ユニセフの報告書は「子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か」(原題「Worlds of Influence: Understanding What Shapes Child Well-being in Rich Countries」)という名称で、「身体的健康」「精神的幸福」「アカデミックスキルと社会スキル」の3つの項目を調べたものである。3項目総合で1位になったのがオランダであり、デンマークとノルウェーがそれに続く。日本は真ん中あたりの20位、米国は36位、最下位の38位はチリだった。調査のためのデータ収集は新型コロナウイルス感染拡大前、数年にわたって行われた。
読解力と数学の基礎知識は良い結果(5位)だったにもかかわらず、友だちを作るスキルでは日本の子どもの順位は低かった。15歳の子どものうち、友だちを作るのは容易だと答えたのはわずか69%で、最下位のチリに次いでワースト2位だった。
報告書はまた、日本は対象国の中で2019年の失業率が最も低いにもかかわらず、子どもの貧困率は18.8%にも達していると指摘している。比較のために挙げると、アイスランドは10.4%、トルコは33%である。しかし、最も重要なのは精神的幸福度である。日本の15歳の子どものうち、生活に満足していると答えたのはわずか62%であり、ワースト2位だった。1位のオランダは90%、最下位のトルコはわずか53%だった。
日本が他の先進国に大きく遅れをとっている原因は何なのだろうか?経済発展の度合いでは、日本は他の多くの国よりずっと上位にあるではないか。一方で、日本の母親は往々にして子どもに対して過保護であり、子どもの成長につれて教育ママになり、子ども(主に男の子の場合に顕著)に良い教育を受けさせるためには時間も労力も惜しまない。こうした状況について、明治大学文学部准教授の内藤朝雄氏に話を聞いた。
内藤朝雄准教授:「ユニセフ(国連児童基金)は、日本の子どもの精神的幸福度は、先進38カ国中37位、つまりワースト2位であるというデータを公表した。この背景には、日本の極端で独特な集団主義の学校教育がある。日本の学校を観察した日本以外の国の人は、その集団主義教育のありかたが、軍隊に似ているという印象を受ける。
日本の学校は、あらゆる生活(人が生きることすべて)を囲いこんで学校のものにしようとする。学校は水も漏らさぬ細かさで集団生活を押しつけて、人間という素材から「生徒らしい生徒」をつくりだそうとする。日本の学校は、国家の規模の全体主義ではなく、身近な小さな世界の全体主義をかたちづくっている。ただ外形的行為が同じであることを要求されるだけでなく、心をこめて、表情や涙などをふくめて、全存在が、独立した個人ではなくなり、響き合う合唱のアンサンブルのような学校の生徒らしい生徒になることを要求される。日本の学校で最も大切とされることは、勉強をすることではなく、心を一つにすることである。それを典型的にしめすのが、この動画がしめすような運動会の姿である。」
スプートニク:そうした集団主義の精神は、子どもたちの間に真の仲間関係を作り出すはずである。しかし、ユニセフも指摘しているとおり、日本の子どもたちが友だちを作ることに困難を感じているのはどうしてなのだろうか?
内藤朝雄准教授: 「このような学校生活の全体主義は、児童生徒同士の人間関係にもあらわれている。学校で、こどもたちは、いつも他人の目を気にして生きる習性を身につけさせられる。空気を読むことが、何よりも大切だという価値観を身につけさせられる。
こころを一つにすべしと、きめ細かくベタベタさせる集団主義のしくみのなかで、子どもたちは、「友だち」がいないと悲惨な境遇になるとおびえ、必死でベタベタして生きている。その、無理に無理をかさねて「友だちを作為する」こわばりの結果が、このワースト2位にあらわれたと考えられる。
私は、このような不健全な小さな全体主義ともいうべき日本の集団主義は、子どもたちを不幸にし、日本を不健全な社会にするので、やめるべきであると世に訴えている。集団主義教育をやめると、子どもたちがバラバラになってしまうという人もいるが、逆だ。日本独特の極端な集団主義教育をやめて、学校を先進諸国の普通の学校にした方が、子どもたちは、個人と個人として、気楽に「友だちになり」やすくなる。」
おそらく、理想の教育の形というものは世界のどこにも存在しない。しかし、子どもが適度な配慮と自由を与えられるようなバランスを目指すだけでも、子どもの精神的幸福には十分効果的なのではないだろうか。