この秋、アンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トルソワ、アリョーナ・コストルナヤ、カミラ・ワリエワ、ダリヤ・ウサチョワ、マイヤ・フロミフの6人が、オリンピックシーズン2021/2022をスタートさせる。6人は、ひよこのようにぴったりとくっついて、エテリ・トゥトベリーゼコーチの下、「フルスターリヌィ(クリスタル)」の巣の中でひしめき合っている。
スポーツ界では、世界的なスター選手が、2人同じコーチについているだけでも難しいというケースがあるが(プルシェンコとヤグディンがミーシンコーチに、ザギトワとメドヴェージェワがトゥトベリーゼコーチに師事していたのは、その象徴的な例である)、今、トゥトベリーゼの下には6人もの選手から成る大群がいるのである。この氷上のひよこたち全員に、同じだけ注意を向け、同じだけコーチからの貴重な穀物の餌を与えるというのは、物理的に不可能である。
こうした状況において、誰もが精神的苦痛を感じずにいられるわけではない。絶対的な才能を持つ群れの中で生き残ることができるのは、もっとも精神的に強い者、あるいはもっとも目立つ者である。
おそらく、他でもない、他の選手よりも目立ちたい、そして世界に対し、「わたしは他のみんなと同じではない」というメッセージを発信したいという気持ちが、トゥトベリーゼ集団の2人の選手に、過激な外見の変化という深みに、文字通り、「頭を」突っ込ませることとなった。
カラー革命
今の世代のフィギュア選手の中で、最初に髪の色を大々的に変えるという実験に挑んだのはエフゲニヤ・メドヴェージェワだった。2018年にトゥトベリーゼの下を離れ、カナダのブライアン・オーサーの下に移るという衝撃的な移籍を決めた後、メドヴェージェワはフィギュアスケートとしてのキャリアだけでなく、外見も変化させたいと考えた。
2019/2020年のシーズンに、メドヴェージェワは劇的なイメージチェンジを図り、新たな姿で、ファンたちの前に現れた。髪の色をボルドーがかった赤に変え、「カナダの逃亡者」はより女性的に、さらにいえば、「経験豊富な婦人」すら想像させる大胆なスタイルへと変貌を遂げた。
しかし、わずか1年後にエテリ・トゥトベリーゼコーチの下に戻ったとき、メドヴェージェワはかつての姿でファンの前に現れた。髪はエレガントでスタイリッシュな栗色、ファッショントレンドに敏感で、外見を変える自己流の実験を試みるのではなく、ラグジュアリーなファッション雑誌の中に新たなイメージを模索し、ファッション界のプロたちと仕事をすることに重きを置いた。
ロシアの赤いロケット
しかし、エフゲニヤ・メドヴェージェワの赤い髪のストーリーには、予想外の続きが待ち受けていた。しかも、劇的なイメージチェンジを図るというアイデアを、現在のファッショントレンドに基づくのではなく、ティーンエイジャーたちの反逆の方向へと向かわせたのは、これまでいつもエフゲニヤ・メドヴェージェワに尊敬と共感の眼差しを向けていたアレクサンドラ・トルソワであった。
2020/2021のシーズン終了後、「ロシアのロケット」、トルソワは、エフゲニー・プルシェンコ・アカデミーには、入り口に鹿の角が飾られた骨組みの家での生活といくつかの銅メダル以外、彼女にとって輝かしいものはないことに気づき、元コーチであるエテリ・トゥトベリーゼの元に戻るという、多くの人にとって予期せぬ決断を下した。
「フルスターリヌィ」(トゥトベリーゼ門下のフィギュア選手たちがトレーニングしているスケートリンク)にできるだけ印象的に登場し、かつての―2020年初頭にプルシェンコの元へと移籍し、スポーツクラブ「サンボ70」の指導部の怒りをかったときの姿をできるだけ思い起こさせないようにと、トルソワは、メドヴェージェワのカラー革命のバトンを継いで、髪の色を明るい赤に変えることにしたのである。
それは大胆で、周囲を驚愕させるものでさえあった。メドヴェージェワの実験の場合は、「いったい何が起きたの?!」という敷居を超えるものではなかったが、トルソワは一気に両足でその敷居を跳び超えた。
