コロムナはとても可愛らしい町で、家の一軒一軒がこぢんまりとし、カラフルな色に塗られている。地下鉄はないがトラムで移動できる。背の高い建物がなく、町ゆく人の雰囲気もどこかのんびりとしている。ヤギとすれ違って思わず写真を撮ったが、ここでは珍しい光景ではないようだ。時々、変わったオブジェや、観光客を楽しませるストリートアートがあったりする。町外れにはヴォルガ川が流れている。テラスやベンチも整備され、水辺の景色は壮大で気持ちが良い。
ソ連の共同住宅コムナルカ、現代の観光名所に
ソ連の典型的なコムナルカでは、バス、トイレ、キッチンが共同で、複数の家族がそれぞれの部屋に分かれて暮らしていた。今でも、コムナルカは完全になくなったわけではない。また、コムナルカと銘打ってはいなくても、ある物件を一部屋まるまる借りるのではなく、見知らぬ人たちが部屋ごとに借りて、後のスペースは共同使用(他人とルームシェア)という形式も根強く残っている。
筆者を含む一行は6人。オプションで、当時の暮らしを体験できるゲームに参加した。それぞれが何らかの役を演じ、チームで課題を突破するこの種のゲームは「クエスト」と呼ばれ、ロシアで流行している。我々はくじを引き、工場で働く労働者家族チーム、船員家族チーム、(船員本人は航海中で不在)、医者家族チームに分かれた。
ゲームのルールはこうだ。部屋はびっくりするくらい狭く、モノがたくさんあるので、それぞれの家族は少しでも広い部屋に引っ越そうと、苦情を訴える。そこに、コメンダントと呼ばれる管理人のような人が出てくる。コメンダントはありとあらゆる方法で、我々居住者の要望を引っ込めさせようとする。難題を乗り越え、最終的に一番広い部屋を獲得した家族が勝ちだ。これ以上のネタバレは避けるが、コメンダントは迫真の演技力で、大いに楽しませてくれた。
りんごを使った素朴な伝統菓子、パスチラ
コロムナ名物として名高いのが、りんごを使ったお菓子、パスチラ。最近のSNSを見ていると、パスチラは日本語でもたびたび紹介されている。正直言うと筆者は、このパスチラがあまり好きではなかった。見た目は軽石のようで、味は砂糖のカタマリのようだと思っていた。
しかし、パスチラ博物館で説明を受け、試食したことで、筆者の「パスチラ観」はすっかり変わった。パスチラという同じ名前でも、かなりの種類があって、見た目も味も食感も全然違うということがわかったのだ。もうこれはそれぞれ名前を変えた方がいいと思うくらいだ。
例えば、りんごピューレを固めて作った最も素朴なパスチラは、見た目はグミのようで、酸味に加えてほのかな苦味が感じられる。りんごと砂糖、そして卵白で作った「砂糖パスチラ」は、もっちり、しっとりしている。砂糖の代わりにロシア人が大好きな蜂蜜を入れたものや、バラの香りのピンクのパスチラ、クリームをはさんでケーキ状にしたバージョンもある。どれも、りんごのやさしい甘みが感じられる。これだけ食べて、すっかりファンになってしまった。
コロムナの色々な場所でパスチラを買ったが、結局、博物館併設の工場で作ったものが(値段も3倍くらいしたが)圧倒的に美味しかった。どれも賞味期限が短く、それを過ぎると表面がパサパサになってしまうので、買ってすぐ食べるのが正解だ。
ロシア最古の白パン、お金持ちのための「カラチ」
パスチラ博物館と並んで外せないスポットが、カラチ博物館だ。カラチとは、14世紀に登場したロシア初の白パンで、リング状の形をしている。カラチを焼くのに使えるのは、最高級の小麦粉だけで、カラチは裕福な人の食べ物とされていた。カラチ博物館は実演型で、カラチの歴史から作り方まで、軽快なトークとパフォーマンスで楽しませてくれる。この日、1階は子どもたちでいっぱいだったので、筆者たち大人は2階に陣取った。ホールは吹き抜けになっていて、どこからでもよく見える。
カラチは、大きくふくらんでいる部分を先に食べるのが正しい食べ方だそうだ。一番細くなっている部分は、汚い手で触ってもよい「持ち手」とされて、昔は食べずに捨てるか犬にあげていたが、今ではもちろん食べられる。食べ方の説明を受けたところで、一人ひとりに紅茶とバター、焼き立てのカラチが出てくる。14世紀のレシピを再現しているというカラチは、香りがよく素朴な美味しさで、歩き疲れた観光客にはもってこいだ。
コロムナにはクレムリンなど歴史的な観光名所もあるので、小さな町ながら、まる2日は楽しめる。モスクワとはまた違うロシアの魅力が手軽に楽しめるコロムナ、ぜひ訪れてみてほしい。