6月14日、英国海軍の駆逐艦「ディフェンダー」とオランダ海軍のフリゲート「エファーツェン」が「航行の自由を保証」し、6月28日から始まるNATO(北大西洋条約機構)による大規模な多国籍訓練「シーブリーズ」に参加するため、黒海に侵入した。
ロシアの国境侵犯に対し、ロシア軍が警告爆撃を行うほどの強い行動を起こしたのは初めてであり、このことは駆逐艦の侵犯事件そのものと同じくらい、ロシア、英国、米国で大きな反響を呼んでいる。
英国軍は当初、ロシア側から警告射撃も警告爆撃も受けていないとしていたが、その後、事実を認めた。また米国防省の報道官も声明を表した中で、同様の見解を表した。
今回の事件は、英駆逐艦の乗員の生命に危険が及ぶものであったことは明らかであり、責任はその指示を出したものにある。英国のボリス・ジョンソン首相は、これに関する記者からの質問に対し、明言を避けたが、「テレグラフ」紙は英国軍からの情報を引用し、事件の2日前に航行の指示を出したのは首相だったと伝えている。
一方、ロシアの新聞「イズベスチヤ」は、今後、こうした事件において、ロケット弾を用いた爆撃の使用をやめるとしたロシア国防省の意向を伝えている。ロシア領海における挑発行為は今後、さらに頻繁になると見られるが、重い弾頭の破片が数百メートルにわたって飛散し、思わぬ損害を及ぼし、深刻な軍事衝突を引き起こす可能性がある。
実際、今回の事件は「冷戦1.0」のピーク時のような性格を持ち、軍事的緊張の幕開けとなりかねないものだが、なぜ英国はそのようなリスクを冒したのだろうか。
駆逐艦には通常の情報収集的な任務が課せられていたと思われる。挑発に対し、ロシア軍がどのように反応するのかを評価し、「レッドライン(超えてはならない一線)」がどこなのかを探るというものである。しかも、この海域では黒海艦隊の演習が行われていた。なお、今回の事件発生時、上空には、米国の偵察機RS–135も飛行しており、ロシアミサイル防衛軍の戦闘機スホイ(Su–30SM)が緊急発進した。
また英国は、欧米諸国はロシアによるクリミア併合を認めておらず、軍事的手段を含め、ウクライナを支援すると強調した。
そして、英国の「ガーディアン」紙は、これらすべてはある意味で、モスクワ政府ではなく、中国政府に向けられたものだとも指摘している。
実際、駆逐艦「ディフェンダー」は、まもなく太平洋地域の同盟国との訓練に参加するため中国沿岸に向かう空母クイーン・エリザベスを中核とする英国海軍の多目的打撃群に含まれている。この訓練は中国に対し、「同盟としての強い意思」を誇示し、「航行の自由」の原則への忠実であることを示すよう呼びかけるものである。
しかしここで沸き起こる疑問は、もし同様の事件が南シナ海で発生した場合、中国がどのような行動を見せるかということである。あるいは尖閣諸島沖、極東の北方四島付近で発生した場合、日本はどのような行動に出るだろうか。いずれにせよ、こうした事件が少なくとも、極東における米中間の軍事的緊張を高める新たなきっかけとなることは明白である。