16〜17歳という年齢は、人生でもっとも複雑な時期である。加えて10代である彼女たちは、ザギトワとメドヴェージェワを事実上、国際大会でのメダル争いではなくアイスショーに送り、その結果、自分自身と両親の野心や周囲からの大きな注目、そしてロシアの女子フィギュア界史上これまでにないほどの激しい競争のために、毎日ストレスを感じ、大きなプレッシャーにさらされているのである。
いたずら成功 「アリョーナ、あなたはいつも美しい!」
しかし、トゥトベリーゼ・グループのコーチたちは、トルソワの新たなイメージに対するキューブラー=ロス・モデルのすべての段階(否定、怒り、取引、抑うつ、需要)のすべての段階をなんとか乗り越えることができた。しかし、選手たちの絶え間ない移籍と帰還で弱っていた神経は、今度は落ち着きのないアリョーナ・コストルナヤの紫色の髪や「シリコン」を入れた唇というちょっとした気まぐれによって、粉砕されることとなった。
事実、アリョーナが2枚目の自撮り写真を公開した投稿では、唇の形が変わり、ヒアルロン酸注射をした後に必ず現れる「アヒル」のような形がはっきりと見て取れる。この後、コストルナヤは、激しい批判と否定の嵐に遭い、犬を抱いた写真だけを残して、インスタグラムに投稿し直している。
しかし、ピンクがかった紫の髪に厚ぼったい唇をしたアリョーナのイメージは、あらゆるソーシャルネットワーク上であっという間に拡散され、フィギュアスケート界のこの夏いちばんのスキャンダルを巻き起こすこととなった。
アリョーナ・コストルナヤの新イメージによる騒動は、ツイッターに、#AlionaYouAreAlwaysBeautiful(アリョーナ、あなたはいつも美しい)というアリョーナをサポートするためのハッシュタグが人気となるほどまでに広がった。その下には、「彼女を放っておいてあげて」、「彼女の体は彼女のもの」、「何があっても、彼女が大好き」などという内容の投稿が寄せられた。
このように、有名フィギュアスケーターたちの、髪の色を変えるいたずらや、唇の形を変えるという軽いトリックは大きな社会騒動を引き起こし、ある段階では、女性の権利を守るための社会運動の様相を呈するほどにもなった。
フィギュアスケートはポップカルチャーのようなもの
エフゲニヤ・メドヴェージェワは、2018年にトゥトベリーゼの元を去ったとき、裏切り者だという数多くの悪意ある非難を受けるというショックを受けなかったとしても、髪を赤く染めただろうか?
ロシアの女子フィギュア選手たちには、続いて、どのようなイメージチェンジの実験が期待できるだろうか?シェルバコワがスキンヘッドにし、ワリエワ、ウサチョワ、フロミフはピアスをし、顔には「トゥトベリハウス」と(選手たちが作ったTik Tokアカウントに敬意を表して)タトゥーを入れたりすることがあるのだろうか?
しかし、若い選手たちが、劇的なイメージチェンジをし、変化を遂げても、彼らが外見を変えることによってはけ口を見出そうとしている人生におけるストレスは、氷山の一角に過ぎないことがはっきりとしてくる。
彼女たちは単に、才能あるフィギュアスケーターで、大胆なティーンエイジャーで、おしゃれな少女で、魅力的な美少女であるだけでなく、最近、文字通り、ポップカルチャーに融合しつつあるフィギュア界の世界的スターなのである。
フィギュアスケーターたちは、ビリー・アイリッシュ、ブリトニー・スピアース、ミューズの音楽を使ってプログラムを演技し(しかもエキシビションではなく)、また典型的なショービジネスのスターのように、精力的にインスタグラムに投稿し、Tik Tokの動画を撮影し、テレビ番組に出演し、CMやその他のPRイベントに姿を表すなどしている。
これは、自身のトレーナーとしての才能と氷上のアーティストとしてのスキルを駆使し、少女たちを使って、何百万人ものファンを持つアイドルを作り上げ、スケートリンク「フルスターリヌィ」を本物の「スター工場」に変えたエテリ・トゥトベリーゼコーチの罪なのだろうか?
そして、彼女の「巣」に、人気選手たちが一斉に集う「トゥトベリハウス」ができあがった今、もちろん、ありとあらゆる方法で、他の人より目立とうとし始める者が出てくるときがくる。
こうした状況の中で、自身の姿を変える大胆な実験を行ったアレクサンドラ・トルソワとアリョーナ・コストルナヤを声援を送らずにはいられない。