「今回程度のウイルスなら感染してもいいやぐらいの心境」
「自分が悪くもないことで禁固刑に処せられたみたい。何も理由はないのに私たちはここに人質にとられてる。」米国ではこんな内容の乗客の弁がよく紙面に踊っている。
米国が検疫による下船解禁を前に自国民の避難に踏み切った時にそれに反して船内にとどまることを決意した人もいる。その1人、マシュー・スミスさんは「米国政府は自分たちの行動で日本政府の検疫プログラムに穴をあけている」とこれを非難した。
マシューさんはジャパンタイムズ 紙からの取材に「私と妻は船内の検疫体制に満足しています。それに実際、米大使館からの情報を得ていますし、大使館も船内の自室にとどまるのが最適という決定を支持してくれています」と答えている。
ツィッターから船内の様子を発信している「だぁ」さんはスプートニクからの取材に次のように語ってくれた。
「結果論で批判するのが個人的には嫌いなので、今ある批判はどうでもいいですね。自分に直接関係が無いことは興味がありません。確かに最初から全員検査をしたらよかったでしょうし、もっといい方法はいくらでもあったでしょうが、私が決められることじゃないので特に考えもしませんね。これが致死率80%のウイルスであったら、無理矢理にでも船から脱出しようとしたでしょうが、今回程度のウイルスなら感染してもいいやぐらいの心境でした。」
「何が起きているか、本当にわからない」
スプートニクの日本特派員は乗客の下船が開始された翌日の2月20日に、横浜港に来て取材を行った。タラップを降りた乗客らは日本側の代表によって黄色のバスに乗せられ、横浜駅まで送られた。そして駅に到着すると、下車した乗客はまたエスコートされ、地下鉄の改札口まで送られていった。
スプートニク特派員はこの後、横浜駅前でダイヤモンド・プリンセス号の状況について街頭取材を行った。
ある若い男性は「(感染症政策には)過ちが多分あったと思いますが、(検疫のおかげで)最低限のウイルスの拡大は防げたかなと思っています。乗客の皆様はかわいそうでしたが、やむを得ないことだったと思います」とコメントした。
「正直に言いますと、時々、何が起きているか、誰を信じればいいか、本当にわからないですね。政府は多分何か隠しているかもしれないけれど、全力を尽くしているだろう。ウイルスが広く流行してしまったら、コストが高すぎるでしょう。誰にとっても望ましいことではないでしょう。でも、なんか大きいミスがあって、それを隠しているとしたらそれは恐ろしい。一方、(岩田)教授の方が動画をこうやってネットに流すのは…。怪しいかな? 事実を言ったか一般人は絶対わからないけれど、そうであったら(教授として)何か違うことができるのではないかなと思います。納得できないです。」
この先、どうなるのか?
世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局長を務めた経験のある、地域医療機能推進機構の尾身茂理事長は以前に外国人プレスに対して、一度広まってしまった感染は止めることはできないものの、日本ではまだ伝染病の段階には達していないと語っていた。尾身氏の見解では日本が今、第1に取り組むべきことは感染拡大のペースを緩めさせること、そして死亡率を下げることにある。
日本政府内では、講じた措置は正しかったという主張が声高に続けられている。乗船者の大半は検疫が開始される前の時点ですでに感染していたのだから、というのがその根拠だ。
加藤厚労相は「新型コロナウイルスについて100%分かっているわけではない。ダイヤモンド・プリンセスでかなりの方が感染したのは事実。そういうことを踏まえて、念のため拡大防止に努めてほしいという趣旨だ」と力説している。
尾身茂氏が言うように、後になって日本の新型コロナウイルス対策は正しかったと世界が評価してくれるかどうかは、今後の進展を見るしかない。