理学研究所のアレクサンドル・レベジェフ教授に話を聞いた。
心理学研究所社会・経済心理学ラボのシニア研究員、アナスタシア・ヴォロビエヴァ氏は「歴史の中で、パニック状態における特定商品の買いだめという現象はこれまでにもあった。(例えばロシアでは塩やそばの実等の買いだめが起きたことがある)誰かが、何かが足りなくなるとか、製造中止になるという噂を立てる。噂は恐怖心、この先どうなるかわからないという情報不足の中で発生し、需要を喚起してモノの在庫の値段を釣り上げ、稼ぐためにも行なわれる。」と補足する。
二人の心理学者はともに、人間のパニック状態というのは長時間は続かないと指摘する。レベジェフ教授は、「日本の医療は素晴らしく、全ての必要な手段は講じられている。先鋭化した状態は、何らかの形で終わるものであり、このパニック状態も、もうすぐ終わるはずだ」と総括している。