オリンピックはスポーツか政治か?
米国のジョー・バイデン大統領による中国五輪の外交ボイコットには賛否両論がある。
この外交ボイコットに対しては、米国の上下両院がともに支持を表明したが、英国、カナダ、豪州など、米国の主要な同盟国からの一致した賛同は得られなかった。たとえば、米国の政治専門紙「ザ・ヒル」によれば、フランスはスポーツイベントを、人権問題に関する懸念を表明するなどといった政治目的で利用することには反対であるとして、北京五輪にも外交官を派遣することを明らかにした。
一方、五輪のボイコットに賛同している組織、団体もある。非政府組織、グローバル・イマーム評議会(イスラム教徒の信仰指導者)は、北京五輪への参加および出席を禁止するとの立場を表明した。その理由について、評議会のサイトで発表された声明では、中国に住むウイグル族のイスラム教徒が抑圧されていることによると説明されている。
またこの声明では、北京五輪への参加と出席は、「ウイグル人の大量虐殺と民族浄化を行う権威主義的で抑圧的な政権の利益に直接つながるものだ」と主張されている。
一方、北朝鮮問題をめぐって中国と協力関係にある韓国は、公式的にはボイコットを表明していないが、国民たちは、独自の方法で中国への抗議を示している。
最近、韓国では、人権活動家らが、オリンピックの開催期間中に、「くまのプーさん」を見ようと呼びかけ、これが大きな賛同を得つつある。1月11日、韓国紙「朝鮮日報」に掲載されたインタビュー記事で、米国の北朝鮮人権活動家で、北朝鮮自由連合の代表であるスーザン・ショルティ氏は、「オリンピック期間に合わせて、オリンピックの試合を見ない代わりに、『くまのプーさん』と、1989年天安門事件を描いたドキュメンタリー、中国に住む脱北民の試練と苦難を描いた映画『クロッシング』などを視聴しようというキャンペーンをおこなう計画」だと述べた。またショルティ氏は、北京オリンピックのスポンサー企業に対する「不買運動」も繰り広げる計画だと明かし、北京オリンピックを「大虐殺オリンピック(genocide Olympics)」だと批判した。
ディズニーのキャラクターである「くまのプーさん」は、中国では、反政府、反習近平の象徴となっていることから、タブー視されており、メディアやインターネットでも検閲の対象となっている。インターネットでは、習国家主席が各国首脳と会談している姿がプーさんのアニメを使った投稿も見られる。
中国の最大級検索エンジン「百度(バイドゥ)」で、「プーさん 習近平」というキーワードを入力しても結果は何も表示されない(グーグルやヤフーなどの検索エンジンでは多くの結果が得られる)。
中国でのこうした動きを受けて、フィギュアスケートの羽生結弦選手のファンたちの間では、北京五輪で応援グッズとして、プーさんを会場に持ち込み、羽生選手の演技後に、いわゆる「プーさんシャワー」を浴びせることができるのかという疑問の声が上がっている。
中国でのプーさん禁止に関するニュースへのコメントでは、羽生選手の演技中にリンクの手すりにいつも置いてあるいわばお守りのようなプーさんは一体どうなるのかという問いかけも見られる。ほかにも、コメントには次のようなものがある。
「くまのプーさんの着ぐるみを着て開会式に参加したら、中国共産党は国内向けには放送させないと思う。全競技でプーさんを着てほしい。そうすれば、中国では北京五輪はなかったことになるんだろう。面白いからやってみてほしい。」
「羽生結弦選手の演技後、「くまのプーさん」が、ガンガン飛び交ってほしい。」
「習近平なんかと似ているなんて言われて、プーさんが可哀想だな。」
「羽生結弦さんは愛用のティッシュケースをどうするのかな(笑)」
日本人でプーさん持って行こうという人はいないだろうけど、もしも行くつもりなら先に遺書を書いて行ったほうがいいと思う。それから日本に迷惑のかからないように救出不要の念書も書いておいて欲しい。
ファンはどうするべきなのか?
北京五輪では、新型コロナウイルスの感染予防対策により、外国人の観客は入れずに行われることになっており、会場に入れるのは中国市民だけとなっている。
日本のファンたちは北京に行けないものの、羽生選手は中国でも高い人気がある。さらに、演技後にプーさんのぬいぐるみをアイスリンクに投げ入れる「プーさんシャワー」は、2014年のグランプリシリーズの中国大会から始まったとも言われている。中国のファンたちがプーさんを会場に持ち込めば、その映像は世界中のテレビに映し出されることになる。しかし、日本のインターネットでは、一体それは安全なのかという議論も持ち上がっている。そんなわけで、フィギュアスケートファンたちは、羽生選手が4回転アクセルを成功させることができるかどうか、そして3個目の金メダルを手にすることができるかどうかを見守ると同時に、ファンたちの愛とサポートの印である黄色いプーさんのぬいぐるみが、羽生選手のために投げ入れられるかどうかという点にも気を揉むことになりそうだ。