全米を変貌させた一人の死 ジョージ・フロイドさんに何が起きたのか

ジョージ・フロイドという名は、米国の国境を越え、口伝えで様々な国へと広がった。彼の身の上に起きた痛ましい話はインターネット、またはテレビさえあれば誰もが知っている。後にその名がデレク・ショーヴァンと明かされる警察官がフロイドさんの首を膝で締め付け、息ができないとの訴えにもかかわらず、そのまま数分抑えつけた挙句、絞殺した様子が映されたビデオ。これは瞬く間にミームとなり、最初は事件の起きたミネアポリスで、そしてついに全米で激しい抗議行動へと発展していった。
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この事件の主要人物はほぼ同い歳。事件発生の1年前、ふたりは同じナイトクラブで勤務していた。ショーヴィンはガードマンとして、殺されたフロイドさんは門番として。だが全米を震撼させたこの悲劇が起きた後、そのうちの一人は国中の多くの人の支持を集めたのに対して、もう一人は一番近い人間からも顔をそむけられた。

新たに生きなおす

フロイドさん(46)はヒューストン市で育った。身長の高さとアスリートに適した体格から若い時はバスケットボール、アメリカンフットボールの選手として活躍した。フロイド氏がヒューストンでプレーしていた時に師事していたコーチの妻は、夫の元教え子を回想し、自分の犯した過ちに自分で始末をつける人間だったと語っている。

そんな過ちのひとつにフロイドさんが答えざるを得なくなったのは2009年。武装強盗に加わった罪で懲役5年を言い渡された。刑期を務め終わると、フロイドさんはミネソタ州に移り住んだ。「新たに生きなおす」ためだった。移住先でフロイドさんはトラックの運転手、主にラテンアメリカ人の経営するレストラン、クラブの警備員として働いた。フロイドさんがデレク・ショーヴァン警察官と同時に勤務していたクラブのオーナーは、フロイドさんはアフリカ系米国人社会でもラテンアメリカ人の社会でも好かれる存在だったと話している。勤務から1年後にフロイドさんを拘束し、喉を締め付けた警察官について、クラブのオーナーは、フロイドさんは恐らくこの人物を知らなかったはずだと答えている。ふたりは別々の場所に割り当てられていて、交わることはなかったからだ。そのクラブも暴動騒ぎで焼け落ちた。

ガードマン兼業の警察官

第3級殺人罪で起訴されているデレク・ショーヴァン容疑者(44)は19年間警察官として勤務した。警官として働く傍ら、ショーヴィンはナイトクラブで警備員のアルバイトをしていた。同僚らは、ショーヴィンはすぐにイライラするたちで、催涙ガスの使用もためらうことはなかったと回想している。

ミネアポリスの黒人男性死亡事件 司法解剖で殺人と判断
ショーヴィンは警察勤務の期間に職務行為に対するクレームをおよそ10回受けていたが、処分はされず、ただ1度だけ書面で訓戒を受けただけだったという。ショーヴィンがからんだ事件で深刻な結果に至った中には2008年、家庭内暴力の捜査中に男性に銃創を与えたというものがある(報告によれば、この男性は傷を負いながらショーヴィン警察官からピストルを奪おうとしていた)。2006年にもやはり、刃物による傷害事件の捜査中に地元の42歳の男性が銃殺された。捜査にはショーヴィン以外にも複数の警官が加わっていたため、誰の放った弾が当たったのかは立証できていない。ただこの時も、銃殺された男性はピストルを奪おうとしていたことがわかっている。

フロイドさんの死亡後、ショーヴィンの妻は離婚を申し出た。この女性は事件に打ちのめされており、フロイドさんの親族に深い哀悼の意を表している。

フロイドさんはどう死んだのか?

公式的な説では2020年5月25日、ミネアポリスの店のオーナーはフロイドさんが支払いに偽札を使ったと警察に通報した。駆け付けた警察官らの話では店のオーナーは恐らく麻薬の作用で正常な状態にはなく、最初は店の外に出ることも拒否したくらいだった。

ショーヴィンは他の警察官とともにフロイドさん取り押さえた。ショーヴィンが車の脇で、フロイドさんを顔を下に向け、自分の膝で首を押さえつけた際、フロイドさんは「息ができない」と繰り返した。今回の抗議運動のシンボルとなったセリフだ。ショーヴィンはフロイドさんの首を膝で押さえつづけ、7分以上が経過した。締め付けていた力を弱めたときはすでに遅かった。フロイドさんは死んでいた。目撃者らによる事件を撮影したビデオが公開。これが暴動のきっかけとなった。

​フロイドさんの遺体解剖の結果、死因は物理的に圧迫された結果の窒息で暴行によるものと断定された。これに先立ってフロイドさんの遺族の要請で行われた独自の司法解剖でも同じような帰結が出されていた。公式的に発表された死因は「警察による制圧や可動制限、首への圧迫の複合的作用による心肺停止」。司法解剖ではまた、フロイドさんが心臓病を病んでいたこと、死ぬ直前に麻薬を使用していたことも明らかにされた。

フロイドさんの遺族の弁護士は、殺人罪の起訴状には事件当時、現場にいた3人の警察官も含めるよう求めた。この3人はすでに警察官を免職されているが、起訴されてはいない。

米国で警察が逮捕の際に市民に残酷な行為に及んだのはこれが初めてのケースではない。2014年、スタテンアイランドでもこれに似た事件が起きており、アフリカ系米国人のエリック・ガーナーさん(43)が警官に首を絞めつけられ、窒息死している。

煙草を1本ずつ販売していたことから脱税を疑われたガーナーさんは、警官に取り押さえられ、手錠をかけられそうになった。抵抗したガーナーさんに警官は絞め技をかけた。ガーナーさんは「息ができない」と繰り返したにもかかわらず、警官は手を緩めようとはしなかった。そして、ガーナーさんは死亡した。 

抗議がやがて暴動へ

フロイドさん拘束の現場を写したビデオがきっかけとなって起きた抗議行動、当初は平和的なものだったが、次第に暴動へと変わっていった。市民はまずフロイドさんが殺された店近くの駐車場で集会を開いていた。それが警察署へと場所を写したとき、投石が始まり、放火が起きた。

全米を変貌させた一人の死 ジョージ・フロイドさんに何が起きたのか

トランプ大統領は抗議市民を自由を侵害する、またミネアポリスの市長を弱腰で左翼的視点だとして非難した。トランプ氏はまたミネアポリスへの軍の派遣を命じたが、そうする間に抗議の波は全米を覆いつくしてしまった。

トランプ氏、デモ隊による暴力行為は「国内テロ」
現在、抗議行動は全米75の都市に広がった。平和的な行動が行われている一方で、建物を焼き討ちし、店に押し入る暴動も起きている。シカゴ、ニューヨーク、フィラデルフィア、ロサンゼルスでは抗議市民と催涙ガス、唐辛子スプレーで武装した警官との衝突にまで発展した。

平等を求め、警察の横暴を止めようという呼びかけが大きくなり、ジョージ・フロイドさんという1人の人物はその陰にすっかり隠れてしまった。彼はすでに1人の人物から象徴へと変わった。ところが変わったのは抗議の本質も同じだった。人種差別主義と権力悪用に抵抗してあげられたはずの声はわずか1週間の間に姿を変えられてしまった。

トランプ大統領はネオナチ、ファシズム、白人至上主義に反対する運動を行う「アンティファ」をテロ組織に指定した

オバマ前政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めていたスーザン・ライス氏などは、米国のこの無秩序状態はロシアの煽動によるものと決めつける発言をしている。

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