メルケル時代 ドイツ初の女性首相は何を残すのか?

2005年11月からドイツ首相をつとめるアンゲラ・メルケル首相がドイツ連邦議会選挙後、首相を引退する。彼女の政権時代は、すでに「メルケル時代」と呼ばれている。メルケル首相はドイツ初の女性の首相であり、社会主義国だった旧東ドイツ出身の初の首相である。
この記事をSputnikで読む
物理学と化学の専門家でもある彼女は、いずれかの政策の優位性を数字が物語っている場合、ポピュリズムや政党のイデオロギー的な考え方を排除し、常に事実と数字に基づいて判断を下してきた。また、メルケル首相は、自らの意思で、自分が選択したタイミングで首相を引退する初めての首相でもある。
メルケル政権4期を経て、ドイツがEUの中で政治的、財政的、経済的にリードしていることを疑う人はいない。ドイツの失業率は6%を下回り(2021年8月現在)、GDPはパンデミックの影響で低下したものの、世界銀行によると、カナダ、イギリス、フランス、日本を上回っている。
現在、ドイツはユーロ圏全体の鉱工業生産の4割を占めている。しかし、メルケル時代の最も重要な成果のひとつは雇用創出率の高さ、特に女性の雇用創出率だった。ドイツはG7諸国の中で働く女性の割合が最も高い国である。メルケル首相は、ドイツが最大の債権者であったギリシャを債務危機から救い、ヨーロッパへの難民流入やコロナ禍の悪影響にうまく対処したとして高い評価を得ている。しかし、後者については、ドイツ国内で多くの抗議活動を引き起こしたのも事実だ。
連邦選挙後のドイツにメルケル首相が残していく遺産については、評価が割れている。メルケル氏が首相として成し遂げた絶対的な成果は何なのか?どんな失敗があったのか?ロシア科学アカデミー世界経済研究所(IMEMO)欧州連合研究部門の責任者であるユーリー・クワシニン氏に話を聞いた。
「メルケル首相はEUの発展、欧州統合、そして予算、財政、銀行の統制が不十分だったユーロ圏の強化に計り知れない貢献をしました。彼女の努力の結果、EUは財政義務の遵守を監視するようになり、投資家の不信感という危機を乗り越えられたのです。2015年、メルケル首相は、国民の激しい反対にもかかわらず、シリア、アフガニスタン、イラクの難民に国境を開放しました。2016年の春には、トルコの難民キャンプへの資金提供でエルドアン大統領と合意にこぎつけ、難民の流入は減少に転じました。これでEUへの不法移民の問題が完全に解決したわけではありませんが、急性期は過ぎ去ったと言えるでしょう。メルケル首相の下では、国内の経済政策に深刻なショックはありませんでした。ドイツは2008年の金融危機を乗り切り、2020年のパンデミックによる危機も、消費者の需要を喚起することで比較的うまく乗り越えようとしています。家計の収入はこの1年半で増加しています。エネルギー政策では、石炭や原子力発電からの脱却が最大の成果です。その背景には、環境安全保障や、福島原発事故後の原子力災害の脅威があります。メルケル政権下のドイツは『グリーンエネルギー』とガスに主眼を置きました。アメリカだけでなく、ヨーロッパの一部のパートナーからの反対があっても、メルケル首相は国益の名の下にロシアと『ノルドストリーム2』の契約を締結しました。彼女の人となりについて言えば、汚職や陰謀や良からぬ行動で非難を受ける隙を一切与えませんでした。その意味で、彼女は非の打ち所のない政治家として歴史に名を残すことになるでしょう。」
メルケル首相のトレードマーク、ひし形のジェスチャー
クワシニン氏はネガティブなトレンドとして、人口動態、イノベーション分野での先進国に対する遅れ、メルケル首相が主導したEUとアメリカの自由貿易協定(Transatlantic Trade and Investment Partnership)の頓挫を挙げた。
「2020年、ドイツでは9年ぶりに人口増加がみられませんでした。移民労働者に頼らざるを得ないのですが、同じ年の移民の数は減っています。これはすでに国家的な問題になりつつあります。 経済的には、ドイツは自動車や医薬品などの分野で競争力を維持していますが、革新的な製造業ではアメリカのほか、中国にさえ大きく遅れをとっています。大きな失敗としては、EUとアメリカの環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)の頓挫が挙げられます。ドイツは北米市場に大きな期待を寄せていましたが、双方の保護主義が障害となり、協定の締結には至りませんでした。EUとカナダの同様の協定、アメリカとアジア太平洋諸国のTPPは締結されたにも関わらずです。」
先日、国際的な調査会社のイプソス社が、ドイツ首相としてのメルケル氏の業績をどう評価するかを問うアンケート調査を28カ国で実施した。メルケル首相の業績を肯定的と答えたのは回答者全体の58%で、ドイツに限ると67%だった。最も評価が高かったのは欧州の隣国で、オランダ(77%)、フランス(75%)、ベルギー(75%)。アジアでは、インド(71%)と中国(67%)が最も評価が高かった。また、ルケル首相への評価が最も低かったのは日本(42%)、アメリカ(41%)、マレーシア(37%)である。調査会社によると、このような低い評価の原因は、メルケル首相の活動がこれらの国ではほとんど知られていないためだという。
コメント