3月29日、ANAホールディングス傘下の全日本空輸は、羽田発―ニューヨーク行きの便で、渡航者の新型コロナウイルス検査の結果やワクチン接種の履歴を示す世界共通のデジタル証明書「コモンパス」の実証実験を実施した。コモンパスはジュネーブの非営利団体「コモン・トラスト・ネットワーク」によって開発されたものである。このアプリは乗客をパスポート番号で特定し、QRコードを表示するもので、このQRコードは通行証あるいは身分証明書として用いることができる。コモンパスにはワクチン接種で用いられた薬品の情報を含んでおり、検査結果と新型コロナワクチンの記録が到着国の衛生基準に合致しているかどうかを自動判定する。なお、「コモン・トラスト・ネットワーク」は乗客の個人情報は保護されると約束している。コモンパスアプリの開発者は、すでにキャセイパシフィック、ジェットブルー、ルフトハンザ、スイス航空、ユナイテッド航空、バージンアトランティックといった大手航空会社と協力の合意を結んでいる。
もしもこの実証試験で良好な結果が得られれば、コモンパスは、現在、乗客が外国向けの搭乗手続きの空港カウンターにおいて、または空港に到着した際の入国管理局において提示が義務付けられている、書面でのPCR検査結果やワクチン接種証明書代わるものとなる可能性がある。
電子健康パスポートの導入を検討しているその他の航空会社
その1週間前、ブリティッシュ・エアウェイズはシンガポール航空とともに、シンガポール発―ロンドン行きの航空便で、電子健康パスポートの実証試験を行なった。しかし、英国が採用しているのは、国際航空運送協会(IATA)が提案しているトラベルパスという別の証明書である。IATAトラベルパスの使用については、すでに20カ国が、共通の基準が取りまとめられれば使用するとの意向を表明している。その中には、エミレーツ航空、エティハド航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、アメリカン航空、シンガポール航空、ルフトハンザなど、大手の輸送会社が含まれている。電子の「ワクチン・パスポート」については、すでに欧州連合(EU)のレベルで協議が進められている。2月25日に開かれたEUサミットでは、加盟国の首脳らは電子ワクチン証明書の導入の必要性を認め、この夏にも導入する可能性を除外しなかった。
またIT最大手のIBMも、同様のデジタル・ヘルス・パスのアプリを開発した。新型コロナの感染拡大の間に、デジタル分野が進んでいる国々は、書面に代わりに使用できる国内用アプリを開発している。たとえばロシア運輸省は、コロナ収束後の航空輸送の再開を加速化するため、航空会社とユーラシア経済連合内での国際便のためのデジタル通行証の発行について協議している。さらにIATAトラベルパスの導入を急ぐ方向で検討が進められている。
ワクチン戦争は起こるのか?
これに関連し、国際発展研究所の主任専門家、アレクセイ・スコピン氏は、すべてが公正に進められていけば、こうしたアプリの導入は世界的なデジタル・ヘルス・システムの創設につながるだろうと指摘する。
「ワクチンパスポート」は誰もが使えるわけではない?
一方、雑誌「情報空間」の編集長、エヴゲーニー・ベン氏は、電子コロナパスポートの導入のアイデアは適切なものではないとの見方を示している。
またロシアの航空会社「ルスアヴィア」のガリーナ・オフチャレンコ代表は、技術的な観点から言えば便利なアプリかもしれないとしながらも、これにより利用客が急激に増加することはないだろうと述べている。
「まず、ワクチン接種は任意のものであり、結果がどうなるか分からないことから、誰もが打ちたいと思っているわけではないということです。次に、誰もがインターネットにアクセスできるわけではありません。スマホを持っているかどうかについてはさらに疑問です。もしかすると、人々は、ワクチン証明書を提示を求めない国や地域を選ぶようになるかもしれません。現在、乗客は少しずつ増えてきていますが、コロナの感染拡大はまだまだ収束していません。世界には、第3波が到来した国もありますし、規制は再び強まってきています。そして、外国人の受け入れに関する基準はそれぞれの国によって違っています。すべてがカオス的で、観光ビジネスは麻痺状態です。電子証明書のような技術革新がこの状況を劇的に改善してくれるとは思えません」。