チェルノブイリ原発の立ち入り禁止区域の森林火災が発生したのは4月4日。事故原発から半径30キロの立ち入り禁止区域と隣接したジトミール州ウラジミロフカ村付近だった。当初は火災の範囲は火の手が上がった地域の外には広がらなかったが、9日ともなると、立ち入り禁止区域から10キロの場所まで迫った。火災原因は下草への放火とされている。火は、ずいぶん前に無人化した10か所以上の農村を飲み込んだ。10日頃までには首都キエフでも火災の焦げ臭い匂いが感じられるようになった。消火活動には400人を超える消防員と航空機、ヘリコプターなど100台近くの車両、機材が当たった。
発火当初から環境監査局は常にチェルノブイリ区域で放射線レベルの測定を行ってきた。ウクライナ国家環境監視局のエゴール・フィルソフ執行役は4月11日の会見で、「我々の調査では、放射能レベルは正常な範囲で0.11—0.13マイクロシーベルト。これは正常値で恐れることは何もない」と語っている。
「チェルノブイリ立ち入り禁止区域の外に居住する市民には放射能汚染の恐れは何もない。とはいえ火災の煙はミンスク(ベラルーシの首都)にまで届いた。原発自体も何の危険もない。建物は鉄筋コンクリート製で、防火体制もしかれている。」
インターネット雑誌「アトムナヤ・エネルギヤ(核エネルギー)2.0」の専門家、パーヴェル・ヤコヴレフ氏は今回の事態はチェルノブイリ区域で起きた初めての火災ではないと指摘している。
「これは季節特有の現象で、あの地域ではほぼ毎年のように火災が起きている。放射能の拡散については何の危険もない。過去30年間で自然に分散されなかった、重い放射性粒子は土壌の奥深くに沈んでいるし、質量の軽い放射性粒子はかなり前にチェルノブイリ区域の外に拡散してしまっている。原発のインフラについていうと、事態が悪い方向に傾いても原発内で被害を受けるのは重要度の低い施設で、原発そのものや廃棄物倉庫が被害を受ける危険性は極めて少ない。」
「放射性同位体でも特にストロンチウム90とセシウム137は樹皮や木の幹に長期にわたって残存することはない。これはチェルノブイリ原発の周囲に広がる、いわゆる『赤い森』(原発から10キロ以内の汚染された森)に顕著だ。森は主にマツ類で成り立っているが、マツというのは取り込んだストロンチウムをなかなか外に出さない。火災でこの粒子が空中に拡散しており、人間の体内の入る恐れも除外できない。このため放射能モニタリングは必要だ。火災現場、原発付近で作業を行う者全員が線量計を携帯し、被ばく線量を実験室で計測しなければならない。」