ウランも石油もない世界 熱核融合実験炉とは何か?

国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクトは、環境にやさしく安全性に優れた新しいエネルギーを人類に与えるものだと研究者らは確信している。これはほぼ無尽蔵の燃料を使ってエネルギーを得るもので、1グラムの燃料から少なくとも10トン分の炭化水素を得ることができる。2020年の夏、参加国の首脳らが、将来の核融合炉の基盤となるトカマク型装置―つまりプラズマを閉じ込めて加熱する装置の建設への着手を宣言した。
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核融合エネルギーの世界 

核融合反応は膨大なエネルギーの放出を伴うもので、この反応を起こすときに利用されるプラズマは1,000万度、1億度という高温である。しかも普通、もっとも強力な耐熱素材が耐えうる温度は3000度から4000度なのである。

核融合エネルギーは、強力な磁場を使って融合炉からプラズマを“切り離した”とき初めて利用できるようになると研究者たちは説明する。超高温のプラズマを磁場によって閉じ込める、熱核融合炉に最適とされるトカマク装置は、1950年代初頭にソ連のアカデミー会員アンドレイ・サハロフとイーゴリ・タムによって考案され、クルチャトフ研究所で初めて製造された。

核分裂反応を起こす原子力発電とは異なり、核融合炉では、大気の密度の1万分の1であるプラズマ密度で、核種の融合を起こす。研究者らは、核の融合では爆発を起こす危険性がなく、それゆえ核融合炉は基本的に安全なものであると強調する。またこの熱核反応によって形成されるのは、人体に無害なヘリウムとトリチウムで、このいずれも後に、反応を持続するために使われる。

1980年代の半ばに提起されたITER建設の課題は、核融合エネルギーを産業規模で利用できることを実証するというものであった。

現在、ITERに参加しているのは、欧州連合(EU)、インド、中国、韓国、ロシア、米国、そして日本で、ITER本部はフランスのカダラッシュの建設用地の近くに置かれている。

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ロシアの研究者らはすでに、このプロジェクトのために、超伝導ケーブルと、超高周波の電磁波によるプラズマ加熱装置であるジャイロトロンを開発した。


リスクについて

ITERの燃料にはデューテリウムとトリチウムの同位体が使われることになっている。デューテリウムは水から比較的簡単に得ることができるが、トリチウムは核融合炉内部で生成される。ITERは実験炉であるため電力は生産されないが、研究者らの試算によれば、商業用の融合炉でエネルギーの生産が行われれば、1グラムの燃料から得られるエネルギーは炭化水素10トンから20トン分に相当する。

核融合炉のリスクのひとつは、トカマク装置の真空容器内で放射性のトリチウムが炉内に蓄積されることであり、その量は安全基準値内に制限される。核融合炉の内壁に使われているタングステンとベリリウムという材質は大量のトリチウムを蓄積することはないが、それでも融合炉を安定した状態で稼働させるためには、トリチウムのレベルを定期的に遠隔で制御する方法が必要だと研究者らは指摘する。

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炉内のトリチウム同位体の総量は、注入したトリチウムの量と排出ガスの差異から算出することができる。また研究者らは、炉内の壁に付着した元素をより正確に評価するために、レーザー照射を用いる方法を採用した。レーザーを照射することによって、壁の表面で一種の「蒸発」を起こし、それを捕集し、含有粒子を分析するのである。

この重要な課題に取り組んでいるのが、2020年にMEPhI内に特別に創設されたレーザー・プラズマ技術研究所である。研究所を率いる若き研究者で、プラズマ物理学科の助教授であるユーリー・ガスパリャン氏は、「我々の課題は、炉壁に少しでも刺激が与えられた条件下で、軽くて動きが活発な水素の同位体の濃度を測定する方法を確立することです。実験用設備とヨッフェ物理学技術研究所内のトカマク装置グローブスM−2での実験が予定されています」と述べている。


危険性の高いダスト 

MEPhIの研究者らによれば、トカマク装置の基礎となっているトロイダル磁場、つまり「ドーナツ型」の磁場でプラズマを断熱するという方法は、プラズマからのエネルギー粒子や放射光が炉壁に入射する可能性を完全に排除できるものではないという。壁がエネルギー粒子や放射光の衝撃を受けると、炉壁は侵食され、肉眼でも見える物質、つまり簡単に言えばダストが発生するのである。

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物理学者らの計算によれば、トカマク装置の真空容器の底にダストが蓄積されると、真空容器は危険に晒されることになる。ダストそのものが発火する恐れがあるのに加え、放射性のトリチウムを蓄積するからである。

融合炉を停止することなく、ダストの量とその生成を制御するため、レオン・べグラムべコフ教授率いるMEPhIの研究者グループは、静電ポテンシャルを用いた特殊なアームを使用することを提案している。

アームと壁表面の間の電磁場でダストの粒を帯電させ、特別な容器に収めるのである。アームは表面を移動しながら掃除機のようにダストを集め、それをその後、特別な通路を用いて融合炉から別の場所に移すしくみになっている。


科学界のアバンギャルド 

カダラッシュの主要チームでは、すべての参加国から集まった1,100人の専門家が活動しているが、それに加え、それぞれの国でも数万人規模の研究者や技師がプロジェクトのために研究を行っている。

MEPhIプラズマ物理学科のワレリー・クルナエフ学科長は、「MEPhI、とりわけプラズマ物理学科は、精力的にプロジェクトに参加し、また人員の育成にも尽力しています。我が学科は、半世紀以上にわたり、熱プラズマと核融合反応の分野における専門家を養成してきました。この学科の卒業性たちはITERの主要グループ、あるいは国内でのITERチームで活躍しています。我々と協力関係にあるパートナーはほぼ世界全土に広がっています」と述べている。

学科の創設以来、ここで学んだ専門家らによって、プラズマおよびその構成体(イオン、電子、中性原子)とさまざまな物質との相互作用を調べる実験装置が開発されたほか、これらのプロセスを記録するための理論やコードが確立され、また多数の研究者が育成、輩出されてきた。

これまでに学科の専門家らがITERのために行った研究の中には、融合炉の第一壁の冷却管からプラズマへの漏水を発見する分光観測法の確立、レーザーを用いた診断システムの磁気ミラーにグロー放電洗浄が与える影響を評価するための方法論の確立、電磁波集電装置のための遮蔽材の開発などが含まれている。

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