一見したところ、緊急事態宣言が発令された厳しい状況の中、日本政府が前例のない大胆な措置を講じているように思える。この見方には疑義も出始めているが、安倍首相によると、企業と世帯のための108兆円の経済支援パッケージはGDPの20%にあたり、世界最大規模である。
結局、4月20日、日本政府は、1人当たり10万円の一律給付を実施するため、今年度の補正予算案を見直し、緊急経済対策の事業規模を117兆1000億円程度に拡大することにした。
しかし、新たなイニシアチブには批判も少なくない。とりわけTwitterでは、「給付条件付きの30万の方が良かった」、「救うべき人も救えないし、回らないお金の総数が増えるだけ」、「一律10万はいらない、もっと困ってる人達に沢山渡してほしい」という意見が見られる。
一橋大学経済学研究科の佐藤主光教授はスプートニクに対し、残念ながら、日本に住むすべての人への10万円の給付は単なるジェスチャーに過ぎず、差し迫った問題を解決することはできないという。
「今回の10万円の一律給付ですが、日本のことわざに例えると『帯に短しタスキに長し』かと。帯、すなわち真に生活に困窮する(休業を強いられた)自営業者やフリーランスの方々にとっては10万円では店の家賃などを含めて到底生活資金として足りません。他方、タスキ、安定的な収入を得ている正規雇用、中高所得者にとっては必ずしも必要な資金ではありません。所謂「ばら撒き」は政治的なウケは良いかもしれませんが、困窮した家計への生活補償など経済的な効果は限られるように思います。」
「一律10万円よりも、より困っている人に多く渡すべきという意見は理解できますが、その『困った人』の把握が難しいのが現状です。
今回の新型コロナによる景気悪化は、サービス業に対してとりわけ影響を与えていますが、この業種ではフリーランスや請負で働く人が少なくありません。給与労働者に比べて、彼らの所得状況をリアルタイムで把握するのは難しいためです。実際、当初の『30万円給付』案も、どうやって収入が半減するかを証明するのかが問題になっていました。証明に手間取って、必要な人に必要な給付が渡らないよりは、一律給付が望ましいと私は思います。
そして、一律給付で当座の暮らしを支えたうえで、より困っている人に追加給付をすると良いのではないでしょうか?」
この状況をどのように解決すべきかについて、佐藤主光教授,は次の方法が最善の解決策だろうと言う。
「ではどうするかと言いますと、一案は前年の世帯の所得総額が一定以下の就労者について、一旦30万円などの給付を行い、今年末の年末調整や確定申告で結果として所得が高かった人からは一部ないし全額を回収することかと。所得が低水準に留まった個人は全額を手元に置くことができます。収入に変動のない生活保護世帯や年金生活者及び公務員などは対象外にするべきです。今回は所得の急減に苛まれる就労者を支援するべきと思っています。彼らは平時は納税を含めて社会の支え手です。こうした支え手をしっかりと支える仕組みが求められます。」
佐藤主光教授は次のように説明する。「なお、政府が『一律10万円』にしたのは給付を『迅速』にするためと説明していますが、日本では一律であっても迅速な給付は難しいかなと思います。ロシアは存じ上げませんが、他の国では社会保障・納税者番号(マイナンバー)が金融機関の口座に紐づいているので、政府は所定の口座におカネを振り込めばすみます。しかし、現状、政府は個人の口座情報をもっていないので、各人に申請してもらう必要があります。国民への周知、同じ人が二重に口座を申請していないなどをチェックする作業も考えれば、それなりに時間が掛かるかと。」
本当に必要としている人だけでなく、富裕層も給付を受け取ることになるという批判に対して、麻生太郎財務大臣はある記者会見の中で「手を上げた方に1人10万円ということになる」と説明した。別の言い方をすれば、申請に基づいて給付する自己申告制になるということだ。
新たな批判の波で、政権は「一律10万円」の案にも必要な修正を加える可能性がある。そうでなければ、困っている人のために富裕層に給付金を返納するよう呼びかけるのは、麻生大臣も言う通り、おそらく「物理的に不可能」だからだ。