開催に反対する国民、開催を強行しようとする政治家
コロナウイルスが蔓延している現在の好ましからぬ状況で、多くの国民が、外国人を国内に招き入れたくないと考えていることについては、世論調査の結果や五輪開催反対を訴える嘆願書への署名の数はもちろん、選手に送られた大会への出場を辞退するよう求めるメッセージなどからもはっきりとうかがえる。
「池江璃花子さん、オリンピック出場を辞退していただけませんか?人の命より大事な夢などありません。このまま選手として参加したら、コロナで多くの人を死なせた東京オリンピックにあなたも加担したことになります」。
「池江選手ほどの実力があり、影響力のある選手だからこそ、『今の状況のオリンピックには出ない』という決断をして欲しいと思います。そんな池江選手に、他の選手達も続くでしょう」。
池江選手自身、「(東京五輪代表を)辞退してほしい」、「(五輪開催に対して)反対の声をあげてほしい」と言ったメッセージが複数寄せられていることを明らかにし、とても苦しいと打ち明けている。池江選手は7日、自身のツイッターを更新し、その思いを次のように綴っている。
「このコロナ禍でオリンピックの中止を求める声が多いことは仕方なく、当然のことだと思っています」。「私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません」。「この暗い世の中をいち早く変えたい、そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです。わたしに限らず、頑張っている選手をどんな状況になっても暖かく見守っていてほしいなと思います」。
こうした池江選手のコメントに、多くのファンたちが支持を表明している。また丸川オリンピック・パラリンピック担当大臣も記者会見でこの問題について発言し、池江選手を支持する立場を示すとともに、「非常に残念だ。匿名で個人に対してことばの暴力をぶつけるのは、いかなる理由があっても許されないことだ」と批判した。
この問題はインターネット上で激しい議論を巻き起こした。多くのユーザーは、問題は政治家たちが考えているほど単純なものではないとの見方を示している。
犠牲を払わされることになった「東京五輪の顔」
池江璃花子選手は、白血病からの奇跡の復帰を果たしたことで一躍有名になった。2019年2月、池江選手は急性リンパ性白血病と診断された。
闘病のため、406日間プールに入ることができなかった池江選手は、回復後、パリ五輪を目指す意向を示していた。しかし東京五輪が1年延期されたことでトレーニングを積むことができ、4月に開催された日本選手権では、女子100メートルバタフライ、女子100メートル自由形などを制し、東京五輪の女子400メートルリレー、女子400メートルメドレーリレーの代表内定を勝ち取った。
コロナ禍での五輪開催に関する国民の不満が高まる中、池江選手は五輪に対する国民の関心を維持するような宣伝にたびたび使われるようになった。
多くのコメンテーターが、今回、池江選手が標的となった原因はここにあると指摘している。
「同様に、池江を開催支持を集める道具に使う政府やマスコミも、卑劣だと思う」。
「有名人は言動に気を付けないといけない。コロナで今日大切な人を失った人、医療従事で命懸けで働いてる人はどう思うだろうか?他人事のように考えてるもしくは自分勝手な人ほど『卑劣だと思う』と言えるのではなかろうか」。
「大会を通して勇気と届けたいと言いつつ、一方で自分はただの選手だから何も声を上げられないとか。組織としての絶望を見せつけてどうすんだろうとは思うね。彼女に対して全く興味ないけど、ウンザリするほど大会開催への機運情勢のためのアイコンに使われていたから、そこへヘイトが集まるのも理解できる。これを機会に選手を全面に出したプロモーション考え直したらどう?」
「一生懸命這い上がってきた池江選手の努力と奇跡を、政府やマスコミがオリンピックの広告塔に利用してきた時点で、なんの罪もない彼女は被害者だと思う。でも、今回の一件?反対のツイートが盛り上がってきたから、反対派を非難する様に世論の矛先を向けて、賛成派の勢いを増す様に仕組まれてないか?タイミングが良すぎるような気がします。池江選手の意見もなんだか言わされた感を感じてしまう。ごめんなさい。でも、非難されるべきは、IOCと、JOC、ゴリ押し無策な政府と、まともに対抗できない野党。結局、すべてが利権にぶら下がって、国民もアスリートも完全無視。ふざけるなって思う」。
「池江選手へオリンピックの開催の可否について批判コメント等はするべきではない。ただ、JOCや組織委員会は池江選手を担ぎ出してオリンピックの気運を高めるための広告塔として大々的に利用している側面がある。当然予測すべきだし、それに対して、アスリートが批判の矢面に立たせないよう動くべきはJOCや組織委員会なのでは?批判されるべきは国民に対して明確な説明ができない政府、組織委員会だと思う」。
また多くのユーザーが、現在、一般市民の治療やワクチン接種を保証できずにいる政治家たちが、五輪における安全性に関して、自分たちの約束を守ることができるのかについて、甚だ疑問だとしている。
「判断も何もせずに批判だけする大臣なんて税金の無駄。女性起用のアピールより、判断力行動力がある人間を起用すべき」。
「丸珠の言う『許されず』の元凶は全然詳細を明らかにせず馬鹿の一つ覚えのように「安心・安全なオリンピックを開催するため努力をします」を繰り返しオウムのように答弁する政府(主にガースー)の無責任な対応なのです。そんなことに業を煮やして一番衝撃を与える人に矛先が向いたのです。池江さんはそうした人の生贄にされてしまいました。ガースー・丸珠はじめオリンピックを強行開催させようとしている輩に猛省を求めます」。
「何を、他人事のように、評論家的なコメントをしているのか!元はと言えば、あなたを含むオリンピック関係者が明確な方針や根拠を一切示さないことが原因でしょう!確かに個々人の情報発信のやり方にも問題はあるが、あなたが彼らに偉そうに注文を付ける資格があるとは思いません。まずは、自らの責任をきちんと果たして頂きたい!」
さらに、複数のユーザーが、日本の医療体制は危機的状況にあり、世界中から選手や関係者が来日すれば、医療体制は崩壊する可能性があるとも指摘している。
「オリンピック中止論の原点は確かにそうだよ。6万人だかの選手と関係者が2週間の隔離も経ずに200カ国以上から来日する、それだけで今でもギリギリな日本の医療体制を圧迫する、当然死者も増えるかも知れない」。
「心身共に限界を超えて命を救い続けている医療従事者の事を守ってあげて欲しい。選手のみなさんは本当に開催して良いと思っているのでしょうか。オリンピックに関わる全ての人は治療している人、コロナによって大切な人を亡くした人、その中で日々命と向き合っている医療従事者、その人達を目の前にしてもオリンピック開催しましょうと自信を持って言えるんでしょうか?本気で大丈夫と思うのならその人たちに直接言ってください」。
こうした理由から、多くの人たちが、一般市民の声に耳を傾けようとしない政府に自らの思いを伝えてもらうため、より影響力のある人物としてアスリートたちに期待をかけているのである。
「影響力のある選手として彼女に辞退要求が出たのは、先に強行派が池江選手の名前を開催の方便に使ったからではなかったか?」
東京五輪が中止あるいは再延期されれば、甚大な経済的損失を出し、日本の名声を失墜させるかもしれないが、池江選手はまだ若く、白血病からの回復を果たしたときに目標にしていたパリ五輪に出場することもできる。
しかし、アスリートの中にはすでにギリギリの年齢に達しており、東京五輪が最後のチャンス、あるいは最初で最後のチャンスという選手たちもいることから、五輪開催に関する決定はすべての人にとって難しいものとなっている。