オリンピックの閉幕後も残された問題:「多様性と調和」はなぜフィクションに終わったのか

9月5日、史上もっともインクルーシブで寛容な大会と位置付けられた東京オリンピック・パラリンピックが閉幕した。LGBT選手の参加者数は記録的なものとなり、大会ではレインボーフラッグもたくさん掲げられたが、この問題に対する日本人の考え方はほとんど変わっていない。なぜオリパラの開催国である日本が、「多様性と調和」という理想を実現することができなかったのか、「スプートニク」が取材した。
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『多様性と調和』

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このスローガンによって得られた成果もあった。オンラインメディア「アウトスポーツ」のデータによれば、東京オリンピック大会では、少なくとも185人の選手が性的マイノリティであることを公表し、またパラリンピック大会には34人のLGBTアスリートが参加した。これは、リオデジャネイロ大会での数を上回っており、過去最多となったが、ホスト国である日本から、LGBTをカミングアウトした選手は1人もいなかった。
2014年に見直された「オリンピック憲章」では、「性的指向」による差別が禁じられており、それぞれの国に対し、性的指向や性自認による差別の禁じる法を採択するよう呼びかけている。日本はホスト国でありながら、国内での法に関する状況は良いとはけして言えないものとなっている。

多様性を日本に求めてはいけない?

確かに外見上は多様性が全面に押し出されていた。オリンピック開会式で国歌斉唱を行った歌手のMISIAさんは虹色の衣装を身につけ、閉幕式では、リナ・サワヤマさんが「Chosen Family(選ばれた家族)」を演奏した。この歌の中には、「遺伝子や名字を共有しなくたっていい」という歌詞があり、日本にとっても重要であるLGBTや夫婦別姓の支持という問題について言及している。
しかし、多くの活動家らは、本当の変化はほとんどないと指摘している。LGBTQの権利や尊厳を守り、誰ひとり取り残さない社会の実現を目指す認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」の村木真紀代表はフェイスブックに投稿し、これについて次のように書いている。「曲は素晴らしかったです、が、LGBTQに関する法整備を急いでもらわないと、『多様性と調和』と言われても悲しくなるばかりです。『Chosen Family』が同性同士なら日本では法的に家族にはなれません」。
また選曲についても矛盾がある。開会式の楽曲を作曲した椙山浩一さんは、多様性について、「生産性がない同性愛の人達に皆さんの税金を使って支援をする。どこにそういう大義名分があるんですか」などと発言した。

潰された法案

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この春、「LGBT理解増進法案」をめぐる社会的議論が再開され、社会団体の間では、今年中にも法案が採択されるのではないかとの期待が膨らんだ。しかし、オリンピックの閉幕とともに、この法案は再び、見送られることとなった。なぜこのようなことになったのか。
自民党LGBT特命委員会が提案したこの法案は、与野党の間で調整され、国会で提出されることになっていた。しかし、自民党の複数の議員が、「差別は許されないものであるとの認識の下」という文言に断固反対した。また自民党の議員の中には、法案そのものに反対した者もいた。
たとえば、山谷えり子参議院議員は、トランスジェンダーのオリンピック大会への参加は「ばかげている」と述べ、簗和生衆議院議員は、「LGBTは種の保存に背く」と発言した。
2021年3月から4月にかけて、稲田朋美衆議院議員率いる自民党のグループが、法案の成立に向けた決意を示した。しかし、成立に向けた動きが進むにつれ、自民党の保守グループや世論からも声が上がるようになり、2007年と2008年の人権擁護法案のような廃案になった法案と比較されるようになった。一方、稲田朋美議員はこうした批判に対し、非常に残念に思うとし、人々を十分説得できなかった自分に非があると述べるに止まった。
LGBT法案は差別禁止ではなく、理解増進。産経新聞27日の阿比留瑠比氏の記事は事実誤認、歪曲だ。この法案を人権擁護法案と同じ危険性と弊害があるとし、私に取材もなく「宗旨変え」と批判。しかも圧倒的多数を占める党内賛成派の意見は全く紹介なし。この歪曲記事が与えた影響は大きい。強く非難する。 pic.twitter.com/GVlkF4Qzbh

​レインボーは誇大な宣伝なのか?

そして今、「多様性と調和」を掲げながらも、日本の与党が国内の性的マイノリティの権利を認めるつもりがないことは明らかである。社会団体や人権活動家は、法案の行方について懸念している。というのも、オリンピックのような大規模な国際イベントが、状況を前進させることができなかったとしたら、この問題を動かすことができるものなどないように思われるからである。
これに関し、オリパラ式典統括ディレクターの日置貴之氏は、日刊スポーツからの取材に対し、次のように述べている
「(記者がダイバーシティ&インクルージョンという言葉を)言えない段階でだめ」、「まあ、皆さんは日本人しか読まないメディアかもしれないけど(笑)。僕自身、海外でずっと生活してるので、やっぱりすごく不思議に思うところも日本にはある(笑)」といった、不遜な態度や多様性とは矛盾したような回答が物議を醸していた。
もちろん、オリンピックによって支持された人々の中で蚊帳の外に置かれたのは、LGBT擁護活動家らだけではない。日本のメディアは、オリパラのために建設された施設のほとんどは今年、赤字となり、経済的、社会的に見て、「負の遺産」になると指摘されている。
しかし、このような現状にもかかわらず、オリンピック・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長は先日の記者会見で、2030年の冬季五輪を札幌市で開催する意向を示し、「なんとか実現できれば」と述べ、また夏季五輪についても、「近い将来、また開催できたら」と発言し、議論を呼んでいる。
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