東京電力:トリチウムの除去は可能だが困難

福島原子力発電所を所有する東京電力がトリチウム分離技術の公募を行うと発表した。
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しかし、トリチウムは人体にとって、一体どれほど危険なものなのだろうか?またどんなときその危険は最小となり、逆にどんなとき最大となるのだろうか?

「スプートニク」は放射線生物学者で、ツィブ名称医学・放射線生物学研究所のワレリー・ステパネンコ教授にこれらの質問を投げかけた。

危険性の低い放射性物質

 トリチウムは三重水素とも呼ばれる水素の放射性同位体で、半減期は12年である。しかし、人体への危険度はそれほど大きくないとステパネンコ氏は指摘している。

「トリチウムは、壊変時に原子核からベータ線(電子と陽電子)を放出する放射性物質です。しかし放射のエネルギーは(原子力という恐ろしい用語が付けられてはいるものの)非常に弱く、18キロエレクトロン以下です。ですからトリチウムの害は(外部被ばくを含め)深刻なものではありません」。

しかも、トリチウムは完全にベータ崩壊すると、極めて弱いベータ放射線しか持たないヘリウムに変わる。ではなぜ、福島原発の運営会社は処理水のトリチウム除去にこれほど躍起になっているのだろうか?

効果的な防護

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ベータ放射線は物質を通り抜けることができない。たとえば、木や煉瓦を透過することができないのはもちろん、原発家屋のコンクリートについて言えば、なおさらである。またベータ粒子は大気中に6ミリしか飛散しないため、人体の皮膚表面より深く透過することはない。

つまり、トリチウム壊変時のエネルギーは非常に弱く、放出される電子は衣類や医療用ゴム手袋といった障害物があればさえぎることができるのである。

人体がトリチウムを排除することはできるのか?

一方、ワレリー・ステパネンコ氏は、それでも場合によっては、トリチウムにも危険があると言えると指摘している。

「トリチウムは、(きわめて稀ではあるものの)飲料水の成分として、または食べ物を摂取するときに人体に入り込んだ場合には危険なものとなる可能性があります。ただ、ネガティヴな作用が働くのは、DNA合成で透過が起こったときだけです。この場合、(処理水の)トリチウムは人間の細胞核に中に入り込み、DNA分子に最大限に近づきます。しかしこれは科学上、非常に珍しい現象です」。

つまり、トリチウムを含んだ水を一度飲んだからといって、トリチウムが人体に長期間、蓄積されることはない。トリチウムは、そのほとんどが水からできている人体に均等に広がり、生理学的半減期である10日ほどで、少しずつ体外に排出される。

しかし、費用対効果の高い技術を用いて(原発付近の汚染水からのトリチウム除去)、その害を完全に取り除くというのは現実的に可能なのだろうか?

十年にわたって続く課題

トリチウムが人々にもたらす危険性が低いとはいえ、東電が最新技術を用いてそれを排除しようとしていることは尊敬に値するが、この計画がどれほど早期に実現できるかは疑わしいとステパネンコ氏は指摘する。

「トリチウムの問題は福島原発事故が発生する以前からあったものです。スリーマイル島原子力発電所で商業用原子力発電史上最大の事故が発生した1970年代末、米国も同様の課題の解決を迫られました。東電によるトリチウムの分離技術に関する公募は、課題の実現が困難であり、解決法が依然、見つかっていないことを表すものです。しかし、21世紀の現在は、もっともシンプルな方法で状況を改善することができます。もっとも知られているのは、汚染水を水で希釈するという方法です」。
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ステパネンコ氏によれば、実際、これは単純ではあるもののかなり信頼できる方法だという。ただし、そのプロセスには非常に長い―ときに数十年もの時間がかかり、いくつかの段階を経なければならない。しかし、この方法が有益であることは明らかである。大量の放射能汚染水を一気に排出するのは、仕方ないことではあっても、環境への影響は最大となるからだ。

処理水からのトリチウムの除去が実現困難な課題であることを考慮すれば、今回の除去技術の公募は、東電にとってのイメージ戦略である部分が大きいと思われる。というのも、今後も効果的な技術が開発されなければ、汚染水を海洋放出する際の東電に対する責任も「薄まる」からである。

時間が市民を救う

ステパネンコ氏はさらに、福島原子力発電所の事故からすでに10年が経過した点にも注目している。トリチウムの半減期は12年強であることから、トリチウムの危険性は自然な形で消滅していくのである。

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