限られた戦闘能力
まず、この最新戦車は数が少ない。10式戦車は106輌しか作られておらず、現在、稼働しているのは76輌のみとなっている。2021年現在、自衛隊は合わせて1,004輌の戦車を保有しているが、最新戦車はそのうちのわずか7.5%にすぎず、これは日本の防衛力に大きな影響を及ぼすのに十分な数とはとても言えないものである。
10式戦車のエンジンとトランスミッションは、従来のモデルのものとは異なる新式のものである。しかし、エンジンやトランスミッションに技術的な問題があったとしたら、試作車輌でそのことが確認され、採用には至らなかったはずである。
そこで考えうる原因はサスペンションということになる。サスペンションは履帯を戦車本体に固定するもので(10式戦車には10ある)、路面の凸凹を車体に伝えるのを防ぐ緩衝装置の機能を果たしている。緩衝装置は油圧と空気圧の両方の方式が用いられていると言われている。サスペンションには戦車の全重力がかかり、移動や攻撃の際にすべての負荷がかかることから、非常に重要な部分となっている。
高速で移動しているときや走行中の攻撃に際しては、サスペンションにきわめて大きな負荷がかかると考えられる。負荷がかかると、サスペンションのハードポイントに損傷を引き起こし、戦車は大々的な修理を行う必要に迫られる。
そうなれば、有事の際には、より古い74式戦車に乗り換えなければならなくなる可能性が高い。
この戦車は現在でも自衛隊の戦車部隊における主力戦車となっており、およそ550輌が稼働している。重量は38トンと小さいが、機動性が高い。
橋は重要な要素
日本は橋の数が多い。128万キロの道路に17,920本もの橋梁がある。つまり平均して71キロごとに1本の道路橋が架かっている計算である。
戦車の重量と橋の活荷重の関係は非常に重要な戦略的要素である。90式戦車は重量50.2トンで、国内の65%の橋を通過することができる(ドイツの戦車レオパルト2は40%ほどしか通過できず、これに比べれば良好と言える)。この数字は許容範囲内のものであった。というのも、90式はソ連の戦車に対抗するために生産されたものであり、北海道での戦車戦および東京の防衛を目的に開発されたものだからである。
しかしその後、ソ連からの攻撃の脅威が消え、最新の10式戦車はより軽量に作られた。重量44トンのこの戦車は、84%の橋梁を通過することができることから、日本のほぼ全領域で行動することが可能となっている。
しかし、もし10式戦車に技術的な問題があるとしたら、自衛隊が使えるのは74式だけとなる。
日本にとって敵となりうる国がここ数年で変化したことを考えれば、これは非常に重要なことである。現在、日本が敵として警戒すべき国は中国であり、それにより、戦闘が繰り広げられると予想される場所が北から南へ、あるいはさらに南の島に移動した。島では90式のような重量50トンを超える戦車は走行できない。
沿岸地域の防衛における戦車の役割は、敵の空挺兵が降下し、拠点を制圧する前に、素早く攻撃し、殲滅することである。つまり戦車の機動性は反撃を成功させるための重要な要素なのである。
そこで中国軍が日本の島(たとえば沖縄)に空挺兵を派遣したとすると、強大な砲撃支援を持つことになる。歩兵隊がこうした空挺兵に対抗するのは難しく、戦車が必要となるのである。戦車は水陸両用戦車から降り立つ空挺兵にどんな場所でも反撃しなければならず、戦車は高い機動性を持ち、あらゆる橋を通過できなければならない。そしてこの条件をクリアしているのは74式戦車だけである。
10式戦車には10億ドル以上が拠出されたにもかかわらず、国の防衛力を高めるものになっておらず、実際に戦闘が必要となったときには30年以上も前に開発された戦車に頼らなければならないというのは、なんとも皮肉な話である。
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