宇宙船「クルードラゴン」打ち上げ成功で露米の宇宙開発競争が復活 両国の利益に

米国のスペースシャトル計画が終了した2011年7月以降、ロシアの有人宇宙船「ソユーズ」号が米国やカナダ、日本、その他の国々の宇宙飛行士を国際宇宙ステーション(ISS)に運ぶ唯一の手段となった。2014年、人や物資の独自輸送のため、米航空宇宙局(NASA)は、宇宙開発企業「スペースX」社と航空宇宙企業「ボーイング」社の2つの民間企業と新世代型宇宙船の開発で契約を締結した。
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スペースX社は、より多くの実績を上げ、ボーイング社に先行して必要とされるあらゆるテストを終えたが、いくつかの失敗があり、期限に遅れが生じている。2019年3月、自動操縦によるクルードラゴン号の初飛行が実施され、ISSとの自動ドッキングと地球への帰還が成功した。しかし、4月にはエンジンのテスト時に爆発が発生し、機体が損傷する事故が起こった。スペースX社は失敗を考慮し、装置の改良を行った。

クルードラゴン号とはどのような宇宙船なのだろうか?同船の重量は6トン、長さ8.1メートル、直径4メートル、搭乗人数は7人。しかし、クルードラゴン号の主な優位点は、再利用可能なコンポーネントだ。宇宙船自体も複数回使用することができる。このことによって宇宙飛行のコストを大幅に抑えられる。NASAの計算によれば、クルードラゴン1座席あたりの費用は6000万ドル(約65億円)未満となる見込み。また、NASAの情報によれば、2006年来、米国はISSへの宇宙飛行士の輸送と地球への帰還のため、ロシアの「ソユーズ」号の72座席を購入、その総額はおよそ40億ドル(約4349億円)に達する。この間に飛行費用は2000万ドル(約22億円)から9000万ドル(約98億円)まで上がった

イーロン・マスク氏、クルードラゴン打上げは「多惑星人類に向けた第一歩」
NASAとの最後の追加契約は、2020年秋の宇宙飛行士輸送になる見込み。この契約でロシアの宇宙開発企業「ロスコスモス」社は9000万ドルを受領する予定。ロシア宇宙政策研究所のイワン・モイセーエフ所長は、「イズベスチヤ」紙のインタビューで、NASAが独自の有人宇宙船の使用に移行した場合、ロスコスモス社には莫大な損失が生じることになると強調した。

「もっとも良い年にはNASAの宇宙船使用に対してロシアは今日の金額で3億ドル(約326億円)から5億ドル(約544億円)を受け取っていた。だが、米国はすでに1年半から2年前から発注数を減らしてきている。したがってわれわれの財政の観点からいえば、これは大きな打撃だ。今後、ロスコスモス社は基本的には国内市場に焦点を当てることになるだろう」。

宇宙技術の専門家で、資金運用企業「スプートニク投資マネージメント」社のゼネラルディレクター、アレクサンドル・ロセフ氏は、通信社「スプートニク」のインタビューで、スペースX社の主な重要性は、1957年に旧ソ連がはじめて人工衛星を打ち上げ、旧ソ連と米国の宇宙開発に大きな刺激を与えたのと同じ役割を、現在、同社が担っていることだと語ったー

「逆説的だが、ロシアはスペースX社の成功から利益を得ることができる。スペースX社の成功は必要な競争を煽り、宇宙への社会の注目を高める。ロスコスモス社にはハイテク分野の発展が不可欠となる。ぐずぐずしている時間などない。まず、宇宙の軍事化が急速に進んでおり、重量級ロケットや固定燃料エンジン、さらには原子力エンジンを開発する際にはこれを考慮に入れる必要がある。将来的には宇宙に原子力発電所を建設することを考えることができる。ロシアでは再利用可能な有人輸送宇宙船の開発が加速するかもしれない。スペースプレーンプロジェクトや打ち上げ技術に新たな活力を吹き込むことができる。これは未来へのチケットだ。なぜならイーロン・マスク氏がそうだったように、宇宙は若い専門家たちが自分の壮大な夢を実現することができる分野だからだ」。

スペースXの宇宙船打ち上げでロスコスモスは損失を蒙る
天文物理学者でモスクワ国立大学教授のウラジーミル・リプノフ氏も現状からポジティブな面を見出している。同氏はスプートニクのインタビューで次のように語った

「スペースシャトル計画の終了により、ロスコスモス社は、ISSへの宇宙飛行士の輸送で毎年平均3億ドル(約326億円)から4億ドル(約436億円)の収益を上げていた。しかしこれはロシアの宇宙関係予算のわずか10%でしかない。また、クルードラゴンの打ち上げ成功が、ロスコスモス社の『眠れる王国』を刺激するという点で重要であると期待したい。旧ソ連における初期のロケット開発指導者セルゲイ・コロリョフ氏は、世界最初の人工衛星の打ち上げから4年後に、世界初の有人宇宙飛行を成功させた。一方でロスコスモス社は10年たっても、ずいぶん前から約束している再利用可能な次世代輸送機『フィディラーツィヤ』号の完成に至っていない。NASAの予算はロシアの10倍だが、ここで重要なのは金額ではなく、高い目的意識や課題の構築、高い技術や高度に専門的な人材の誘致だ。ロスコスモス社は独占企業だが、民間企業であるスペースX社は、他の民間企業と同様に利益を上げることを目的としている。 しかし、スペースX社は大胆な取り組みやリスクを恐れてはいない。間違いなく、これは米露間の宇宙分野での競争の復活と言える。そして、このことでロスコスモス社が健忘症の状態から抜け出すことができたならば、それはマスク氏のおかげだ。『ソユーズ』号の代わりに米国の宇宙船を使用することに関しては、これはそれほど早くは実現しないだろう。1度だけでなく、一連の飛行が成功しなければならない。そうなった時、他国政府のみならず、宇宙に短時間でも行ってみたいと望む個人旅行者が、ロスコスモス社の新たなクライアントとなる。言うまでもなく米国との協力は、いずれにしても、ISSの運用が終了するまでは継続される。なぜなら現在のところ、ISSは地球の軌道上にある唯一滞在可能な実験施設だからだ。なお、おそらくロシアの宇宙飛行士たちもクルードラゴン号を利用することになるだろう。これは合同ミッションの安全性の向上という観点から合理的といえる。ISSの各滞在クルーの中に、ロシアや米国といったあらゆるタイプの宇宙船で飛行できるパイロットがいる必要がある」。

ロスコスモス社のドミトリー・ロゴジン社長は、ISSへの米国宇宙船のフライトをかなり冷静に捉えている。ユーチューブチャンネル「ソロヴィヨフ・ライブ」に出演した際、同氏は次のように語ったー

「ロスコスモス社の10倍という巨額な宇宙関連予算をもつ偉大な国・米国は、9年間ロシアの宇宙船で飛行せざるを得なかった。これはおそらくある意味彼らにとっては屈辱的だったことだろう。また、この独占(ロシアによるISSへの人員輸送)は不自然なものだった。これはまさに米国の宇宙飛行計画の誤りから生じたものだった」。

またロゴジン氏は、米国の新たな宇宙船建造について、米国は「ずっと前にするべきだったことをした」と述べた。

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