正真正銘の「アジア版NATO」となるか? 日米豪印戦略対話

日本は日米豪印戦略対話(Quad:クアッド)がインド太平洋地域の安全保障のための完全な連盟となるよう望んでいる。日本側がこうした関心を表す理由は、日本の水域である尖閣諸島(中国名:魚釣諸島)中国船が何度も繰り返す侵入であり、2月16日も同様の事態が起きた。クアッドは4か国の高官らが定期的に会合を開き、安全保障問題に関する戦略対話を図るためのメカニズムであり、事務局があるわけではない。それでもマスコミはクアッドについて「アジア版NATO」という表現を使い始めた。
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16日の記者会見で加藤官房長官は、尖閣諸島に侵入した4隻の中国船のうち1隻は「砲のようなもの」を搭載していたことを明らかにしている。日本政府は東京、および北京の外交ルートを通じて中国側に抗議した。

注目に値するのは今回の侵入が、中国で1月22日に発効した法により、中国海警局には領有を主張する水域において外国船舶に発砲することが許可された後に発生したことであろう。この他、この法は中国海警局に対し、中国が領有権を主張するサンゴ礁、島に他国が建造した建造物を破壊し、占拠したり、中国の水域に不法に入った外国船に退去を命じる権利を許している。ところが日本の海上保安庁には武器の使用は法で厳格に禁じられている。世界の専門家らは中国が採択した法は南シナ海、東シナ海の紛争リスクを拡大してしまう恐れがあると考えている。

戦略的な対立の板挟みとなる日本
日本は、中国の拡張を狙う行為に対抗しようとする自国の努力に国際的な支援を取り付けたいと考えており、その中にはクアッド参加国も入っている。1月21日、菅首相は米大統領に就任したばかりのバイデン氏との初の電話会談でもクアッドの今後の発展構想について提案をしている。菅氏の構想はバイデン政権の目指す方向に近い。モディ印首相との2月8日の電話会談でクアッドの枠内における「地域構造の強化」が主要テーマのひとつに挙げられたのも偶然ではない。この会談後、共同通信はクアッド参加国内のある消息筋からの情報として、米国は他の3か国にクアッド参加国首脳らによるオンライン会議の実施を提案したと報じている。これまで日米豪印外相らは2019年9月、2020年10月にそれぞれニューヨーク、 東京で2度の会合をもっている。

2月9日のブリーフィングで米国務省のネッド・プライス公式報道官は、米国は「Quadを著しくはずみをつける、重要なポテンシャルを持つメカニズムと捉えており、海上の安全保障など従来の分野におけるパートナー諸国との協力を深化させつつ、これを発展させていく構え」であることを明らかにしている

ロシアの戦略計画予測研究所のアレクサンドル・グセフ所長はスプートニクからの取材に、クアッドは現時点ではNATO、WTO、EUのように法的な形をとった陣営ではなく、参加する諸国にとっては「国益による集まり」であり、安全保障の死活的に重要な要素であるとして次のように語っている。

世界の軍事費 トップ3に初のアジア諸国 最大伸び率はドイツ
「中国の国力、野心が伸長しているからといって、これらの諸国に必ずしも脅威となるわけではないものの、彼らにしてみればこれは極めて憂慮を呼ぶ問題だ。米国にとって中国はかなり以前から政治、軍事、経済上の敵国である。これが始まったのは何もトランプ政権からの話ではなく、それより前のブッシュ政権、オバマ政権も同じでバイデン政権でもこのまま続いていく。バイデン氏は中国抑止戦略を堅持していく意向をすでに表している。クアッドの他の参加国にしても中国との関係はスムーズではない。

日本にとっては中国は貿易、経済の重要なパートナーだが、一方で両国の間では東シナ海の領土論争が絶えない。2020年9月、菅首相は中国、ロシアをはじめとする近隣諸国との安定した関係の発展を目指す意向を示したが、同時にクアッドの基底にある、開かれた自由なインド太平洋地域の構想を推し進めていくとも明言している。オーストラリアといえば、2020年に輸出品の主力である石炭、銅、製材、大麦、砂糖、ワインなどの買い付けを中国から打ち切られている。インドと中国の関係は2020年夏の国境紛争で決定的に悪化した。この紛争でインドは軍事に損失を出している。  

4か国の中にたまり溜まった中国へのクレームは2020年、海上合同軍事訓練の実施という形で噴出したが、これはもう裏も表もない明らかなシグナルとなった。今の予定ではクアッドはサミットを計画しており、ポジションのすり合わせの他、行動計画が構築される。

ただしそれぞれの国には独自の国益があり、何らかの義務に縛らることは誰も望んでいない。このためクアッドは法的な形をとらない陣営でありつづけ、諸国は出入りが可能となるだろう。すべてはこれら4か国がこのメカニズムをどのように発展させたいと考えるかによる。ただし、中国が思慮を欠いた行為を行い、生まれたばかりの同盟が尽力を強める方向に秤を傾けてしまうこともありうる。」

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