「怯えた世代現象」どうしてロシア人はソ連に返りたがるのか

ソ連が崩壊して2021年で30年になる。しかし、ソ連時代にノスタルジーを感じるロシア人は今も多い。これは世論調査でも明らかだ。驚くことに、ソ連崩壊後に生まれた人々でさえもソ連へのノスタルジーを感じている。現代のロシア人は、世界中どの国にも行けるのが当たり前で、ガジェットを使いこなし、TikTokやInstagramやTwitterでのやりとりに慣れ親しんでいるにも関わらず、ソ連時代を理想郷のように考えている。このソ連への愛着はいったいどこから来るのか。スプートニクが調べた。
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ロシア人の75%はソ連時代を、国の歴史で最高の時代だったと考えている

レヴァダセンターが2020年9月に実施した最新の世論調査によると、ロシア人の65%がソ連崩壊を残念だと感じ、同じく65%がソ連崩壊は回避できたと考えている。年齢別の内訳をみると、18~29歳では32%、20~44歳では62%、45~59歳では77%、60歳以上では84%がそのように回答している。別の世論調査センターの調査では、75%のロシア人がソ連時代は国の歴史で最高の時代だったと考えており、この考えに反対する人はわずか18%だった。また、回答者の65%がソ連は強い統一された国家だったと回答し、55%が当時は国内に秩序があったと回答した。43%の回答者がソ連では人間関係が今よりも良好だった、明日に自信が持てたと回答し、33%が食料品等の価格は安くて安定していたと考えている。さらに12%がかつての方が生活は面白く楽しかったと答えた。大多数の回答者がソ連時代の最大の出来事として大祖国戦争での勝利と有人宇宙飛行を挙げた。


ロシア人はソ連の何にノスタルジーを感じるのか

社会学者によると、人間の記憶はまず最初に良いことを記憶するようにできている。ある時代について一般的な質問をされたとき、回答者はまずその時代の良い面を答える。そして、追加の質問をされて初めて、その時代の生活のネガティブな面を話すのだそうだ。幸せな子ども時代、ピオネールキャンプでのキャンプファイヤーと歌、美味しいアイスクリーム、手頃な価格の食事、安くても安定した給料、無料のアパートなどの思い出は人々の心を温かくする。ソ連の熱狂的な支持者は少し考えた上で、他国よりも安い給料の代わりに人々には質の良い教育と医療が無料に近い形で提供されたと言う。ビジネスの競争もなかったし、そもそもビジネスそのものがなく、子育てからあらゆるものの製造に至るまで、ほぼすべてが国営だった。失業もなかった。あったのはソ連の科学と文化とスポーツが成し遂げた成果に対する誇りだ。社会主義に深刻でネガティブな現象があったことは国民的記憶からいつの間にかほぼ消し去られた。社会主義の明るい未来は、物不足で店の棚から文字通り何もかもが消え、どんなにありふれたものを手に入れるにも長い行列に並ばなくてはならない日が来るまで、かなり長く信じられていた。


ソ連は平等な機会が与えられる国だった

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政治研究所所長で外交軍事政策会議のメンバーであるセルゲイ・マルコフ氏はスプートニクのインタビューで、現代のソ連ノスタルジーは社会的公正の希求の表れだと語る。「ソ連崩壊から30年後の現代社会でソ連の記憶が生き続けているのには、多くのファンダメンタルな理由があります。まずひとつめは、ソ連は影響力のある大国で、誰にも依存せず、自らを守れる国だったことでしょう。ふたつ目の理由は、総じて誰もが平等な機会を与えられる国だったということです。医療の提供でも、教育でも、キャリアでも、平等な機会が与えられました。もちろん当時も、より恵まれた人とそうでない人はいましたが、今のような大きな所得格差はありませんでした。今は、一握りのサッカー選手、芸能人、ブロガーがひとつの研究所よりも大きな収入を得る時代です。人々は不公平だと感じているのです。たしかに、スターリン時代の弾圧を否定するのは馬鹿げたことですが、それ以降の時代には反体制的な人々に対してそこまで厳しい扱いはありませんでした。人々はソ連を返してほしいとか、ソ連に戻りたいというのではありません。そんなことは不可能です。けれど、人々はあの時代の本当に良かったことを取り戻したいと思っているのです。」

社会心理学者で『失われた記憶の国。ソ連という過去がロシアの今に及ぼす影響』の著者であるアレクセイ・ロシン氏は、過去へのノスタルジーはロシア人に特有のものだと語る。「これはロシアの伝統のようなものです。チェーホフを、彼の有名な戯曲『桜の園』や『ワーニャ伯父さん』を思い出してみれば分かるでしょう。ソ連に対するノスタルジーは、怯えた世代現象です。ソ連時代の終わりには、誰もがすべての問題の元凶は、ソ連人の大いなるポテンシャルを抑圧する腐敗した体制にあると信じていました。ですから、ペレストロイカは熱狂をもって迎えられたのです。そして、多くの人々がよく考えもせずに市場経済に飛び込み、すぐにそれが困難でリスキーなことだと気付かされました。「成熟した社会主義」時代の静かで規則的な生活に慣れきったソ連人にとっては、恒常的に危険と隣り合わせという新しい状況は文字通りショックだったのです。ソ連崩壊は多くのロシア人に傷をもたらしました。しかも、そのショックの記憶はいまだに消えていません・・・」


現実と神話

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国立スラブ文化アカデミー准教授、哲学者で評論家のヴィクトル・アクシュチツ氏は、歴史的過去の受容を次のように説明する。「人々は客観的な現実の中で生きているのではなく、自分が知覚する現実の中で生きています。歴史についてもまったく同じです。人々は過去の出来事に対する客観的な知識の中で生きているのではなく、社会アジェンダとして形成された知識の中で生きているのです。ソ連の欠点や「社会主義の生活様式」についての情報は現代の若者の頭には届いていません。ソ連市民の大多数が日常生活において、今では考えられないような困難にどれほど直面していたか、彼らにはまったく自覚がないのです。お店に肉がないって、なにそれ?隣の店に行けばあるでしょ。ハム・ソーセージやチーズの種類が10種類以下って、どういうこと?それなら隣の店に行けばいいじゃん。自動車を買うために何年も順番待ちをしなければならず、無料のアパートをもらうためには10年単位で順番待ちをしなければならなかったことが、彼らにはさっぱり分からないのです。もちろん、高齢世代の方がソ連へのノスタルジーを感じがちです。彼らは人生の大部分をソ連で過ごし、ソ連には彼らの子ども時代、青春、理想が残されているからです。」


ソ連の消滅は1991年である。どうしてソ連が崩壊したのかについて統一された見解は今もないが、基礎的な原因としてよく挙げられるのは統治体制のクライシスと非効率な経済モデルである。ソ連崩壊は経済と社会に強烈な震撼をもたらした。

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