ベラルーシの抗議デモ、強硬姿勢を貫くルカシェンコ政権の行方を占う「市民は、国を破壊したくはない」

ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、公式的には80パーセント以上の得票率で大統領選で勝利したが、その後の抗議デモを見れば、社会における広い支持を失ったことは明らかだ。選挙結果の数字に納得できない多くのベラルーシ国民が、路上に出て様々な活動を続けている。
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ベラルーシ情勢に詳しいロシアNIS経済研究所の服部倫卓所長は、「ルカシェンコ政権は、市民の抗議行動を一時的に抑え込むことはできるかもしれない。しかし、今回の大統領選挙を経て、数百万ものベラルーシ市民がルカシェンコ体制を容認できないという態度を固めた以上、ルカシェンコがこれまでのように国を統治することはもはや至難だと思う。今後ベラルーシがどのような方向に向かうかは、ロシアの出方にも左右され、不透明だ」と指摘している。

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ルカシェンコにはどのようなリソースが残っているか、そしてそれは彼が権力の座に留まり続けるために十分なものなのか。専門家の意見を聞いてみた。

 大統領選挙の総括:野党勢力結束の助けとなったものは?

ロシア政府付属・財政大学准教授で政治学者のゲオルグ・ミルザヤン氏によれば、選挙の総括は悲観的なものだ。ルカシェンコの「耳をつんざくような勝利」にもかかわらず、彼は実質、負けたと言える。

ミルザヤン氏「選挙を終え、ルカシェンコは選挙活動を始める前よりも自身の立場を弱くした。ベラルーシ人の一部は選挙結果を信じず、彼を違法な大統領とみなしている。選挙が始まる前、ルカシェンコは複数の候補者を、『刑務所にぶちこむ』というような非常に残忍な方法で立候補できないように排除した。つまり、ルカシェンコが自分の権力について本当に心配しているということがあからさまになった。恐怖心はいつも、政敵の攻撃性を高める。だから、ルカシェンコと政治的に敵対する勢力は勇気を持って参集することができた。そして、ヨーロッパとの関係を悪化させたことで、外交面でもルカシェンコの立場は危ういものになってきていた。EUはすでにベラルーシに対する経済制裁について議論し始めている。そしてロシア人を拘束したり、ロシアのジャーナリストに対する暴力を容認したことで、対露関係も悪化させた。」

選挙前、ルカシェンコは、ロシアとEUの間でうまくバランスを取ろうとしていた。しかし抗議デモをここまで強く鎮圧しようとしたことで、彼は外交的に孤立するかもしれない。

ルカシェンコは歩み寄る用意があるか?

ミルザヤン氏は、ルカシェンコは遅かれ早かれ選挙結果に不満な国民を追い払い、抗議デモはしばらく経つと鎮静化すると考えている。

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ミルザヤン氏「かなり多くの人が刑務所行きになり、その後でもしかすると、釈放されるだろう。これは数少ない歩み寄り行為の一つだと思う。ルカシェンコは選挙をやり直したり、票を数えなおしたりはしない。なぜなら現在の抗議デモは彼にとってみれば、彼の権力に対する直接の挑戦であり、歩み寄ろうものなら、それは弱さの現れとなるからだ。弱さを見せれば抵抗勢力は必ず次の要求をしてくる。それだからルカシェンコは、彼がどれだけ強いかを、特に諸外国に対して大きくアピールしてみせる必要があると考えている。」

ウクライナ政変のシナリオが繰り返される恐れは?

ミルザヤン氏は、ウクライナ政変のシナリオが繰り返される可能性は非常に低いと考えている。彼の意見によれば、ベラルーシ社会は、ウクライナ社会ほどには西側諸国に丸めこまれてはいないからだ。

ミルザヤン氏「ベラルーシの抗議活動は、インフラの面で、ウクライナのそれより組織力が低い。はっきりとしたリーダーがいるわけでもないし、マイダンの時にあったようなコミュニケーション手段や財政面での援助もない。多くの政府の役人が寝返っているわけでもない。ウクライナの時は、当時の大統領だったヤヌコーヴィチ政権の関係者でさえデモ隊を支持した。ベラルーシ社会の上層階級は崩壊していない。それに今のベラルーシは、ウクライナ政変の時ほど、経済的、社会的、政治的に、最低最悪の状態というわけでもない。そして新生ウクライナの経験は、ベラルーシのデモの鎮静化に一役買うだろう。ベラルーシ人は自分たちの国を破壊したくはない。彼らはルカシェンコを打倒したいと言うよりは、抵抗勢力に対して、自身の権力を濫用して不当に圧力をかけるのをやめさせ、国民の声を聞いてほしいと思っているのだ。」

西側諸国はベラルーシの抗議デモをどう見ているか?

ミルザヤン氏は、ヨーロッパはいざとなれば干渉する用意はあるが、しかしどのように干渉するべきか、決めきれていないと指摘する。

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ミルザヤン氏「西側は、ベラルーシの若年層の一部と、ソ連後に誕生した若い支配層の一部が親ヨーロッパであることを望んでいる。西側にとって重要なのは、ヨーロッパがこういった若い世代を、教育し経済的に助けるだけでなく、守る用意もあるとアピールすることだ。ベラルーシで野党勢力が徹底排除されたら、西側は、最低でも何かしらの制裁を加える、という形で強く反応しなければならない。しかし一方では、例えばポーランドのように、ベラルーシに強い制裁を与えることで、ベラルーシがロシアへすり寄ってしまうことを危ぶむ国もある。」

優柔不断な西側からルカシェンコが得ているメリットは?

ベラルーシに罰を与えたいが、ベラルーシを親ロシアにもさせたくないというヨーロッパのジレンマは、ルカシェンコの益であり、時間稼ぎの手段になっている。ルカシェンコは西側にとって、ロシアに圧力をかけるための手段であり続けている、とミルザヤン氏は言う。

ミルザヤン氏「ルカシェンコが親ヨーロッパ派になることは決してあり得ないし、彼は自殺志願者ではないから、反ロシアにまわって危険な政治的な賭けに出ることもない。西側は、デモの鎮圧が強権的なものになるにつれて、そのことを実感するだろう。そうなると彼らはベラルーシに強力な経済制裁を課してくる。その時ロシアは、不干渉を貫くだろう。ロシアはルカシェンコの勝利を認めたけれども、それは選挙結果が気に入っているということではない。ロシアには単に選択肢がないのだ。選挙結果を受け入れないとなれば、親ヨーロッパ派の思うつぼになってしまう。」

ベラルーシが最終的に西側につくことはあり得るか?

もしベラルーシが完全に西側に路線を切り替えれば、西側からの財政支援を受けた親ヨーロッパ派の野党勢力によってルカシェンコ政権は転覆させられることになる。だからこそ、ルカシェンコが大統領でいる間は、このシナリオは考えにくい。

ルカシェンコ政権は、隣国の経済界の要人や軍・警察の要人たちと、ルカシェンコとの個人的な人間関係によって、ある程度保たれてきた。その良好な関係を維持するため、ルカシェンコはイデオロギー的に非常に柔軟でいなければいけなかった。しかしこの柔軟性は、自国の人民に対しては発揮されていないようだ。

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