アジア企業の独占
世界における集積回路の需要は、現在、供給量を10〜30%上回っている。サスケハナ・ファイナンシャル・グループのデータによれば、大企業でさえも、集積回路の納入を最大で17週間も待機している状態であり、中小企業については言うまでもない。また同時に価格も上昇している。2021年の第二四半期から、30以上の半導体メーカーが自社製品の価格を値上げした。ここで否定できないのが、アジアの企業が市場を独占しているという事実である。
世界の集積回路の80%がアジアで製造されている。とりわけ主なメーカーとして挙げられるのは、台湾積体電路製造(TSMC)とサムスン電子である。市場のシェアはTSMCが54%、サムスンが17%となっている。TSMCはすでに自社製品の生産の優先順位を変更し、2021年の第三四半期には、アップルのためのプロセッサと自動車メーカーのための半導体製造を重視していくことを明らかにし、インテル、グーグル、ザイリンクスなど、その他の企業向けの集積回路は製造でき次第、出荷するとしている。
半導体不足は自動車の製造にも影響を及ぼし続けている。世界大手の自動車メーカーは、2021年の初頭に、生産台数の減少を余儀なくされるだろうとの見方を示した。半導体不足には、日産、ホンダ、フォード、フィアット・クライスラー、フォルクスワーゲン、スズキ、トヨタなども同様に影響を受けている。
不足状態の行く末
専門家らは半導体不足は2022年末、あるいはそれ以上続くだろうと予測している。
TSMCは自動車業界に対する半導体不足は2021年の末にはやや解消し始めるが、世界的な不足状態は、少なくともまだ1年は続くと見ている。インテル社のパット・ゲルシンガー社長は、2023年まで、集積回路業界の需要と供給のバランスが正常に戻らない可能性があるとの見通しを示し、またダイムラーも同様の見解を示している。ダイムラー社のオラ・ケレニウス社長は、2021年の末に状況の改善が若干見られるが、自動車産業における需要は2022年にも、供給を上回ることになるだろうと述べている。
いかにして危機的状況を打開するか?
多くの国々が新工場を建設することで問題を解決できると考えている。ここにあるのは、抑制の効かないグローバリゼーション時代は終焉を迎え、今後は地政学的リスクが高まっていく可能性は否定できないという考えである。米国政府は、TSMCとの間で、米国内の自動車製造およびその他の分野で必要な半導体チップの新たな工場を建設することで合意しており、最初の施設の建設作業はすでに開始した。
また米連邦議会上院では、半導体の国内生産の促進を目的として、地元のメーカーに、今後5年にわたり、520億ドル(およそ5兆7,000億円)という巨額を投じるという法案が可決された。
一方、EUはアジアと米国への依存度を低めるため、欧州での半導体生産工場の建設の可能性を検討している。とりわけ国家の支援策に民間の投資を合わせる計画が持ち上がっている。EUに加盟する19カ国はすでにこの計画を支持する考えを示しており、国や企業からの投資をまとめる仕組みを創設することで合意した。
一方、ドイツのボッシュは、半導体の需要が高まることを見越して、11億ユーロ(およそ1,418億円)かけて、ドレスデンに独自の半導体工場を建設し、2021年6月に稼働開始した。
また中国は、国家戦略「中国製造」の枠内で、ハイテク製品部門の外国への依存度を下げるため、2025年までに、アリババ・グループ、ファーウェイ・テクノロジーズ、センスタイム・グループを代表とするハイテク企業の開発に14兆ドル(およそ1,539兆円)を投資する。加えて中国は、TSMCのエンジニアらをより高い報酬でヘッドハンティングしようと試みているという。
かつて半導体製造で世界の首位に立っていた日本は、現在シェアを10%にまで下げており、政府は半導体部門の強化に向けた計画を取りまとめている。パンデミックにより、国際的なサプライチェーンが破綻し、世界的な半導体不足となったとき、日本が半導体を輸入に依存しすぎていること、またそれによるリスクが高いことは明白となった。こうした状況に対抗するため、日本政府はTSMCに対し、日本に製造拠点を設置することを提案した。TSMCとソニーグループに対する、回路線幅20ナノメートル(ナノは10億分の1)のロジック半導体の生産のための工場建設などに向けた総投資額はおよそ1兆円となる。工場建設は今年中にも終了し、2022年より新たな開発研究が開始される。
半導体の需要は増加の一途をたどる
投資会社キャピタル・ラブの業務執行社員、エヴゲーニー・シャトフ氏は、半導体の供給は少しずつ回復しているが、パンデミックによって状況は刻々と変化していると指摘している。
「第三四半期は、デルタ株の感染拡大により、半導体製造の劇的な回復は見られませんでした。需要を十分に満たせるほどの供給量に戻るのは2022年の後半以降になると見られています。というのも、集積回路は特定の企業(アップル、クアルコム、エヌヴィディア)が開発し、製造は、別の企業(TSMC、サムスン、インテル)の工場で行われているということが多いからです。集積回路の製造量を大幅に増やすには数ヶ月が必要で、新工場を建設するとなるとさらに歳月がかかることは言うまでもありません。集積回路は、ポリシリコン(多結晶シリコン)で作られた基板にプリントする形で作られています。1つの半導体を作るのには最大で6ヶ月を要するのですが、そのほとんどが結晶の『成長』に必要な時間です。加えて、当然、半導体の需要が増加すれば、価格にもその影響が現れます。これは需要と供給の法則です。しかも、これらの製品の需要が高まっていることから、半導体の需要は高まる一方です。デジタル化が進み、インターネット商品が増え、強力で効率のよい半導体が必要となる電気自動車の製造が増加しています。すべての自動車がどんどん『スマート』になり、ますます多くの半導体が必要となります。ハイテク製品はその『脳』である半導体で動くのです」。
悪用される可能性
こうした状況を悪用する者も当然出てくる。中国南部に位置する日本のIT機器製造開発のジェネシス・ホールディングスの工場は、正規のルートで集積回路を購入できないことから、アリババのサイトを通じて購入した。しかし、届けられた集積回路が不良品であることが判明。パッケージに記載されたメーカー名は正しかったが、性能はジェネシスが発注したものとは異なっていたのである。納入されたものが不良品であることが発覚した時点で、すでに支払いは完了していたが、納入業社と連絡を取ることはできなかったという。このような事例はこれが唯一ではない。こうした状況を受けて、半導体の真贋判定の需要が高まり、日本のOKIエンジニアリングは、機器メーカーが半導体デバイスを組み込む前に不良品をはじくことができるよう、このような真贋検査のサービスを始めた。OKIエンジニアリングは、これまでに100社ほどからの問い合わせがあったが、調査の結果、30%ほどの不正品が見つかったことを明らかにしている。