2021年6月、スイス、フランス、ドイツ、リヒテンシュタインから来たウイグル人やチベット人の団体が、スイス・ローザンヌにあるオリンピック博物館の前で、デモを行い、北京五輪のボイコットを呼びかけた。
デモの参加者らは、ウイグル人やその他のイスラム教徒を中心とした少数民族の権利を蹂躙しているとして中国政府を非難している。
一方これに対し、中国はウイグル人に対する措置について、人権の侵害とは考えていないとしている。中国政府は、多くのウイグル人は社会規範を遵守せず、テロ行為を行っているため、再教育施設で拘束されているとの立場を示している。
中国ではこのプロセスは「過激主義の一掃および社会的安定の維持のための戦い」と名付けられている。しかし、世界において、中国のこうした立場に同意する者はほとんどいない。
政治vs スポーツ
社会で始まった北京五輪ボイコットをめぐる協議は、時とともに、オーストラリア、米国、カナダ、英国など一連の国々の政府周辺へと広がっていった。ちなみに、これらの国の首脳らは、すべての「橋」を燃やしてしまうことがないよう期待している。たとえばカナダのジャスティン・トルドー首相は、2022年の北京五輪を、人権遵守問題をめぐって中国に圧力をかけるために利用することを提案した。トルドー首相は、中国は「国際社会が共同戦線をはれば、中国は自国の政策を変更する可能性がある」と指摘しつつ、北京五輪をボイコットしても、中国の人権状況を改善できるわけではないとして、北京五輪にカナダの選手が出場しないということはないとしている。
一方、米国は2022年の北京五輪を外交的にボイコットする可能性がある。つまり選手団は出場するが、政府の代表などは参加しないということである。これに関する法案は6月8日に上院で採択されているが、バイデン大統領が署名を行って初めて発効する。しかしながら、米国オリンピック・パラリンピック委員会は、ボイコットには反対であるとの立場を表明している。米国オリンピック・パラリンピック委員会のサラ・ハーシュランド最高経営責任者は、「オリンピック・パラリンピック大会のボイコットは、地政学的問題の解決にはならない。どうか選手にチャンスを与えてほしい」と述べている。
それより前に、英国のボリス・ジョンソン首相は、中国で人権侵害問題が存在することを認めつつ、オリンピックをボイコットすることはないとし、英国は中国に対し責任を求めていくための国連の枠内での国際的な行動を指揮していると述べた。
日本の立場
せめて外交的ボイコットを、との呼びかけに、日本政府は現時点ではいかなる反応も見せていない。日本政府は今後何らかの措置を講ずる可能性があるのだろうか。こうした疑問について、ロシアスポーツジャーナリスト連盟の総裁で、国際スポーツ・プレス協会(AIPS)の副会長でもあるニコライ・ドルゴポロフ氏にお話を伺った。
「ボイコットや開催地の変更、中止を求める声が上がらないオリンピックなどほとんど存在しません。しかもこうした試みが成功した試しはありません。日本政府はこのような呼びかけにはまったく反応しないでしょう。自国民のかなり力強い抗議による圧力に耐えたのです。今回のような抗議行動は2022年のオリンピック開催直前、あるいはその後も続くことは間違いありません。しかし、どのデモも失敗に終わるでしょう。そうでなければ、スポーツは国に対する政治的圧力の人質であり、手段となってしまいます。『政治と切り離したスポーツ』というコンセプトは、オリンピック憲章にも記されているものです。最終的にはすべての国が選手団をオリンピックに送ることになるでしょう。政府関係者が出席するかどうかは、それぞれの国が決めることであり、もしも首脳が北京を訪れないとしても、それが人権問題に関連した理由であるとは言い切れません。しかも、9月29日に開かれた国際オリンピック委員会では、大会では、東京五輪同様、新型コロナウイルス感染予防策として、観客は中国本土在住者のみとし、同伴者、政府関係者らの数は最低にまで削減すると発表されています」。
国際オリンピック委員会は、政治的な問題においては中立の立場を貫く義務があると強調している。「オリンピック大会は、政府ではなく、国際オリンピック委員会が管理している。国際オリンピック委員会は、各国のオリンピック委員会に参加への招待状を送付する。つまり、五輪への招待は、五輪を組織する国の政府から出されるものではない。国際オリンピック委員会の組織、進行において、開催国の首脳が口にすることができるのは、公式に大会の開会を宣言することだけである。また受賞式でさえも、政治家が何らかの役割を果たすことは許されていないのである。