福島の漁業関係者に対する新たな支援策は有効なのか? 福島県地域漁業復興協議会委員にお話を聞く

8月24日、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出計画に関連し、日本政府は漁業関係者に対する新たな支援策を取りまとめた。この新たな提案はどれほど有効なものになるのか。福島県地域漁業復興協議会委員を務める北海学園大学(経済学部)の濱田武士教授にお話を伺った。
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新たな支援策とはどのようなものなのか?

関係閣僚らによる会議で採択された漁業関係者に対する風評被害対策は、主に次の2つの方向のものとなるという。

濱田氏:「1つは ALPS 処理水を海に流して風評を生じさせないようにするということです。風評を生じさせないようにするというのは海に放出する処理水の安全性について、科学的な観点から説明する、リスクコミュニケーションということを徹底して、色んな人たちに話しかけるということを政府がやっていくという意味です。

もう1つは、風評が発生したら、それに対する対策をするということです。風評が発生した場合の対策としては消費が落ちないように色々と支援をしていくということと、基金を作って政府が魚を買い上げるというような内容です。」

今回の対策は評価できるものなのか?

濱田氏は、今回の方策はかなり熟考されたものに感じられるとの見解を示している。一方で、濱田氏は、現時点ではまだフレームワークしかなく、詳細は明らかになっていないため、現段階でその有効性について判断するのは時期尚早だと指摘する。

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濱田氏:「政府の方が今までよりもかなり細かく色んな対策を考えているということはこれを見て凄く分かりました。

もう一つ、目新しいのは、基金を作って、売れない魚を政府が買うというところまでのセーフティネットを考えているということです。ただ、フレームワーク、枠組みはちゃんと沢山できたということは分かりましたけれど、その政策の細かいところまではまだ十分にできていないということなので、これがどれだけ効果的なのかは現段階では何とも言えません。」

加えて濱田氏は、このような対策はいずれにしても、あらゆる手段で実現を試みる必要があると述べている。

濱田氏:「一方、個人的な意見ですけれども、風評を発生させないための仕組みづくりというのは、これはもうやるしかないということです。安全であるということを今まで以上に分かりやすく色んな手段を使ってやっていくことが大事です。たとえば、インフルエンサー、つまりすごく影響力ある人たちに話してもらうということ、こういう人たちにまでやっていくということを言っているぐらい色々な人の情報発信をしていくということです。どこまで効果が出るかわかりませんが、まったくやらないよりも効果としては多少出てくるのかなというふうに思います。」

漁業関係者はすでに賠償金を受け取っているが、残る問題は風評だけなのか?

2011年に事故が発生した後、福島の漁業関係者らは、不定期ではあるものの営業損失の賠償金を東京電力から受け取っている。そして事故以降、福島やその他、被害を受けた県の生産者は、「風評被害」と言う表現を使うようになり、それが広く使われるようになった。しかし濱田氏は、現在日本国内では、福島の魚に偏見を持っている人はほとんどいなくなっているいと指摘している。では福島の魚があまり売れていないのは何故なのか、ALPS処理水の海への放出による国内需要への影響はあるのか?

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濱田氏:「10年たっても震災前の状況に近づかない福島漁業の現状が風評被害によるものなのかどうかは判断が難しいです。『風評被害』とは、安全なのに原発事故由来の海の放射能汚染によって魚が危ないと思ってしまい、そういう意味で魚を買いたくないと言う人も出てくるという意味で使われていると思います。けれども、実は今、福島の魚を危険だと思っている人は日本には殆どいないんです。

ですが、福島の魚があんまり流通していない、そして売れられていない。それは、震災後、福島の魚を流通させなかったこと一方で、国内での魚の消費量がもう20年間落ち続けていて水産物マーケットが十分に満たされているからなのです。日本では色んなところから魚が東京に来ていますので、福島の一県分がなくなったところで、物が不足するという状況じゃないんです。海外からも魚も入ってきますし。しかも、魚に代わって肉の消費量は毎年上昇しています。

なので、福島の魚が売られていない理由が風評被害だけにあると言うのは今は無理があります。確かに、事故が起こって魚を流通させることができなくなったことで漁業者は被害者ですけれども、消費者が福島県の魚を食べないから売れないのかと言ったらそうではなくて、他の魚とか他の食品が十分にあって、福島の魚をわざわざ選んで食べるという理由がないんです。ALPS処理水が海へ放出されると、さらにその状況が悪化する可能性があります。」

このような市場の状況を変えるため、政府は販売促進支援のための措置を講じるとしている。

濱田氏:「国が販売促進支援をするというのは、量販店や鮮魚店で無理にでも売り場を作って、福島の魚を消費者の前に並べるようにすることです。それをしないと魚を買い控えられている状況が改善されません。

3〜4年前から、日本の大手のスーパー、イオンの店舗内の魚売り場のところに福島の魚だけを置くというコーナーが設けられことになりました。それは日本政府がお金を出して、その売り場に『安全ですよ』ということをちゃんと説明できる販売員を立てて、そのような販売促進の支援をやっています。東京ではもうすでに13店舗のイオンでそれが行われています。それが単発のイベントではなく日常的に行われますと、すごく効果的です。東京以外の地域にも広がっているところです。」

しかしながら、ALPS処理水の放出による風評被害に対する追加的な補償に関しては、風評被害であるということを認定し、それ相応の支払いを行うということに困難が生じる可能性がある。

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濱田氏:「基金について言いますと、政府が魚を買うということは、それはそれでやればいいんですが、実はものすごく難しいと思います。なぜかと言いますと、風評被害というのは実体がつかめないのです。

今回の ALPS処理水の放水でさらなる風評被害が出た場合に賠償すると言っていますけれども、そもそもさらなる風評被害と言っても、そんなのをどういうふうに判断するのかというのが分からないです。

元々魚が売れるか売れないかというのは需要と供給の関係で決まるので、福島の魚だけで決まるものではありません。他の地域の産地の魚がよく獲れれば、相場は下がりますし、他の地域で魚が獲れない状況、不漁だったら、これは相場が上がっています。そのような場面では震災後福島の魚でも高く取引されました。だから、福島のお魚だけでその値段が落ちたとかという、そこだけで風評被害を計測するのはほぼ不可能なのです。またその一方で福島県から遠く離れている地域の漁業者も魚価が落ち込んだら風評被害だとして訴えるでしょう。ですので、裁判が沢山起こってしまうのではないかと思います。」

スプートニク:今回の方策以外に政府ができることはあるか?

濱田氏:「政府ができることは、発表されたことぐらいだと思います。ただ、風評を確定するという作業はほぼ不可能に近いので、その風評を確定するかどうかというところを緩くして、ちょっと損失が出たらすぐ出してあげるみたいな形を取るしかないと思います。

あと、福島の漁業者は既に賠償の仕組みがあるので、そんなことよりも自分たちの魚が水産物マーケットで後回しになっていることの方がすごく心が痛んでおり、なんとかして欲しいことだと思います。賠償も大事ですが、それよりも大事なのは、科学的に安全だということなのですから、イオンとかそういう小売りの現場で福島の魚とか、風評被害にあったと言っているような地域の魚を積極的に販売促進する支援をしていくことです。流通業者が取り扱わないようになったら本当に売れなくなってしまうので、そういうふうにして、流通業者が取り扱う動機を政府がお金を払って、それを作ってあげるということが大事だと思います。」

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