1990年、岩田さんは留学のため単身ロシア(当時はソ連)にやってきた。30年前は、外国人、それもアジア人がロシアの国立劇場で大舞台に立つことは考えられなかった。閉鎖的なバレエ界において岩田さんは、血のにじむような練習を重ねて役を勝ち取り、差別をはねのけ、道なき道を切り開いてきた。
岩田さんは、現在のバレエには、ソ連時代にあった伝統的なものが失われつつあり、以前に追い求めていたようなバレエの本質が少し変わってしまった、と危機感をのぞかせる。会見で、バトンを渡したい後継者はいるか?との質問に対し「全員」ときっぱり答えた岩田さん。自身が偉大な指導者から得た知識や経験を、意欲のある若手に惜しみなく伝えていくつもりだ。
大使公邸にて授与式。岩田守弘さん(左)と上月豊久駐ロシア大使(右)
© 写真 : Embassy of Japan in Russia
2019年にニージニー・ノヴゴロドにある現在の劇場で働きはじめたが、間もなくコロナ禍が襲い、劇場が使えず、先が見えない中で自宅レッスンを余儀なくされたこともあった。それだけに、舞台を上演できることは、岩田さんとダンサー達にとって大きな喜びだ。今年4月には、自身の50歳記念公演で情熱がほとばしるソロの踊りを披露した。岩田さんは現在指導しているダンサー達について「才能豊かで真面目で、規律正しい」と評している。
年末には岩田さん新演出の「くるみ割り人形」の公演を行なう。国際交流基金の協力により、オンラインでの配信も予定している。今後も、白鳥の湖など代表的なクラシック作品を復興・強化し、劇場の格にふさわしいよう、更に演目を充実させるつもりだ。
上月大使は「日本のバレエ界はロシアのおかげで発展・成長してきた」と指摘し、バレエ以外でも、2019年にチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で2位に輝き、ロシア音楽界を代表する指揮者ワレリー・ゲルギエフ氏と共演も果たしている藤田真央さんの活躍や、ここ数年で日露合作映画や日本をテーマにした展覧会がロシアで成功していることを挙げ、芸術を通した日露の結びつきはより深まっていると話した。