この問題が国際社会を大きく揺るがすきっかけとなったのは、2013年、エドワルド・スノーデンが米国の「プリズム」という極秘の大量監視プログラムに関する情報を暴露したことである。この「プリズム」は、CIA(国家保安機関)が電子メール、画像、動画を検索し、ボイスメッセージを傍受し、送信ファイルを追跡し、ソーシャルネットワークの情報を収集することを可能にするものであった。しかし、新型コロナウイルス拡散防止対策により、コロナ禍の恐怖の中でデジタル監視を効果的な安全措置だと見なすようになった国民を監視するための技術の利用は合法化されるに至った。
デジタル監視の技術は、台湾やシンガポールのコロナ対策でも効果を出している。シンガポールでは、かなり前から、地理情報と顔認証カメラを治安維持を目的に利用しており、およそ80%の市民がトレース・トゥゲザーという位置追跡アプリをダウンロードしている。シンガポール政府は、ユーザーのデータをコロナ対策以外の目的で使用することはないと言明しているが、犯罪の捜査に使用する可能性については、これを除外していない。
現在、デジタル監視の分野で主導的地位に立っているのは中国である。中国では、2014年に社会信用システムがスタートした。これは中国が構想する全国的な評価システムで、所得やキャリアなど社会的なステータスに関する政府のデータに基づいて、企業や個人をランキング化するというものである。
日本外務省は、外国人を招待した組織または外国からの入国者自身に対し、日本入国に際し、スマホにLINEのアプリをダウンロードすることを義務付けた。アプリは14日間作動し、その間、厚生労働省に対し、健康状態を報告しなければならない仕組みとなっている。東京五輪に参加する選手たちにも同様の措置が求められる。
2月、国際オリンピック委員会のサイトでは、東京で開催されるオリンピックおよびパラリンピック大会に、関係者が安全に参加するための最初の行動指針が発表された。この行動指針によれば、周囲の人とはできるだけ接触を避け、2メートルのソーシャル・ディスタンスを遵守しなければならず、また持ち場を勝手に離れたり、観客として大会を観戦することは禁じられる。外国からの観客を入れるかどうかについては、3月末までに結論を出すとしている。
とはいえ、選手たちだけを監視するだけでも、スマホのアプリに加え、監視カメラが必要となる。ロシア情報分析局「テレコムデイリー」のデータによれば、現在、日本全国で500万台のカメラが設置されているが、これはドイツ、英国と同程度の数字である。ちなみに、米国は5,000万台、中国は2,000万台、ロシアは1,350万台である。
これに関連し「コープソフト24」社のコンスタンチン・レンジャエフ社長は、顔認証システムが大々的に使われることのリスクは当然あると指摘する。
「(そのリスクについての根拠は)安全だと思われているリソースを含め、データベースの流出が頻繁に起こっていることを考えれば十分でしょう。しかし、一方で、様々なサービス(検索システム、ソーシャルネットワーク、無料Wi-Fiなど)が収集した、個人情報を含めた情報の量は相当なレベルに達しています。現在、すべての広告主が、あなたがどこで働いていて、どのレストランで食事をし、フィットネスクラブに通っているのかどうか、ペットがいるのかどうかを把握している状態です。これらのデータを使って、広告主はそれぞれの個人に対する広告を見せ、ときには名前で呼びかけたりするのです。こうしたマーケティングもテクノロジーの進化の副産物です。わたしの考えでは、これは倫理的とは言えません。しかし、残念ながら、現時点では、これに関する法律は整備されていません。こうした情報の収集や保管は避けようのないことだと思います。重要なのは、こうした情報の漏洩が、人々の安全、精神状態、健康にどれほど影響を与えるのかということです。国家はこのことを深刻に考える必要があるでしょう。それも、国際的な規模でです」。