軍のスターたち
今、世界でもっとも有名な男性グループが歌謡界の歴史を作り出している中、BTSの最年長メンバーである28歳のジンは兵役入隊の期限を迎えようとしている。
「BTS法」
Kポップグループのメンバーたちが兵役を先送りできるとした新たな法案は、ここ10年の間に韓国のスポーツ選手に対して与えられた特権に類似している。オリンピックまたはアジア大会でメダルを獲得した選手たちは、国の権威を高めるような功績をあげたとして、兵役を免除されている。たとえば、サッカーの孫興民(ソン・フンミン)選手は、すでにこの権利を行使したことで知られている。
孫興民選手は、2018年9月、アジア大会で韓国代表チームが日本を下して、金メダルを獲得したことが評価され、兵役を免除された。孫選手は済州島の海兵第9師団で3週間の基礎軍事訓練を受け、34ヶ月の間に544時間の社会奉仕活動を行うことを義務付けられながらも、プロのスポーツ選手として活動を続けることができたのである。
1973年に施行された法では、有名な俳優やクラシック音楽家などは兵役義務の例外とされ、入隊を30歳まで先延ばしすることが許されていた。また国家賞を受賞したクラシック音楽や民謡の演奏家らも、兵役義務を2年延期することができた。
「BTS法」とも呼ばれる今回の法改正では、国および世界の文化への功績が認められて政府からメダルを授与されたKポップスのアーティストたちがこの対象に含められることになった。たとえば、大韓民国大衆文化芸術賞などの受賞者は(2018年にBTSは花冠文化勲章を受章している)延期を申請することができる。延期を認める基準については、今後、大統領令で規定されることになっている。
このように、アーティスト本人たちは、これまで何度となく、祖国のために兵役に就く用意があると発言しているにもかかわらず、政治家らは彼らのために譲歩するとしている。
韓国民主党の盧雄來(ノ・ウンレ)議員は、10月にこの改正案に支持を表明し、「彼らも義務を遂行するべきだが、国益に敵う形で行われるべきだ」と述べていた。BTSは米国の音楽チャート「ビルボード」で1位になり、1兆7,000万ウォン(約1兆5,300万円)規模の経済効果をもたらした。また国のイメージアップへのBTSの功績は計り知れない。
軍には誰もが入隊するのか?
音楽界での多大な成功を収めているスターたちの兵役の問題は、韓国社会における大きな論争であり続けている。
韓国国防省は、個別の理由によるあらゆる特恵を少しずつ廃止する方向で検討している。10年にわたって出生率の低下が続く韓国は、65万人規模の自国軍を増強することに全力を挙げており、軍はできる限り多くの人員を確保したい考えだ。一方で、徴兵の対象者たちは、身体検査を回避するため、国外での留学期間を延長したり、絶食するなど、あらゆる手を使っている。
一方、国防省の報道官は「国の人口予測を見れば、2023年には2万人から3万人の人員不足になる」としている。
こうした状況から国防相は、2020年から3年かけて兵役に関する特別措置を段階的に廃止する計画について、関係省庁と協議を行っている。
国防省はKポップアーティストたちもいつか必ず兵役の義務を遂行するよう求めている。徐旭(ソ・ウク)国防相は、「社会的なコンセンサスを得ることが必要ではあるが、彼らの兵役を免除する考えはない」と述べた上で、時期を延期する可能性について検討する可能性はあるとの見解を明らかにしていた。
2020年11月に韓国の通信社E-Todayが行った世論調査によれば、BTSに対する特別措置に対しては、回答者のおよそ53%が支持すると答え、47%が支持しないと答えた。
BTSには独自の軍がある?
いずれにせよ、BTSには、自分たちを「BTSアーミー」と呼ぶ熱烈なファンが彼らを支持していることは確かである。ファンたちは、異なる音楽ランキングでBTSを上位にするために、さまざまな場所で集結している。つまり、いかなることがあろうと、BTSアーミーが社会政治的な場所で彼らを支援するのを妨げるものなどないのである。
BTSアーミーの力はすでに政治目的でも使われている。2020年の米国大統領選で、トランプ大統領の選挙集会が、他でもないBTSのファンによって妨害されたのである。彼らはティックトックを使って、大量に集会参加の予約をし、実際にはそこに現れず、集会の観客席を空席にしようと試みた。
ファンクラブは経済的な影響力も持っている。6月初旬、BTSはBLM(ブラック・ライブズ・マター/黒人の命は重要)運動に100万ドル(約1億900万円)を寄付し、人種差別は許容されるべきではないと述べた。そのおよそ24時間後、BTSのファンたちも同様に寄付を行った。それぞれの額はそう多くはなかったが、ファンの人数は厖大で、総額は大きなものとなった。
BTSアーミーの文化について研究している米ネバダ大学(ラスベガス)のニコル・サンテロさんは、「これほど大規模なファンクラブは見たことがない。彼らは全地球上に広がっている」と指摘し、自身のアカウント@ResearchBTSでデータを公表している。
ソーシャルネットワーク上の影響力と経済力。21世紀において、世界を動かすこれほど大きな力はなく、BTSアーミーは、BTSが兵役などにまったく阻害されることなく、できるだけ長く音楽活動を続けられるようにするための大きな力となるだろう。